DUNHILL
130年の歴史の中で醸成されたダンヒル至高のオーダーサービス
November 2023
創造性とサービスにこだわり、ラグジュアリーの頂点を極める製品を丁寧に作り上げてきた創業者アルフレッド・ダンヒル。彼の精神は、至高のオーダーサービスというかたちでも、しっかりと引き継がれている。
text yuko fujita
photography takeshi wakabayashi
styling akihiro shiakta
ダンヒルでスーツをビスポークする際、通常はメジャーでのみの採寸となるが、他のビスポークテーラー同様、より正確な情報を得るためにマスターガーメントを羽織ることも。その瞬間、至高のイングリッシュドレープに誰もが魅了されるのだ。
ダンヒルの歴史は、1893年にロンドンで家業の馬具製造業を引き継ぐことになったアルフレッド・ダンヒルが、モータリゼーションという新時代の到来を予見し、いち早く自動車用アクセサリーの供給業者へと転身したことから始まった。ここに、自動車にまつわる製品をトータルで提案するブランド「ダンヒルズ・モートリティーズ」が誕生し、レザーのカーコートやトランク、グローブやゴーグルといった初期の名品が生まれていったのだ。人々がいま何を求めているのかを常に考え抜いて生み出されたダンヒルの製品は、すぐさま英国の裕福なドライバーたちを魅了し、その名は世界へと知られていった。
半マイル先にいる警察官をも視認できる双眼鏡「ボビーファインダー(1903年)」に代表されるように、英国的ユーモアに富んだ製品を多く生み出しているのも、ダンヒルに息づく伝統だ。1905年には、コンデュイットストリートにショップをオープンし、自動車、バイク、自転車に乗る人たちに向けたメンズウェアのコレクションを扱い始めた。1907年には現在のジャーミンストリートに煙草店をオープン。刻み煙草をひとりひとりの顧客の嗜好に合わせてブレンドして販売し、大人気を博した。ダンヒルの評判高いサービス精神は、ブランドのDNAとして当時から受け継がれてきたものなのだ。この時期、事業は急成長を遂げ、ブランドを代表するアクセサリーのひとつであるライターや喫煙具、さらにはピクニックやアウトドアレジャーを楽しむためのアクセサリー、ウエアに至るまで、ダンヒルが生み出す製品は多岐にわたるようになる。
未来志向と職人気質の両面を兼ね備えていた創業者のアルフレッド・ダンヒル。それは今のダンヒルにもしっかりと受け継がれている。
左:半マイル先の警察官も識別できる、ユーモアに満ちた「ボビーファインダー(1903年)」。右:「ベルトバックルウォッチ(1929年)」は、スポーツアクセサリーとして広く人気に。
左:ピクニックが大流行した1920年代には「ピクニックトランク」を発表。右:初期の発明品「ダッシュボードクロック(1904年)」により、運転時に前を見たまま時間を確認できるように。
左:ダンヒルのシグネチャースタイルとして、ロンジンが開発・デザインを手がけた「ファセットウォッチ(1936年)」。右:最も貴重なコレクションのひとつである「アクアリウムライター(1949年)」。
アルフレッドは常に時代の先を読む稀有な才能の持ち主だった。創造性とサービスにこだわり、ラグジュアリーの頂点を極める製品を丁寧に作り上げることで、ダンヒルの名を広めていった。1922年にはニューヨークに、1924年にはパリにショップがオープン。1959年のアルフレッドの死後、1963年にはエリザベス2世から英国王室御用達を賜り、1969年には東京にショップがオープン。同年、初のメンズ・プレタポルテ・コレクションも発表した。
創業者アルフレッド・ダンヒルのパイオニア精神と創造性、英国的なユーモアは、偉大なメゾンブランドとなった今日のダンヒルにもしっかりと受け継がれている。洗練されたスタイル、考え抜かれたデザイン、伝統の職人技の価値を愛する人にとって、ダンヒルは最上の選択肢だ。そんなダンヒルの集大成として位置づけられているのが、ビスポークやメイド・トゥ・メジャーをはじめとするオーダーサービスである。美しく、エレガントで、ときにウィットに富み、頂点を極めたオーダーサービスの数々をご紹介していく。
1893年、アルフレッド・ダンヒルが父親の馬具製造会社を継いだのを機に、自動車に関わるモーター以外のすべてを提供する会社「ダンヒルズ・モートリティーズ」を設立。
イノベーションを大切にするダンヒルを象徴する、1920年代に登場した「コンペンディウムケース」。
1897年、ユーストンロード145-147番地にて、ハーネスとモーターアクセサリー事業を始めたときの広告。幅広いアイテムを扱っていたのがわかる。
トラディショナルなダンヒルカットのタキシードを着用したトルーマン・カポーティ(1966年)。