The new EQS SUV

未来から来た快適性と安心感

July 2023

次々とBEVを発表するメルセデス・ベンツから、またひとつ注目の一台がリリースされた。専用プラットフォームを持ち、豊かなスペース・ユーティリティを誇るラグジュアリーSUVである。自動車評論家・渡辺慎太郎がリポートする。

 

 

text shintaro watanabe

 

 

 

左:EQS 450 4MATIC SUV  MP202302

EQS SUVは永久磁石同期モーターを含むeATSと呼ばれる電動パワートレインを前後に置く。EQS 450 4MATIC SUVでも800N・mもの強力なトルクを発生。回生ブレーキによって運動エネルギーを回収することもできる。全長×全幅×全高:5,130×2,035 ×1,725mm ¥15,420,000~ (メーカー希望小売価格)Mercedes-Benz

右:EQS 580 4MATIC SUV Sports MP202302

eATSは設計の段階からノイズや振動の低減が優先事項とされてきた。これにより、544PS/858N・mというスポーツカーのようなパワースペックの EQS 580 4MATIC SUV Sportsでも、室内の静粛性が高く振動も抑制されている。全長×全幅×全高:5,135×2,035 ×1,725mm ¥19,990,000~ (メーカー希望小売価格)Mercedes-Benz

※写真はオプション装着車です。日本仕様と異なります。在庫状況について詳しくはメルセデス・ベンツ正規販売店へ。価格には付属品価格および税金(消費税を除く)、保険料、自動車リサイクル料金、その他登録等に伴う費用等は含まれておりません。

 

 

 

 いつの間にか、巷ではスマートウォッチを腕に巻いている人がずいぶん増えて、ほぼ時を同じくして電気自動車(=BEV)を見かける機会も増えたように感じる。機械式時計がエンジンを積んだクルマだとしたら、さしずめスマートウォッチはBEVに相当するのではないかと個人的には思ったりしている。

 

 BEVの造り方には大きく分けてふたつあって、ひとつはエンジンを搭載する既存のモデルからのコンバート。もうひとつはBEV専用のプラットフォームを用意するやり方だ。この2種類にはそれぞれメリットが存在する。前者はコストを大幅に抑えることが可能で、開発期間も短縮できる。後者はBEVでしか成立し得ないパッケージを採用することができる。メルセデス・ベンツの電気自動車は、モデルのサイズや価格帯に応じてこれらを巧みに使い分けている。BEVの幅広い普及という役目を担ったEQA/EQB/EQCは前者、BEVの可能性を追求したEQE/EQSは後者といった具合である。

 

 そもそも、BEVとエンジン搭載車のもっとも大きな違いはパワートレイン(駆動源+トランスミッション)のサイズにある。エンジン搭載車は燃料を効率よく燃焼させるために吸気と排気という機構が不可欠だが、モーターにはそれが必要ないし、BEVはトランスミッションも持たない。吸排気機構とトランスミッションがないだけでも、BEVのパワートレインは格段にコンパクトになるのである。

 

 そうなると、BEVのいわゆるエンジンルームは従来よりもずっと小さくできるだけでなく、コンパクトなモーターユニットならではのレイアウトが可能となる。フロントにエンジンを搭載し後輪を駆動するFRの場合、駆動力はエンジンからトランスミッションを通り、プロペラシャフトを介してリアまで運ばれ、ディファレンシャルギアから左右のドライブシャフトへ伝わりようやく後輪が回転する。BEVで後輪を駆動させる場合、モーターユニットが小さいので後輪のすぐそばに置くことができるからパワーロスも少ないし、プロペラシャフトもそれが通るフロアトンネルも必要なくなるわけだ。

 

 小さいエンジンルームやフラットな床下などはBEVならではの特徴であり、これが専用のプラットフォームを持つBEVでしか成立できないパッケージである。メルセデスはEVA2と呼ぶBEV専用のプラットフォームを開発。日本ですでに販売されているモデルではEQS、EQE、そしてEQS SUVがこれを共有しているのだ。

 

 

BEVはパワートレインが発するノイズが少ないので、風切り音が目立つ傾向にある。EQSSUVは空気音響学の考えに基づくドアミラーを採用するなど、これを徹底的に軽減している。※日本仕様と異なります。在庫状況について詳しくはメルセデス・ベンツ正規販売店へ。

 

 

 

 EQS SUVもエンジンルームが小さいので、フロントウインドウの立ち上がりをエンジン搭載車よりも前方に置ける。これを“キャブフォワード”と呼び、室内の前後方向のスペースをたっぷり確保することが可能となる。EQSセダンのようにボンネットは左右のフロントフェンダーまで回り込んでいて、通常は開閉することができない。特にBEVの場合はオーナー自らがボンネットを開ける必要性がほとんどないので、閉める決断をしたとエンジニアから伺った(サービス工場では開閉可能)。エンジンルームは開口面積が広く、ここを塞ぐことでボディ剛性のアップや空力的にも有利に働くといったメリットがある。

 

 立体的なスリーポインテッドスターをあしらったブラックパネルユニットをセンターに配置したフロントフェイスは、ライトバンドによって左右のヘッドライトを繋いでいる。EQSセダンのデイタイムランニングライトは3つの点で構成されているが、EQS SUVでは3つの三角形とすることで差別化が図られた。

 

 ベルトライン上に設置されたドアミラーや格納式のシームレスドアハンドル、流線型のAピラーやリアスポイラーなどはエアロダイナミクスを考慮したデザインだ。BEVではホイールベース部のフロア下にバッテリーを搭載することで重心が下がったりフロア部の剛性が向上するなど副次的メリットがあるいっぽうで、構造的にも物理的にもバッテリー搭載量をホイールベース以上に増やすことは難しい。そこで重要になってくるのがエアロダイナミクスである。空気抵抗をできるだけ抑えることにより、航続距離の上乗せが見込めるからだ。EQS SUVのCd値は0.26(欧州参考値)。これは少し前までの一般的なセダンのCd値と同等であり、全高が1.7mを超えるSUVとしてはハイレベルの数値である。だからこそ、このボディサイズで四輪駆動でありながら593km*の航続距離(EQS 450 4MATIC SUV)が実現できたのだ。

 

 

ダッシュボードを1枚のガラスで覆ったMBUXハイパースクリーンは、運転席/センター/助手席に3つのモニターを配置。機能性を最優先しつつも、エンターテインメント性も両立させている。2列目シートは電動スライド機能により前後方向へ130mm動かすことが可能。バックレストの角度調整も電動式となる。多彩なシートアレンジにより、用途に合わせた室内空間をつくり出せるのもEQS SUVの特徴のひとつ。HEPAフィルターによる空気清浄機能も嬉しい。※日本仕様と異なります。在庫状況について詳しくはメルセデス・ベンツ正規販売店へ。

 

 

 EQSセダンとともにお披露目されて世界を驚かせたMBUXハイパースクリーンはEQS 580 4MATIC SUV Sportsに標準装備(EQS 450 4MATIC SUVにオプション)。ダッシュボード全面を1枚のガラスで覆った斬新なデザインは、何度見ても圧倒的存在感を放っている。キャブフォワードとフラットなフロアのおかげで、室内は大人7人が快適に過ごせるだけでなく、3列目シートを使用してもその後方にはまだ195L(VDA方式)ものラゲッジスペースが確保され、3列目シートを畳めばゴルフバッグを4つまで積み込めるスペースが生まれる(自社調べ)。

 

 EQS SUVの乗り心地はEQSセダンをさらにゆったりさせたようで、特にロングツーリングなどでは疲労が少なく、ずっと心地よさが続くエアサスペンションのセッティングになっている。ハンドリングは正確で、いかなる状況でも盤石な安定感を示す。3mを超えるホイールベースとは思えないほどよく曲がるのは後輪操舵のサポートだけでなく、常に最適な前後駆動力配分を行う4MATICの巧みな制御も大きく寄与している。力強くスムーズなパワーデリバリーはEQS 450 4MATIC SUVでもEQS 580 4MATIC SUV Sportsでも味わえるが、持て余すことなくちょうどいいのがEQS 450 4MATIC SUV、あらゆる局面でも余裕が感じられるのがEQS 580 4MATIC SUV Sports、そんな感じだろうか。

 

 街中でBEVをよく見かけるようになると、「そろそろウチも」と興味が湧いてくるかもしれない。しかし初めてのBEVは何かと心配も付き物である。例えばバッテリー。スマホは使用期間が長くなるにつれてバッテリー残量の減り方が早くなるように、BEVのバッテリーでも同じことが起こるのではないか。メルセデス・ベンツが提供している「EQケア」では、10年あるいは25万km以内でバッテリー残容量が70%を切った場合、保証の対象になるというから安心だ。

 

 安心といえば、EQS SUVは日本専用の機能として双方向充電が可能となっている。これは自宅に充放電器を設置すると、家庭の太陽光発電システムで発電した電気を貯蔵したり(別途工事が必要)、停電の際にはクルマから家庭に電気を送る予備電源としても利用できるという。豪雨や地震などによる、ままならない自然災害が繰り返される日本では、万が一の備えとしてなんとも心強く安心できる機能となり得るだろう。

 

 

*WLTCモードでの一充電走行距離の数値。定められた試験条件のもとでの数値のため、使用環境(気象、渋滞等)や運転方法(急発進、エアコン使用等)、整備状況(タイヤの空気圧等)に応じて値は異なります。電気自動車は、走り方や使い方、使用環境等によって航続可能距離が大きく異なります。