THE ART OF TAILORING

アート・オブ・テーラリング
サルトリアルの人気メゾンを巡る旅 Part 1

May 2022

イギリス、フランス、イタリア……。

それぞれの国を代表するブランドを解説しながら、アート・オブ・テーラリングの世界を探求していこう。

 

 

 

fashion director MELISSA JANE TARLING

by CHRIS COTONOU

photography BRANDON HINTON

 

 

ウール製ダブルブレステッド・タキシードジャケット、ウール製タキシード“マニー”トラウザーズ、コットン製プリーツ・ドレスシャツ、シルクサテン製セルフタイ・ボウタイ、ブラック“マーフィー”ローファー all by Rubinacci / The Rake スターリングシルバーとオニキスのフラット・カボション・カフリンクス Asprey / The Rake

 

 

 THE RAKEでは、テーラリングは真の芸術であり、顧客と職人との間の創造的かつ個人的な交流であると考えている。他の芸術と同様、何世紀にもわたって作家たちがトレードマークを生み出し、貴重な家宝のように、世代を越えて受け継がれ、洗練されてきた。伝説的なスター、リノ・ヴァンチュラが銀幕の中で着ているチフォネリのジャケットは、今日若いパリジャンが着るチフォネリと同じショルダーラインを共有しているのだ。そのDNAは不変なのである。

 

 THE RAKEの友人でありインフルエンサー、マティアス・ルフェーヴルと彼のパートナーであるミュージシャン、シインデレラ・バルタザールの写真で証明されるように、テーラリングの芸術は作り手と同様に、着る人によっても表現される。彼らのアプローチはロックンロールと若さだ。音楽的なアイコンとモダンなロンドンのシルエットの、両方からインスピレーションを得ている。

 

 

グレイのウール製ピンストライプ・シングルブレステッド・ジャケット、ホワイト&レッドのストライプシャツ、ベージュのフローラル・プリントタイ all by Cifonelli グレイのピンストライプ スーパー 170’s トラウザーズ Lorenzo Cifonelli for The Rake 金箔とスターリングシルバーのタイクリップ Asprey / The Rake ブラックカーフの“ワット”ジョッパーブーツ Baudoin & Lange

 

 

 

 

Cifonelli, Paris

チフォネリ(パリ)

 

 ジャック・デュトロンとセルジュ・ゲンスブールの影響は、フランスの首都パリに、今もなお残っている。オートクチュールの巨匠たちのモードと、シンプルなテーラリングを融合させた彼らのパーソナルスタイルは、まさにパリジャンそのものだ。そのため、同時代のミュージシャンや俳優の多くがメゾン・チフォネリの門を叩いているのだ。

 

 創業142周年を迎えたメゾンは、特徴的な“チフォネリ・ショルダー”で知られている。ファッションデザイナーのカール・ラガーフェルドはかつて、その大きく盛り上がった肩山について、「1マイル先からでも、その形を見分けることができる」と言ったほどだ。最高の縫製技術は、世代を超えて受け継がれている。そのスタイルは細身で、時に華やかで、サン-ジェルマンのテラスで寛ぐクリエイターたちのトレードマークとなっている。

 

 

ピンクのウール製シングルブレステッド・ジャケット、ピンクのウール製トラウザーズ、アイボリーのポイントカラー・シャツ、グリーンとブラウンのシルク・ハンカチ all by Edward Sexton / The Rake ローファー Baudoin & Lange

 

 

 

 

Edward Sexton, London

エドワード・セクストン(ロンドン)

 

 男性のテーラリングに大きな影響を与えた1960年代のロンドンの“スウィンギングスタイル”を現代に復活させているのが、ロンドンのテーラー、エドワード・セクストンである。エドワード・セクストンは、サヴィル・ロウの有名なナッターズ・スタイル、つまりウエストを絞ったジャケットにワイドラペルとフレアーパンツを組み合わせたスタイルを創造した。ミック・ジャガーやエルトン・ジョン、デヴィッド・ボウイ、その他多くの英国ポップカルチャーのヒーローたちが、セクストンの服を求めた。ミック・ジャガーの有名な白いウエディング・スーツは、ナッターの手によるものだ。

 

 このマスターテーラーは、現在のミュージシャン達にも服を提供し続けている。彼らは、セクストン独特のロックンロール・タッチを愛し、先達と同じように敬愛の念を抱いているのだ。

 

 

ベージュのコットン&リネン製アンコン・ジャケット、ベージュのコットン&リネン製トラウザーズ、ブラウンのカシミア&シルク製ポロall by Stile Latino ローファー Baudoin & Lange 赤いファインボーンチャイナの灰皿 Asprey / The Rake

 

 

 

Stile Latino, Naples

スティレ ラティーノ(ナポリ)

 

 スティレ ラティーノは、ナポリスタイルの創始者であるヴィンチェンツォの孫であり、その名を継いだヴィンチェンツォ・アットリーニによって設立された。伝統的なスーツからわずかに逸脱し、ゴージを高くしたオフビートともいえる現代的なカットが特徴だ。独自の美学は時代を超越し、かつてマカロニ・ウエスタン全盛期に、カウボーイブーツとデニムシャツを着てナポリのベリーニ広場にたむろしていた青年たちを思い起こさせる。

 

 大きなパターンと素晴らしい縫製を特徴とするスティレ ラティーノの服は、アドリアーノ・チェレンターノやルーチョ・ダッラなど、イタリア歌手のような個性を持っている。つまりそのルールのユルさゆえ、今もなお若い男たちを惹きつけているのだ。スティレ ラティーノはナポリの誇りであり、シンボルであり、そして永遠に残るものなのである。

 

 

アイボリーのタスマニア・ウール製ダブルブレステッド・ジャケット、ブラウン&ホワイトのコットン製ワイドストライプ シャツ both by G.Inglese / The Rake ミッドブラウンのソルト&ペッパー柄のVBC製フランネル・トラウザーズ Kit Blake / The Rake ローファー Baudoin & Lange ネイビーのシルク製フローラル・プリント・ハンカチ Edward Sexton / The Rake

 

 

シルクサテン製ラペルがついた特注ホワイトタキシード、ワイドレッグ・トラウザーズ、シルクメッシュのトップス all by Banshee of Savile Row

 

 

 

Inglese, Puglia

ジ・イングレーゼ(プーリア)

 

 その小さな工房は、プーリアの丘陵地帯にあるジノーザという静かな村にあり、愛好家たちの巡礼の地になっている。英国ウィリアム王子もそのひとりである。しかし、南イタリアの伝統である家族とクラフツマンシップ、サステナビリティを大切にするこのアトリエは、王族だけを受け入れているわけではない。

 

 彼らが作る“サハリアン”シャツは、ジェットセッターのような雰囲気だ。アプグリア海岸のパーティで、歌手ペッピーノ・ディ・カプリが歌う60年代の歌のように、あなたを夜へと誘う。G.イングレーゼは、南イタリアのカラフルで気取らないテーラリングでその名を知られるようになった。ラ・ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)を満喫するには理想的なブランドといえる。

 

 

Mathias: ブラックのウール製ダブルブレステッド・タキシード・ジャケット、ブラックのウール製タキシード“マニー”トラウザーズ、ホワイトのコットン製プリーツ入りドレスシャツ、シルクサテン製セルフタイ・ボウタイ、ブラックの“マーフィ”ローファー all by Rubinacci / The Rake

Ciinderella:フルレングスのオーダーメイドによるブラックのベルベット・オペラコート、ホワイトのリネン製プリーツ入りドレスシャツboth by Banshee of Savile Row

 

 

 

Rubinacci, Naples

ルビナッチ(ナポリ)

 

 1932年創業のルビナッチは、“スパッラ・カミーチャ”と呼ばれるショルダーで有名だ。肩パッドがなく、まるでシャツのように軽やかに仕上げたジャケットである。“ナポリ・スタイル”を体現するブランドで、サヴィル・ロウとは対極にあるものだ。イタリアを代表する映画監督ヴィットリオ・デ・シーカも大ファンで、その他俳優やミュージシャンも数多く愛用していた。今日のナポリの若者たちは、故郷の文化の再発見を求めてルビナッチを訪れている。

 

 マキシマムなカラー、ワイドラペル、プリーツ・トラウザーズは、イタリアのミッドセンチュリーの黄金期を彷彿とさせるものだ。ソフトでルーズなシルエットは、俳優マルチェロ・マストロヤンニやファブリツィオ・デ・アンドレ、あるいはポップスターのルチオ・バティスティに愛された。ルビナッチは歴史あるメゾンだが、彼らがやり続けていることには、現代的なカッコよさが感じられる。

 

 パリ、ロンドン、南イタリアの旅を終え、音楽にインスパイアされたアート・オブ・テーラリングの第1弾はこれにて終了。これからも歴史あるテーラリング・メゾンのスタイルと、それを着る人々の姿をご紹介していくので、乞うご期待。

 

 

Creative Director and Photographer: Brandon Hinton

Talent: Mathias Le Fevre & Ciinderella Balthazar

Style Director: Melissa Jane Tarling

Make-Up Artist: Katy Jane

Photographer’s Assistant: Jerri Nagel