New Citroën C5 X

シトロエンC5 X:1,000m先からでもわかる「独創と革新」

September 2022

text KENTARO MATSUO

 

 

 

 

 フランスを代表するカーブランド、シトロエンは、1919年にアンドレ・シトロエンによって創業された。彼のクルマ作りの哲学は「独創と革新」であった。その遺志を継いだシトロエンは、100年を超える歴史のなかで、高級車から大衆車まで多くのユニークなモデルを世に問い続け、常にフランス国民に愛されてきた。

 

 そんなシトロエンのフラッグシップモデルC5 Xが登場した。

 

 シトロエンの上級ブランドとしては2005年に立ち上げられたDSオートモビルがある。DSが「ラグジュアリー」なのに対して、シトロエンは「フレンチシック」といった趣きだ。

 

 C5 Xの開発は、独特のアプローチで進められたという。まずテーマ・ミュージック(スムース・ジャズ)を決め、それをBGMとしながらミーティングが重ねられた。ペルソナ(クルマを人物として具現化したもの)は女性で、着ている服や持っている鞄などまで詳細に検討されたらしい。それらのイメージをもとに、内外装のデザインが決められていったのである。

 

 

 

 

 全長4,805mm、全幅1,865mmのボディは、セダンにもワゴンにも見える独創的なもの。最低地上高は165mmと高く、SUVの要素もある。ボディ全体は伸びやかなラインで構成されているが、ボンネット、サイドなど、ところどころにスクレーパーで削り取ったような凹みが施され、アクセントとなっている。

 

 ディテールでは、X型にシェイプされたヘッドライト、Y型に伸びたリヤランプ、複雑な奥行き感を持つホイールなどが目にとまる。いずれにせよ、唯一無二の存在感を放つクルマであることは間違いない。

 

 C5 Xを前にして、まず目を奪われたのは、そのボディカラーだ。「グリ アマゾニトゥ」と名付けられたそれは、ダーク・グレイメタリックをベースにグリーンなどを混ぜ込んだ微妙な中間色である。これが実に都会的でシックなのだ。

 

 試乗日は生憎の雨だったが、水滴に濡れたボディの表面は艶めかしいばかり。昨今の高級車は黒や白ばかりと嘆いている方は、ぜひ実車をご覧になることをおすすめする(この色は残念ながら、モニターや印刷では再現できない)。C5 Xにはノワールやブランも用意されているが、THE RAKEの読者は、迷わずグリ アマゾニトゥを選ぶべし。

 

 

 

 

 車内に目を移すと、水平を基調としたインテリアが、落ち着いたペールトーンでまとめられている。しかしよく目を凝らすと、ウッドのダッシュボードには、シトロエンのアイコンであるV字を重ねた「ダブルシェブロン」柄が細いラインで表現されていることがわかる。通気用の細かいパンチングが施されたシート表面も、ダブルシェブロンの凹凸が施されている。日本の伝統工芸である印伝を思わせる。

 

 実はこのインテリアをコーディネイトしたのは日本人女性なのだ。柳沢知恵氏は筑波大学を卒業し、日産・ルノーを経て、シトロエンへ入社。C5 Xのカラー&マテリアル・デザイナーとしてチームをまとめたという。

 

「さまざまなテクスチャーを持つ素材を組み合わせた上で、統一感のあるインテリアを目指しました。たくさんの小さな穴が開いていて、しかもマッサージ機能がついているシート表面に加工を施すのは、強度面において多くの問題をクリアする必要がありました。オーナーの方に、日々小さな違いを発見して頂き、喜んでもらえると嬉しいです」と柳沢氏。

 

 C5 Xの空間には、女性らしい繊細さと、日本人ならではの静謐さが感じられる。

 

 

 

 

 ダッシュボード中央には、12.3インチの大型スクリーンが設けられ、ここでほとんどの機能をコントロールできる。親切なことに、ドライブアシストや音声アシスタントなど複雑なシステムについてのビデオガイドが内蔵されており、説明書と格闘しなくても使い方がすぐにわかる。

 

 360度カメラが付いており、クルマを真上からみたような映像が得られるので、パーキングは簡単だ。また後退時には死角のエリアから接近する車両や歩行者を検知する「リアクロストラフィックアラート」という新機能も搭載されている。

 

 柳沢氏が触れていたように、フロントシートにはマッサージ機能が備わっている。ウェーブ、スネイク、バタフライなど、さまざまなパターンの揉み方を選ぶことができる。長距離ドライブで体がこわばった時などに重宝しそうだ。

 

 特筆すべきは後部座席が広いところで、身長180cmの筆者でも、座って悠々と足を組むことができた。歴代のシトロエンのフラッグシップは、フランス大統領の公用車を務めてきたのだから、これも当然だろう。

 

 電動テールゲートを開けると、広々としたトランクが顔を出す。リヤシートを倒せば、1,640Lという広大なラゲッジスペースが生まれる。バカンスの国フランスのクルマは、積載量の点においては何の心配もない。

 

 

 

 

 走り出すと、シトロエン独特の「マジックカーペットライド」は健在であることがわかる。まるで空中を飛んでいるように、路面の凸凹をいなしてくれる。高速道路のつなぎ目で起こるハーシュネスも、不快さを感じない。以前所有していたシトロエン エグザンティアの乗り心地を思い出す。エグザンティアの登場から30年も経っているのに、変わらぬ妙味を維持しているところが、個性を大切にするシトロエンらしい。

 

 1.6Lのガソリンターボエンジンは、小排気量ながら最高出力180psと十分なパワーを供給してくれる。このエンジンは軽量なところがいい。Dクラスセグメントに属するにもかかわらず、C5 Xの車重は1.5tを下回っている(SHINEグレード)。ライバルより大人ひとり分軽いのだ。スポーツモードをチョイスすれば、ワインディングも思いの外楽しめる。

 

 シトロエンC5 Xは創業以来の精神「独創と革新」をそのまま形にしたようなクルマだ。そして何よりお洒落である。

 

 パリを代表するテーラー、チフォネリあたりのスーツを纏った男性が降りてきたら、実にサマになりそうだ。デザイナー、故カール・ラガーフェルドは、チフォネリのアイコニックなシルエットを「100m先からでもわかる」と賞賛したが、C5 Xはそれこそ「1,000m先からでもわかる」存在なのだ。