HEART OF A WARRIOR
武士の心を持つ男、三船敏郎
August 2022
飄々としたカリスマ性を持つその精神は、国際的に注目された。イタリアの映画監督セルジオ・レオーネが1964年に製作したマカロニ・ウエスタン『荒野の用心棒』では、クリント・イーストウッドが“名無しの男”を演じているが、これは確実に『用心棒』にインスパイアされている。実際、レオーネらは東宝から著作権侵害だとして告訴され、敗訴している。黒澤が自ら書いた有名な手紙がある。
「シニョール・レオーネ、あなたの映画を見る機会がありました。とても素晴らしい映画だが、これは私の映画だ」
ジョージ・ルーカス監督もまた、『隠し砦の三悪人』(1958年)で三船が演じる剣を振るう主人公が、ふたりの不器用な農民の助けを借りて、若い王女を敵地から救い出すという設定を、『スター・ウォーズ』の重要なインスピレーション源としてよく挙げている(三船は特殊効果で不格好になることを嫌い、オビ=ワン・ケノービ役もダース・ベイダー役も、両方断ったといわれている)。だからこそ、ハリウッドは三船を敬愛してやまない。イーストウッドはこう語った。
「彼との出会いは、まるでアジア人のクラーク・ゲーブルに出会ったようなものだった……。彼は我々にとって、常に偉大なサムライであり続けるだろう」
女優ジョーン・コリンズと(1983年)。
スティーブン・スピルバーグは、彼の勇気と「スクリーン上で爆発する姿」に感嘆した。また、おそらく究極の映画ファンであるクエンティン・タランティーノは、小説版『Once Upon a Time…in Hollywood 』の中で、ブラッド・ピットが演じたクリフ・ブースのお気に入りの俳優として三船の名前を出し、オマージュを捧げている。
三船は黒澤と出会ったときには、既に困難の中での優しさについて多くを学んでいた。三船は中国・青島(チンタオ)で日本人の両親のもとに生まれ、満州にて育ち、1940年に帝国陸軍航空隊に入隊した。息子の史郎は後にドキュメンタリー番組で、父の軍歴は恐怖とシゴキに支配されていたと語っている。反抗的な態度をとると、上官に革靴の底で殴られた。後に不本意ながら神風特攻隊員を訓練していたときには、「『天皇陛下バンザイ!』なんて言わなくてもいい。その代わり、お母さんにさよならを言いなさい。それだけでいいんだよ」と言っていたそうだ。