MASERATI MC20

40年ぶりに出たマセラティ渾身のスーパーカー

July 2023

MC20は、今までのマセラティのイメージを覆す一台だ。レーシーかつスパルタン。かつて憧れたスーパーカーが帰ってきた。

 

 

text kentaro matsuo

 

 

 

Maserati MC20

バタフライウィングのドアがトレードマーク。100%ガソリンのV6エンジンを積んだ、マニア垂涎の一台。本格的なレーサー気分を味わえる、マセラティ渾身のスーパースポーツである。全長×全幅×全高:4,670×1,965×1,220mm/車両重量:1,640kgエンジン:3ℓV6ツインターボ/0-100km/h加速:2.9秒以下/最高速度:325km/h以上

 

 

 

 1970年代後半、スーパーカー・ブーム華やかなりし頃……。マセラティといえば、フェラーリやランボルギーニと並んで、憧れのイタリアン・スポーツだった。ボーラ、メラクなど、綺羅星の如きクルマがラインナップされていた。フィアットグループに入ってからは、フェラーリとの棲み分けという意味からか、高級GT路線に転向し、クワトロポルテ、ギブリ、レヴァンテなど、ラグジュアリー・セダンやSUVのブランドとして定着していった。しかし、今回マセラティは(限定車を除けば)、ほぼ40年ぶりにミドシップ・スーパースポーツをリリースした。それも超級にスパルタンな一台だ。それがMC20である。

 

 エクステリアは、大きなフロント・グリルに取り付けられた三叉のエンブレム、リヤホイール手前の大きなエアインテーク、車体下部を構成するカーボンパーツなどを特徴としているが、何といっても目を奪われるのは跳ね上げ式のバタフライ・ドアである。翼を広げた怪鳥のようなシルエットは、スーパーカーのアイコンのようなものだ。厚みのあるドアはカーボン製で軽く、手で持ち上げるとふわりと開く。

 

 コクピット後部には完全新開発の3ℓV6エンジンが積まれている。マニア垂涎の100%ガソリンで動くパワートレインだ。エンジンはアクリル製の透明カバーに覆われており、カバーには三叉型のスリットが入っている。雨が降ったらエンジン本体が濡れてしまうと思ったが、それで大丈夫なのだそうだ。

 

 

ネットゥーノ(イタリア語でネプチューンの意味)と名づけられた、エンジンはマセラティの完全オリジナルである。3ℓV6ながらツインターボで過給され、630psという最高出力を7,500rpmという高回転でマークする。ガソリンエンジン時代における最後の名作となるのは間違いない。

 

 

 

 インテリアは、カーボンとアルカンターラを中心としたシンプルかつレーシーなもの。レーシーといえばシートもそうで、完全なるバケットシートだ。とにかくアイポイントが低く、硬い殻にすっぽりと包み込まれるような座り心地で、レース気分が盛り上がる(これは「4方向電動式レーシングシート」というオプションがついているからで、標準シートは電動リクライニング式の本革シートでもっと快適である)。

 

 スイッチ類も少なく使いやすい。ダッシュボード上にタブレットのようなタッチスクリーンが付いており、ナビゲーションやオーディオ類はこちらで操作する。ナビはアイシン製なので、往時を知る身からすると、涙を流すほど使いやすい。オーディオはイタリアの至宝、ソナス・ファベール社製のシステムが採用されている。

 

 エンジンを始動させるとあたりに轟音が響き渡る。これは単なる「スポーティなクルマ」ではなく、紛うことなき「スーパースポーツ・カー」であることがわかる。走りだすと、ハンドルは非常にクイックな味付けで、遊びも最小限に抑えられている。

 

 アクセルを踏み込むと、首が折れるほどの加速が得られる。3ℓV6エンジンは排気量こそ小さいもののツインターボで過給され、630psの最高出力と730Nmのトルクを叩き出す。しかもこのエンジンがよく回るのだ。レッドゾーンである8,000回転まで、あっという間に吹け上がる。まるでオートバイのようなエンジンで、心底スカッとする。

 

 イタリアの新世代V6ということで、どうしてもフェラーリ296GTBと比較してしまうが、あちらがプラグインハイブリッドを擁した未来志向であるのに対し、マセラティMC20は硬派なロックンロールだ。今までずっとラグジュアリーセダンを作っていたのに、この変貌ぶりはどうだろう。スーパーカーを作らせたら、イタリア人はやはり世界一だ。

 

 


バタフライ式のドアを跳ね上げると、怪鳥のようなシルエットとなる。

 

 


カーボンモノコック筐体を採用し、ボディ重量を最小限に抑えている。