THE BOYS OF SUMMER
夏の太陽のように—サンスペルの魅力
August 2025
太陽のように輝くアパレルブランド「サンスペル」は、ポストパンデミックのファッションの波に乗っている。ブランドのCEOとデザインディレクターが、その成功の秘訣を語る。
author nick scott
名前と実態がこれほど見事に一致する例はそう多くない。「サンスペル(Sunspel)」というブランドネームには、気温が上がると自然と惹かれてしまう。軽やかな装いへの欲求を呼び起こす響きがある。
実際には、この社名が採用されたのは1935年のことだ。それ以前の75年間は、ノッティンガムで創業したアンダーウェアと靴下のメーカーとして、「トーマスA.ヒル リミテッド」という素っ気ない社名を名乗っていた。
サンスペルは19世紀後半に、労働者の作業着だったTシャツを高級衣料へと進化させたブランドである。第二次世界大戦中は英国植民地の最前線で戦う兵士たちにアンダーウエアを供給していた。戦後の1947年には、創業者の曾孫であるジョン・ヒルが新婚旅行で訪れた米国でボクサーショーツに出会い、英国へ持ち帰った。
さらに1954年に発表した「リヴィエラ・ポロシャツ」で、ポロシャツをスポーツウェアからラグジュアリーなカジュアルウェアへと格上げした。リヴィエラ・ポロシャツは、映画『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)でダニエル・クレイグの見事な胸筋を包んでいる。
他にもローリング・ストーンズやブラッド・ピットなど、サンスペルの愛用者は枚挙にいとまがない。
2024年ハンガリー・グランプリで、サンスペルのループバック・スウェットシャツを着用する俳優ブラッド・ピット。
現在、サンスペルはハロッズ、セルフリッジズ、リバティ(以上英国)、ボン・マルシェ(フランス)、伊勢丹(日本)、ノードストローム(米国)といった世界中の一流小売店250店舗で取り扱われている。最近ではロンドンに、コヴェントガーデン・フローラルストリート店、さらにキングストン・アポン・テムズ店をオープンした。昨年末にはジャーミン・ストリートにて、オーダーメイドのTシャツサービスも開始した。
サンスペルの成功の秘訣は何か。2023年にCEOに就任したラウル・ヴェルディッキはTHE RAKEにこう語った。
「それは流行ではなく、本物志向、多用途性、そして真のクラフツマンシップへの現代的なニーズに応えることです。特に今の時代、世界情勢の不安や生活費の高騰が、長く価値を保ち、時代を超えるスタイルへの欲求を強めています。まさにそこにサンスペルは響くのです」
控えめなエレガンスを追求することは、サンスペルの使命だとヴェルディッキは言う。「私たちはその哲学をワードローブ全体に反映させています。アイコニックなTシャツやポロシャツから、美しく仕立てられたニットウェアやテーラリングまで、すべてのアイテムは洗練されたシンプルさに貫かれ、着る人に静かな自信を与えるのです」
サンスペルのボクサーショーツの広告(1942年、1949年、1956年より)。
デザインディレクターのデイヴィッド・テルファーは、ブランド創業時に確立されたプリンシプル(原則)こそが、ブランドの価値を保つ鍵だと語る。
「創業者のプリンシプルは当時として非常に先進的で、今もなお共感を呼びます。それは最高級の原材料を用い、比類なき細部へのこだわりを持ち、日常使いの製品を作り上げるということです。それが私たちのデザイン哲学となっているのです」
「初期の製品の多くは、最高品質のコットン、ウール、シルクで作られたアンダーウェアでした。これらのアーカイブは現在のコレクションにも影響を与えています。『快適さ』こそがブランドの核となるものです。私たちが長い間扱っているジャージー素材は、現代的なカジュアル冬用テーラリングにも応用することが出来ます。ボイルドウールジャージーなどで作られたアウターウェアが、そのいい例だといえます」
テルファーは、長年培ってきた生地開発力がブランドの大きな強みであるという。
「繊維から最終仕上げまで自社で開発し、完全なトレーサビリティと比類ない品質を保証する長い歴史を持っています」と胸を張る。
サンスペルの2025年春夏コレクションより。
サンスペルは、1914年にレース編み機を改良してセルラーコットン生地を発明。1937年にはクラシックTシャツ用の双糸ロングステープル・ジャージー生地を、1950年代には経編メッシュを開発するなど、生地メーカーとしての輝かしい実績を誇っている。
「1937年以来、ノッティンガム近郊のロングイートンでTシャツ工場を運営してきた経験は、ブランドの大きな財産です。この深い知見によって、英国の熟練職人との協業を可能にしています。例えば、スコットランドのラムウールやシェットランドを使ったセーターや、ノーサンプトンのチーニーとのコラボレーション・シューズなどです。さらに視野を英国外にも広げ、イタリアや日本の著名な生地工場、ポルトガルの優れたパートナーとも協力しています。その好例が、シーアイランドコットン・カシミアのニットウェアです。最高級のコットンとカシミアをブレンドし、通年着られる汎用性の高いピースを生み出しています」
「サステナビリティ」についても抜かりはない。この言葉は、環境面だけでなく、時を超えて受け継がれる哲学を将来にわたって守り抜くという、サンスペルの姿勢そのものを表している。
「Tシャツやリヴィエラ・ポロシャツといったコアアイテムでさえ常にアップデートされており、現在では、栽培農場まで完全にトレース可能なスーピマコットンを使用しています。これにより品質だけでなく、持続可能な供給源も確保されているのです」
創業当時から伝わるクオリティへのこだわりを頑なに守りつつ、常に新しいチャレンジを怠らない。サンスペルはそれ自身が、太陽のように輝くブランドなのであった。
サンスペルの定番商品。最高品質のスーピマコットン製、各色あり。左:クラシックTシャツ ¥16,830 右:リヴィエラ・ポロシャツ ¥25,080 both by Sunspel












