BREGUET MANUFACTURE

精緻を極めたブレゲの手仕事

September 2020

 

 1920年代のマシンが、今も現役。それを基にブレゲが開発した新しい旋盤も入り混じる。楽な作業姿勢がとれる台の形状や回転軸にボールベアリングを用いるなど新しい旋盤は進化しているが、その原理と操作方法は、古い機械と同じだ。

 

 

左:仕上がり具合を入念にチェック。見ているのは、オーバル型の治具に載る微細なパーツで、錫盤の上で繰り返しこすりつけることで、完璧なブラックポリッシュにする/右:仕上げ後は、専門スタッフがすべて検品し、組み立てに回される。

 

 

 左手でハンドルを回すと、台に据え付けられた直径20センチほどの円盤(カム)と、顕微鏡の先にある固定台に設置されたダイヤルとなるプレートが回転する。カムの外周には、ギヨシェのパターンに準じた凹凸を持つ。そのカムの外周に触れるパンタグラフが凹凸のパターンを縮小して金属プレートに伝え、そこにスライドする台に取り付けた刃を右手で押し付ければ、パターンが彫り込まれていく仕掛けだ。

 

 つまり、どの模様も円を描くように彫り込まれてゆく。1周分のスタートとゴールは完全に合致させなければならず、そのためにはハンドルを回す速度も、刃の押し付け具合も、常に一定にキープしなければならない。しかも模様やプレートの素材に応じて、回す速度や押し付け具合は変わる。素材自体が脆い真珠母貝も同じ旋盤で作業され、より繊細な操作が求められることとなる。

 

 

曲面を成すトノーのダイヤルに緻密なパターンを連ねられるのは、手練れの職人だけ。プレートの膨らみ具合に合わせて刃の押し付け方を微調整しつつ、一定の刃圧で彫り進めるのは至難の業だ。

 

 

 実に高度な職人技術が要求されるギヨシェだが、それを教える学校はないという。メゾンのアイデンティティのひとつでもあるギヨシェの伝統を未来に受け継ぐため、ブレゲは独自の教育制度を設け、4年を掛けて職人を育成している。だから他社を圧倒し、決して真似できない数の手動旋盤を稼働させられるのだ。また、ボールベアリングで滑らかな回転を得た新マシンの開発で、より繊細な模様を施すことが可能になったため、新たなパターンも、毎年のように考案している。

 

 初代ブレゲは、美観を高めるだけでなく、金属プレートの反射を抑える機能のためにギヨシェを用いた。また、ダイヤル上の各表示に異なるパターンを施すことで、視覚的に機能を切り分けていた。多彩な模様を得た今のブレゲは、より美しく機能的にギヨシェを操る。

 

 

ギヨシェのアトリエ。新旧合わせて27台の手彫りギヨシェ旋盤が稼働中だ。これほど多くの旋盤と職人とを抱えているのは、スイスでもブレゲだけ。ダイヤル以外にもローターやケースにギヨシェが用いられることも。

 

 

本記事はISSUE12(2016年9月24日発売号)にて掲載されたものです。
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