Canali - CEO STEFANO CANALI —Interview—

カナーリCEOインタビュー:糸を継ぐ者

January 2024

カナーリはイタリア最高級のアパレル・ブランドのひとつである。そして未だにファミリーによる経営を続けている。1998年、長男であるステファノ・カナーリは、家族のビジネスに参加した。そして現在はCEOとして、ブランドの舵取りをしているのだ。

 

 

text charlie thomas

 

 

Stefano Canali/ステファノ・カナーリ

1934年創業、イタリアの老舗アパレル・ブランド、カナーリのCEO(最高経営責任者)。ファミリー企業の3代目。カナーリは、イタリア国内に5つの生産拠点を持ち、全世界で1500人以上の従業員を擁する。ニューヨークの金融業界を経て、1998年に財務担当として入社。2008年にゼネラル・マネージャー、2018年より現職。

 

 

 

 ステファノ・カナーリが自分のファミリーの名前を冠した会社に入ったのは必然だと思うかもしれない。しかし彼は、それは彼ひとりの選択だったという。一族の3代目であるステファノは、この伝説的なイタリアン・テーラリング・メゾンが、コロナ禍という困難な時期を乗り切るための舵取りをしてきた。

 

 ステファノは、かつてニューヨークの金融業界で働いていた。その経験を買われ、1998年に財務担当としてビジネスに参加した。その後、ファイナンシャル・オフィサーとなり、2008年にゼネラル・マネージャーに昇格したが、その直後にリーマンショックが起きた。2018年にはCEO(最高経営責任者)に就任したが、2年も経たないうちに、今度はコロナ禍が襲ってきた。

 

 彼はそのタイミングについて、冗談めかしてこう言った。

 

「私が昇進するときは、いつも大変な出来事が待ち構えているんですよ」

 

 ステファノはブランドのイメージを変えた。カナーリは常に第一級のラグジュアリー・ブランドであったが、そのほとんどはシャープなピンストライプのスーツや、ドレスシャツといったフォーマルな服であった。それがこの5年で様変わりし、今ではハイテク素材を使ったソフトなジャケットや、リラックスしたアイテムで知られるようになった。

 

 カナーリが創業90周年を迎えるにあたり、THE RAKEはステファノにキャリア、サステナビリティ、そして未来のビジョンについて聞いてみた。

 

 

カナーリのストックルームには、さまざまな生地が保管されている。それらのクオリティはどれも折り紙付きだ。

 

 

 

―あなたがファミリービジネスに参加することは、生まれたときから決まっていたのですか?

「幼い頃から、会社に入ること、ファミリーのビジネスに加わることを強要されたことは一度もありません。しかし私には、選択肢がありました。ビジネスを受け継ぐ機会を与えられていたのです。そして私も、会社に貢献できると思いました。私には何の義務もありませんでしたが、それは実に素晴らしいチャンスでした。入社から25年が経ち、私は間違いなく正しい決断をしたと思います」

 

―カナーリを監督する責任とは?

「過去数十年間、多くの困難を乗り越えてきました。しかしそれらは同時に、素晴らしい経験でもありました。大きな達成感があり、ファミリーの長い歴史の一部になれたことに誇りを持っています。私たちは来年創業90周年を迎えます。会社は1934年に、私の祖父とその兄弟によって設立されました。私で3代目となります。会社がさらに長く続き、独立性を保ち、過去90年にわたる価値観が受け継がれていくことを願っています」

 

―その価値観とは何でしょうか?

「実のところ、価値観はあなたが誰であるか、そしてあなたが経営する会社がどう振る舞うかを定義するものです。提案する製品にも間違いなく影響を及ぼします。私たちの会社の場合、創業時の価値観のひとつは“敬意”です。私たちはお客様に対する敬意を、製品のクオリティで表しています。製品はよい生地を使い、入念に縫製され、予想以上に長持ちするように作られています。高い品質をキープすることは、お客様が私たちに投資すると決めたことに対する敬意の表れです。クオリティとは、結局のところ、尊敬の念を表すものなのです」

 

 

古くから使われているミシンなどの縫製用具。カナーリの技術力はイタリアでも屈指のものである。

 

 

 

―何がカナーリを特別なブランドにしているのですか?

「何よりもまず、“一貫性”でしょう。私たちファミリーは常にハイクオリティなものを提供すると決めており、そこから外れることはありません。これは、先ほどの価値感と敬意に関係しています。また、私たちが製造するものはすべて100%イタリア製であるということも、ブランドを特別なものにしています。私たちは、どんなにコストがかかろうとも、イタリア国内に留まることに決めています。この国が持つクラフツマンシップは他では代えがたいものです。私たちは創業以来、サプライチェーン全体を国内で維持しています。おかげで長期にわたって、一貫した品質を保つことができました」

 

―サステナビリティに対する取り組みは?

「ハイクオリティな素材を使い、手仕事を重視する私たちの製造方法は、とてもサステナブルです。従業員に関してもそうです。サプライチェーンを国内に持ち、イタリアの職人を雇えば、社会保障、健康保険、法的問題などにおいて、彼らを守ることができます。雇用問題は見過ごされがちですが、サステナビリティを語るうえで避けては通れないと思います。もちろん私たちは、地球環境そのものにも注目しています。気候変動は残念ながら現実であり、私たちはこれらの問題に取り組まなければなりません。しかし同時に、ファッション産業に携わる人々も尊敬されるべきであり、公平に扱われなければならないと考えています」

 

―地球環境のために取り組んでいることはありますか?

「私の記憶が正しければ、繊維業界は世界で2番目の汚染者です。しかし、汚染の80%がファストファッション産業に関連しているという事実を強調しなければなりません。一方では、誰もがこの問題に取り組み、解決策を探り、温室効果ガスを削減する努力をしています。それは間違いありません。しかし同時に、消費者がその事実を十分に理解し、正しい選択ができるようにしなければなりません。これは誰もが関心を持つべき問題だと思います。私たちは温室効果ガス排出量を包括的に測定し、問題の核心を見つめることにしました。そして、その結果をもとに、長期にわたる効果的なアクション・プランを作成したのです」

 

 

 

 

―男性はどのように装うべきだとお考えですか? またブランドについて、どのようなビジョンをお持ちですか?

「“クワイエット・ラグジュアリー”という考え方をご提案したいと思います。つまり上質ですが、派手なもの、大胆なもの、過剰なものは避けるという意味です。それからコロナ禍以前、5年ほど前までは、カナーリはフォーマルウェアのイメージが強いブランドでした。しかしその後、フォーマルウェア自体が劇的に変化しました。私たちに関する限り、フォーマルとカジュアルの区別はもはや存在しません。私たちは、かつてフォーマルと呼ばれていたものと、カジュアルと呼ばれていたものの生地、デザイン、ディテールをミックスしているからです」

 

―秋冬コレクションでお気に入りの服はありますか?

「ブランドの進化を表現している“ダブル”スーツは興味深いですね。それは100%ハンドメイドです。テーラードですが、今までのスーツとは違います。カシミア製の生地も素晴らしい。軽く、柔らかく、そして本当にラグジュアリーに見えるのです」

 

―カナーリの未来は?

「私たちにとって、コロナ禍は大きな転機になりました。それは非常に困難な時期であり、これまでとは違った方法を取らざるを得ませんでした。コロナが収束したとき、私たちはブレーキを外し、以前から温めていたアイデアを次々と形にしたのです。まだ道半ばであることは自覚していますが、道筋ははっきりしています。あとはさらにアクセルを踏んで、加速をしていくだけです」