THE RAKE VISITS: THE FURKA PASS WITH ASTON MARTIN

アストンマーティンと訪れる、スイス・フルカ峠

October 2022

フルカ峠は、スイス・アルプスにある標高2,436メートルの峠である。

ジェームズ・ボンド映画『007/ゴールドフィンガー』(1964年)の舞台となったこの聖地を、最新のアストンマーティンと訪れた。

 

 

by BRANDON HINTON

 

 

 

 

 映画『007/ゴールドフィンガー』(1964年)の公開から60年近くの時を経て、THE RAKEは、ジェームズ・ボンドとアストンマーティンという、映画界と英国文化において最強のパートナーシップを祝うため、スイスへ招待された。数々のアストンマーティンによるスイス・アルプスでの3日間のドライブ、劇中で有名なフルカ峠でのピットストップ、そして誕生100周年を迎えたイタリア、モンツァ・サーキットで行われた2022年F1シーズン第16戦などを楽しんだ。

 

 初日の朝、ジュネーブで目覚めた私は、世界最強のSUV、アストンマーティンのDBX707のキーを手渡された。アストンのSUVだって?  確かに、目をつぶってアストンマーティンを思い浮かべても、SUVは出てこない(2番目でもない)。

 

 窓を開けて素早くシフトダウンし、4.0リッターツインターボV8を実感するために、少し傲慢なまでに急加速する。巡航速度にまで達したとき、疑問は全て消え去った。私はすぐに、この高床式ヴァンテージはすべてのサッカーパパにとって夢のクルマであると実感した。

 

 

 

 

 

 数時間後、230年の歴史を持つ高級時計メーカー、ジラール・ペルゴの本社を訪れ、高級時計製造の背後にあるクラフトマンシップを発見するユニークな体験をした。トゥールビヨンの組み立てを担当する世界最高の時計職人たちが私を迎えてくれた。スリーゴールドブリッジを備えたトゥールビヨンの精度が目の前で組み立てられるのを目の当たりにし、すっかり魅了されてしまった。

 

 ジラール・ペルゴを出発してレマン湖を回り、スイス・アルプスの曲がりくねった道を下り、魅惑のスキーリゾート、クラン・モンタナにある高級ホテル、クランアンバサダーに到着した。ネグローニを片手に、雪をかぶった山々の景色に息を呑のみながら、一日を終えた。

 

 

 

 

 

 アストンマーティンとジェームズ・ボンドというふたつの英国を代表するアイコンの組み合わせはパーフェクトだった。ジェームズ・ボンドが、その代名詞であるDB5のステアリングを握るのは、シリーズ3作目だった。

 

 セットデザイナーのケン・アダムスがアストンマーティンに何度も電話をかけた末に、DB5のプロトタイプが初めて『007/ゴールドフィンガー』のセットに持ち込まれた。007がボンドガールのティリー・マスターソンと彼女の赤いマスタングを追ってフルカ峠を走ったのは有名なシーンだ。

 

 

 

 

 今日の相棒、ヴァンテージF1エディション・ロードスターのGPSにフルカ峠を入力する。ショーン・コネリーの最高の瞬間を58年後の現在に再現すべく、まだ静かなクラン・モンタナの町を走り、フルカへと向かった。ルーフを下ろし、標高2,429mの峠を登りながら、38kmに及ぶタイトカーブとスイッチバックを走り抜けた。

 

 4.0リッターV8ツインターボ・エンジンは、渓谷に響き渡る優雅な音色で、道行く人の目を楽しませながら、コーナーからコーナーへと抜けていく。スーパーカーの心臓をエレガントな曲線のボンネットに隠し、平然としたエレガンスを保っているのがアストンマーティンの魅力だろう。

 

 フルカ峠の下りは、手に汗握るものだ。上りとは異なり、道は狭く、コーナーはブラインドで、対向するバイクやクルマ、トラックとすれ違うため、シフトダウンとハードブレーキングを強いられる。乗り換えたDB11ロードスターは、上りのヴァンテージの弟分で、GT、スポーツ、スポーツプラスの3つのモードを切り替えると、刻々と変化する峠道に合わせて瞬時に車の特性を変えることができる。

 

 峠を下りると、アンデルマットという小さな町に入り、ゴールドフィンガーの聖地である、ボンドとティリー・マスターソンが別れたガソリンスタンドに立ち寄った。この日の最終目的地であるルガーノ湖畔の美しい趣のホテルに到着すると、ちょうど夕日が湖に沈むところだった。私は今日、ボンドと同じ道を走るという少年時代からの夢のひとつを叶えることができた。

 

 

 

 

 翌日は、アストンマーティンのF1レースへの復帰を記念してデザインされたヴァンテージF1エディションに乗り込んだ。行き先はモンツァ・サーキットだ。私にとってヴァンテージは、アストンマーティンのすべてを体現している。エレガントで、パワフルで、挑発的。ルガーノからモンツァまでのトンネルには、ヴァンテージの甘美な加速音に混じって私の楽しげな笑い声が響いていたことだろう。

 

 開場100周年を迎えたモンツァは、フェラーリの熱狂的なファンが多いことでも知られ、毎年注目のレースとなっている。結果はレッドブルのマックス・フェルスタッペンが優勝、シーズン11勝目をあげた。2位にはフェラーリのシャルル・ルクレール、3位にはメルセデスのジョージ・ラッセルが入った。2台のアストンマーティンは残念ながらリタイアしてしまった。

 

 私はこの3日間の試乗を振り返り、こう結論づけた。アストンマーティンにスペックは要らない。もちろん、スペックには意味があり、尊重すべきだ。しかし、アストンマーティンの魅力はそこではない。アストンマーティンを運転することは、ひとつのラグジュアリー体験なのだ。

 

 アストンマーティンは、颯爽としたライフスタイルのシンボルであり、ディテールへのこだわりを持つ人々のためのアート作品である。何よりもそれは、英国流のエレガンスを体現している存在なのだ。