PREMIUM DINNER, THE RITZ-CARLTON KYOTO

宝泉院で味わう一期一会の美食体験を、ザ・リッツ・カールトン京都で

June 2024

開業10周年を迎えた特別企画として、ザ・リッツ・カールトン京都が大原三千院からほど近い「宝泉院」にて、わずか6席限定のプレミアムディナーを開催した。当日は、創建800年の歴史ある寺院の境内にディナー会場を特設。庭園に鎮座する樹齢700年という五葉の松(ごようのまつ)を眺めながら大原の地に宿る恵みを堪能する、比類なき美食体験を拝見した。

 

 

text chiharu honjo

 

 

 

 

 京都の北から南へ流れる鴨川のほとり、東山三十六峰を一望できる絶好のロケーションに建ち、細やかなおもてなしの数々でゲストを魅了している「ザ・リッツ・カールトン京都」。同ホテルのダイニング「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」は、エグゼクティブ イタリアンシェフの井上勝人氏が最高級の新鮮な地元の食材を、七十二候の季節感を感じられる至高の味へと昇華する美食の空間だ。通常はオープンキッチンを備えたホテル内の個室で料理を披露するが、今回は大原の自然の中で味わう初のディナーイベントを6席限定で二日間のみ開催。新緑の美しい季節に京都の自然と文化を五感で感じる特等席を作り上げた。

 

 会場となったのは比叡山の麓、四方を山に囲まれた大原の山里に佇む800年の歴史を持つ「宝泉院」。『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』一つ星に選ばれたことがある場所で、客殿の柱と鴨居を額縁に見立て、あたかも絵画を眺めるように庭園を愛でることができる額縁庭園で知られる。水音を楽しむために庭園に仕掛けられた水琴窟が響く中、本院を象徴する樹齢700年を超える五葉の松や竹林が佇み、静けさに満ちた幽玄の美が広がっていた。

 

 

エグゼクティブ イタリアンシェフの井上勝人氏。

 

 

 

 腕によりをかけた料理を用意してくれる井上シェフは、「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」で料理長を務めた際に「アジアのベストレストラン 50」にて18位、ミシュランガイドにて一つ星を獲得した実力の持ち主。家に帰った時のように寛げる雰囲気を醸す、気さくな人柄も魅力のひとつだ。

 

 本イベントの開催にあたり井上氏は、「“食の楽しみ”は人生を豊かに彩る、欠かせないものだと思っています。中でも京都は最上級のものを追い求める人々が集う場所です。食材の生産者、器を作る陶芸家、京都でも代々の仕事を受け継いできた方々の間には“共により良いものを追求する”精神が息づいています。ホテルから車で30分も走れば生産者に直接会って話ができる環境の中で、日々のコミュニケーションを取り、生産者と共に料理を生み出し、作り手の温もりや移り変わる自然の躍動感をお伝えしたいと思っています」と意気込みを語る。

 

 

焦がし野菜タルト 花 大原猪 自家製味噌

 

 

筍ミルクの寄せもの ジュンサイ ハマダイコン

 

 

琵琶湖稚鮎 しば漬けの甘酢ソース 黒文字

 

 

ザ・リッツ・カールトン京都10周年限定ボトル「季能美29th Edition 〜平太〜(へいだ)」を使った柑橘系のカクテル。

 

 

 

 宝仙院の門をくぐりぬけ境内の客殿へ向かう途中、アミューズを愉しむための立食会場へ案内された。楓や山草が萌えたつ美しい新緑に囲まれた枯山水のある場所で、大原の自然に没入できる素晴らしい光景に思わず息をのむ。

 

 一品目は、草花の咲き乱れている花畑を思わせるタルト。焦がし野菜パウダーで作ったタルトに大原猪のリエットと自家製シャインマスカット味噌、自家製柿酢をあわせ、仕上げに花のサラダで彩りを添えた目にも鮮やかなアミューズである。続いて出てきたのは、竹の筒に入った一品。旬の味覚であるたけのこが、竹林でひょっこり顔を出すころをイメージした筍ミルクの寄せもので、ジュンサイやスナップエンドウ、鞘大根などで食感にアクセントを出している。

 

 最後は、黒文字の楊枝をさして燻した稚鮎のフリットを、しば漬けの甘酢ソースにディップしていただく逸品。黒文字の香りが効いた稚鮎は柔らかく、ひと口目はそのまま、ふた口目はソースにつけて味わうことで、得も言われぬ旨さが口の中に広がる。自然の恵みを外でいただくことで、味わいに一層深みが増すから興味深い。

 

 

 

 

 自然の中で味わう贅沢なひと時を過ごした後は、いよいよ客殿へ。まず目に飛び込んできたのは圧倒的な存在感を放つ五葉の松である。高浜虚子が「大原や 無住の寺の 五葉の松」と詠んだという宝泉院を象徴する松で、庭の名は盤桓園(ばんかんえん・立ち去りがたいという意を持つ)。この庭としばし対峙するだけで、離れがたい気持ちを肌で感じる壮観な光景だ。住職によると、秋になって竹林越しに夕日が射しこむ光景は格別で、作家の山崎豊子氏はこの寺の夕暮れの情景を小説『不毛地帯』で書いたという。

 

 

宝泉院サラダ 大原の風景

 

 

由良ウニ 大原緑野菜のスパゲッティ 美山汲み上げ湯葉 大原の赤紫蘇

 

 

大原コシヒカリのリゾット 淡路アワビ 宇治新茶

 

 

松阪牛炭火焼 鷹峯新玉葱 宝泉院実山椒

 

 

 

 着席して、ザ・リッツ・カールトンホテルのハウスシャンパーニュである、メゾン「フレールジャン・フレール」のブリュット プルミエ・クリュで乾いた喉を潤した後、最初に運ばれてきたのは前菜の「宝泉院サラダ 大原の風景」。里山の風景をイメージし、オカラの黒いパウダーで土、緑のパウダーで苔を表現している。伊勢エビやサザエなど贅を尽くした魚介とともに、数十種類の大原野菜を合わせた見目鮮やかな一皿だ。

 

 次に登場したのは、「由良ウニ 大原緑野菜のスパゲッティ 美山汲み上げ湯葉 大原の赤紫蘇」。ウニを模した器の中には極上のウニがふんだんに入っており、大原のほうれん草やヨモギ、ワイルドフェンネル野菜を練り込んだあっさりとしたパスタに、濃厚なウニが絡む至福の味わいである。

 

 ウニの余韻に浸っていると、井上シェフが熱々の土鍋を持ってきた。ふたをあけると中からアワビのリゾットが出現し歓声があがる。大原の米と湧き水に淡路アワビを加えたもので、絶妙な火入れにより素材の味を際立たせている。そしてメインは松坂牛の炭火焼。松阪骨付きLボーンを塊のまま豪快に炭火焼してからカットし、宝泉院に自生する実山椒を散らした極上のメニュー。旨みを閉じ込めた肉をシンプルに味わう、素材のよさが伝わる一皿だ。添えられた黒玉葱のクッキーの食感が大変面白い。

 

 

苔のクッキー

 

 

 

 

 夜になり辺り一面が暗くなると、提灯やロウソクに火が灯り会場は一層幻想的な雰囲気に。文人たちが愛でた古の風景を今に伝えるその様は、時の流れを忘れるほど美しい。囲炉裏の周りに珍しい陶板をあしらった炉のある部屋に場所を移し、食後のデザート「日向夏 亀岡はちみつ 京丹後ジャージーミルク」と苔庭をイメージした茶菓子「苔のクッキー」をいただいた。

 

 大原での心に染みるおもてなしは、井上シェフが真のラグジュアリーの在り方を問いかけていたように感じた。趣のある景色を静かに眺めながら五感を研ぎ澄ませ、シェフの感性が光る料理を四季の移ろいとともに味わう―――京都ならではの風流な愉しみ方がそこにあった。

 

 

ザ・リッツ・カールトン京都

京都市中京区鴨川二条大橋畔

TEL.075-746-5522

https://chefstable.ritzcarltonkyoto.com/

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