BRINGING IT HOME

ハケットの“サヴィル・ロウ”を体験する

August 2020

text tom chamberlin photography kim lang

結婚相手より自分の体を知っている
 最初のフィッティングは常に心配なものだ。ジャケットが目立ちすぎて私の肌の色に合わないとか、コーディネイトできるソックスがまったくないなど、いろいろな問題が起きる可能性がある。この時点で少なくとも、ひとつ心配しなくてすむものはフィッティングである。私の場合、バックバランスが崩れていて、肩と首のステッチを胴体から外す必要があった。私のひどい姿勢を考慮しつつ、再びピンを打っていく。普通は結婚している人間ならば、自分の体のことを一番よく知っているのはその結婚相手であるものだが、テーラーはそれ以上に、私の体のことについて知っているのだ。これは少々不思議な感覚だ。

 ファン・カルロスには遊び心があり、私がラペルを4分の3インチ大きくするかどうかどうか決めかねていたときに、彼は私に一歩踏み出すことを勧めた。モディファイするが価値があると思うなら、彼は“やってみる”タイプなのだ。

 ファン・カルロスはディテールにもうるさい。修正しなければならない欠陥は、決して見逃さない。彼はメートル法を使っている。私はセンチメートルに慣れていないので、特にウエスト回りを測るときは、ショックが少なくていい。

 トラウザーズは太ももと尻の回りが少しタイトだったが、簡単に調整できた。そして、トラウザーズをブレイシズ仕様にしたので、4分の3インチ股上を深くした。数週間の作業の後、ファン・カルロスは彼の素晴らしいスキルを存分に発揮し、最終的なフィッティングは問題なく終了した。


ジャケットとトラウザーズの最終的なフィッティング。肩と胸回りにボリュームを持たせることで、ウエストへのシェイプを強調している。さらにトラウザーズのヒップ回りと長さの微調整をしているところ。
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