MICHELANGELO AND THE YEARNING FOR TRAGEDY

愛の不毛を描き続けた巨匠、ミケランジェロ・アントニオーニ

August 2020

 

 私生活では、1942年に女優のレティツィア・バルボーニと結婚するが、1954年には12年間に及ぶ結婚生活を終わらせている。この頃、アントニオーニは現実生活と芸術の境界線が曖昧になっていた。彼女はこう明かした。

 

「私たちの暮らしはとても静かでした。彼が作ったキャラクターを通してしか、お互いのコミュニケーションを取れない状態にまで陥っていました。彼にとって自分を表現する唯一の方法が仕事だったのです。彼の仕事は映画の中で俳優たちに感情的危機を表現させること。彼は自分自身の実生活においても同様の危機を招いてしまったのです」

 

 

『欲望』撮影中に天気を確認するアントニオーニと、ヴァネッサ・レッドグレイヴとデヴィッド・ヘミングス。

 

 

 

 アントニオーニの挑戦が彼の頂点を極めたとするなら、同時に彼の省略的手法も全盛を極めたといえる。よく話題となる『太陽はひとりぼっち』のラストには、ヴィッティとドロンが待ち合わせに使っていた街角、ドラム缶から流れ出る水、バスのブレーキ音、上空を横切る飛行機音など、58ショットに及ぶ無人のシーンが収められている。これについてアントニオーニは、「“あらゆる感情や感覚の消滅”を表現するため」と語っている。

 

 アントニオーニは、アメリカで行われたプレミア試写の後、抽象表現主義の画家マーク・ロスコと対面する機会を得た。その後、アントニオーニがロスコに宛てた手紙には、こう書かれていた。

 

「あなたも私も同じような仕事をしている。あなたは絵を描き、私は映画を作る。非実存的なものを扱っているのです」

 

 

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