GRAND PRIX D’HORLOGERIE DE GENÈVE
時計界のアカデミー賞、“GPHG”とは何か?
April 2023
目利きも舌を巻く表現力とは?
Men’s Complication Watch Prize 2022
HERMÈS
アルソー ル タン ヴォヤジャー時差修正機能を持った“旅時計”だが、架空の地図が描かれたダイヤル上のディスクを動かすと、隣接する都市名の現在時刻を表示するというロマンティックな表現は圧巻。サイズの異なる同モデルは「Ladies’ Complication Watch Prize」に選ばれている。9時位置ボタンで操作でき、12時位置にホームタイム表示を入れるなど利便性も高い。自動巻き、Pt×Tiケース、41mm。©Joel Von Allmen
18世紀半ばから後半にかけては貴族階級の力が増し、お金と時間を持て余した紳士淑女の好奇心が衣食住や芸術などの文化を開花させた。そのひとつが贅沢に装飾をあしらった懐中時計だったが、それにも飽きた貴族たちを喜ばせるために生まれたのが、時計技術を応用したゼンマイ仕掛けのからくり機構「オートマタ」だった。手紙を書いたり絵を描いたりする人形は瞬く間に貴族の心を摑み、凄腕の職人によって制作されたという。
こうした文化を継承する時計を取り上げたのがGPHGの「Audacity Prize」で、Audacityとは大胆や豪胆といった意味。あるいは2022年のエルメスの独創的な旅時計もその系譜に並ぶといえるだろう。
前述の「Innovation Prize」は、あくまでも時計をより便利に進化させるための技術を讃えるための賞であるが、一方このページで取り上げる時計たちは、その表現力と圧倒的な遊び心が評価されたもので、もはや“機械仕掛けの玩具”と呼べるかもしれない。時刻を知るための道具としての実用性は薄まるかもしれないが、そういう時計に熱狂することこそ貴族的な時計の楽しみ方であり、これもひとつの文化なのだ。
©Joel Von Allmen