HEART OF A WARRIOR
武士の心を持つ男、三船敏郎
August 2022
俳優・三船敏郎は、映画監督・黒澤明とパートナーシップを組み、輝かしい業績を築いた俳優だ。
150以上の映画作品に出演し、カリスマ性、アイロニー、そして強烈な身体性を発揮していた彼は、こう語っていた。
「私は映画の中で、必ずしも素晴らしいとは言えないが、日本人の精神には常に忠実である」。
text stuart husband
映画『グラン・プリ』(1966年)にてチームオーナーのヤムラを演じる三船敏郎。
最高の俳優たちは、演じる役になりきってしまう。並外れた役者は、自分の代表的な役柄を体現するようになる。例えば、ジョン・ウェインは、大きな顎、弓のような脚とともに、正義のカウボーイのイメージと切り離せないものとなった。また、殺し屋やギャングのイメージといえば、サングラスをかけたジョー・ペシが思い浮かぶだろう。そして、傲慢だが迷いも多く、無法地帯の村に迷い込み、悪を正すサムライといえば、三船敏郎以外にいない。
1961年の映画『用心棒』のシーンを見ればわかる。三船が日本の偉大な監督である黒澤明と組んで作った、数多くのサムライ映画のひとつだ。三船演じる名もなき男が、刀を構え、埃っぽい道でチンピラの群れを睨みつけてから一撃で退治するシーンだ。その目には怒りというよりも哀れみが宿っていた。敵は、無声映画のように大げさな表情と身振りである一方、三船の動きには一切無駄がなく、まるで猫のように素早い。「サムライは三船のような素早い手首、無精ひげ、横向きの眼差しを持っていると思われている」と2020年、三船生誕100周年を記念したクライテリオン・コレクションへの寄稿で、NYを拠点とする批評家藤井萌子は書いている。
「彼は武士を演じたかもしれないが、それは典型的なヒーローではなかった。彼の演じる男は、癇癪を起こしたり、気まぐれだったり、うっかり馬から滑り落ちたり、あくびをしたり、ぼりぼりと体を掻いたり、声を上げて笑ったり、怠けたりする。しかし、彼は右腕を伸ばし、素早く低い姿勢で刃を持つと、まったく別人のようになるのだ」
映画『羅生門』(1950年)で京マチ子と。
三船と黒澤のゴールデンコンビは、ロバート・デ・ニーロとマーティン・スコセッシ監督、ビル・マーレイとウェス・アンダーソン監督のような、スクリーンにおける偉大なパートナーシップのひとつであり、ふたりは16もの作品を製作する。1950年の『羅生門』では、罪を犯すことへの言い訳と心理的トリックを駆使して国際的な評価を獲得し、アカデミー賞名誉賞(現在の国際長編映画賞)を受賞。その後、1954年に『七人の侍』、1957年に『マクベス』をダークにアレンジした『蜘蛛巣城』が公開。三船は戦後の日本を代表する国際的な有名人となったが、自分の才能については非常に謙虚で、「私は映画の中で必ずしも素晴らしいとは言えないが、日本人としての精神には常に忠実である」と語っていた。