MICHELANGELO AND THE YEARNING FOR TRAGEDY

愛の不毛を描き続けた巨匠

August 2020

 

 ヌーヴォー・ロマンの小説家アラン・ロブ=グリエはアントニオーニの作風について、こう言い表す。「(アルフレッド・)ヒッチコックの映画は、じらすけれども最終的にはすべてが明らかになる。だが、アントニオーニの映画はその対極にある」。アントニオーニは、実存の曖昧さを見事に表現する帝王なのだ。

 

 それにしても実に華やかでアンニュイである。三部作で主演を務めたのは、女優モニカ・ヴィッティだ。すっきりとした頬、印象的な眼差し、真っ白のシャツ、ベルトの付いたトレンチコートは、主人公の気持ちがすっぽりと抜け落ちている場面においてもはっきりと映し出されている。『夜』で共演したマルチェロ・マストロヤンニと、『太陽はひとりぼっち』で共演したアラン・ドロンのスーツ姿とヘアスタイルは当時の最先端で、アントニオーニの幾何学的なフレーミングとぴったりマッチしていた。アントニオーニほどにファッションを熟知しているイタリア人監督は他にはいない。

 

 

『太陽はひとりぼっち』の撮影でのアントニオーニ。

 

 

 また、アントニオーニは平面・角度・高さといった表現において建築家的視点も持っていた。具体的な物体を取り入れながら、潜在的に感情に訴える力を用いて、荒涼とした街並みを描いた。

 

 彼をインタビューした者は皆口を揃えて、「彼自身は、作品と同様に難解な人物である」と言う。広い額、突き出た眉、悲しげな目。救いがたいほどに陰気である。1964年にニューヨークタイムズ紙で彼を紹介したメルトン・S・デイビスは、こう書いている。

 

「自分のことについて話すときでさえ、いつものシリアスな表情のまま。非常に礼儀正しく、着こなしはコンサバティブ。静かに話す彼は、残念な結果に終わったビジネスについて語る銀行員かアートディーラーかと見まがうほどである」

 

 

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