The New Look of CLASSIC WATCHES
[ 対談:髙木教雄×髙木信彦 ]原点回帰のその先へ。定石なき時代の、新たな指標
June 2026
ラグスポ一辺倒からクラシック路線へ。昨年まであった時計界の流れに、今年は各ブランドが一石を投じた。例年以上に、独創性を発揮したのだ。それは、真摯に開発に向き合った帰結。自身の強みを打ち出した新作の数々が、時計界に多様化の時代の到来を告げる。
text Nobuhiko Takagi
髙木教雄 / Norio Takagi
90年代から時計を取材対象とし、99年からスイスでの合同新作発表会をリポート。技術者のインタビューや工房取材を積極的に行い、時計専門誌やライフスタイル誌、女性誌など幅広い媒体で執筆。著書に『世界一わかりやすい腕時計のしくみ』など。
髙木信彦 / Nobuhiko Takagi
THE RAKE日本版創刊以来、時計ページを担当。今年は各ブランドが独自性を打ち出してきたのが面白い。丁寧なブラッシュアップから、手間のかかった新型キャリバーまで。作り手の意思が透ける新作を前に、次はどれを選ぶべきか?空想は尽きない。
BREGUET
トラディション 7037
オフセットダイヤルの下側に、シンメトリーに構築されたムーブメントを露にする──特異なスタイルは、初代の「モントレ・ア・タクト」懐中時計がモチーフ。その地板とブリッジをブラック仕上げとして、パーツの対称性をより明確にした。オフセットダイヤルの左側にはレトログラード秒針を装備。香箱のギヨシェ、グラン・フーエナメルダイヤルなど工芸的にも秀でる。自動巻き、Ptケース、38mm。¥8,371,000 Breguet
髙木信彦(以下「信彦」): 新作が、各社からほぼ出揃いました!昨年は小径化、クラシック路線、ブルーダイヤルといったトレンドがありましたが、今年は明確な傾向を感じにくいですね。
髙木教雄(以下「教雄」): ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(新作時計見本市。以下W&W)を取材した際も、今年はバラエティ豊かだと感じました。もちろん小径化は継続していましたし、スポーツウォッチよりクラシック系が多かったのは確か。一方、シャネルが「J12」の42mmケースを投入するなど、各社が小径路線に舵きりしたわけではなく。
信彦: 日本で発表会を開催したブランドの新作やリリースを見ると、各社が独自路線を打ち出していましたね。驚くような複雑機構や新開発ムーブメントが登場する一方で、既存モデルのブラッシュアップが丁寧に図られていました。
教雄: それは各ブランドが、それぞれの強みを発揮した結果だと思います。ブレゲが、創業者が製作した懐中時計に範をとりメゾンのデザインコードを集約した「トラディション」を慎重に練り直してきたのが、その好例。エナメルのダイヤルも自社製です。こうした工芸的アプローチは、他社にも多く見られました。
信彦: 例年よりも多いと感じたスケルトンダイヤルも、工芸的なアプローチのひとつですね。それもクラシックからモダンまで多彩な表現が試みられています。
今年のW&Wは、4月14日~20日に開催された。出展数は昨年より5つ増え、全65ブランドが集結。市も全面協力し、会場外の街中でもさまざまなイベントが開催され盛り上がりを見せた。
PATEK PHILIPPE
ゴールデン・エリプス 3738/100G
コレクションの“完成形”と絶賛されたミディアムサイズのRef.3738が帰還を果たした。ムーブメントも当時と同じCal.240。マイクロローター式の薄型自動巻きの名機であり、それを収めるケース厚も5.9mm厚と極薄である。オリーブグリーンのダイヤルは、緻密なソレイユ仕上げによって豊かなニュアンスを浮かべる。カーフストラップが、同コレクションにあっては新鮮。自動巻き、18KWGケース、35.6×31.1mm。¥6,590,000 Patek Philippe
教雄: 総じて時計が高額化する中、その価格に見合う普遍的な価値が追求された結果なのでしょう。そうした本質的価値は、流行り廃りに流されない。
信彦: だから、明確なトレンドがなかったんですね。とはいえ、先ほど小径は継続しているとおっしゃっていたように、小ぶりな新作がいくつも目に留まりました。例えばパテック フィリップのアイコンのひとつ「ゴールデン・エリプス」に小さなケースが追加されています。
教雄: その「Ref.3738」は、実は1980年代から2018年まであったロングセラーモデルの再来。パテック フィリップの型番はケースの金型に由来するそうなので、サイズもフォルムも当時のままです。だから小径化というよりも原点回帰であり、またそれよりひと回り大きい現行モデル「Ref.5738」にも新装が追加されているので、多様化であるともいえます。
信彦: 「ゴールデン・エリプス」を2サイズ展開としたのは、ジェンダーレスの流れにも乗ったからでしょうか?
教雄: そうだとは一概には言えません。ケースサイズだけで、メンズとレディースをカテゴライズするのは時代遅れだからです。性差に関係なく、好きなモデルを着ければいい。小径化は多様化のひとつであり、選択肢の提示にほかならない。
信彦: A.ランゲ&ゾーネが、「サクソニア・アニュアルカレンダー」を36mmとしたのも、多様化の現れなのでしょうね。
教雄: 1994年に発表された初代「サクソニア」のケースは、33.9mmだったから原点回帰でもある。ムーブメントは完全な新開発。ケースは9.8mm厚と薄くもあり、この中でアニュアルカレンダーを実現したことは本当に驚きです。こうした優れたムーブメントをリリースすることは、普遍的価値の創造の最たる術です。
信彦: 機械式時計の真の価値は、ムーブメントですからね。それを新開発するには、時間も手間もかかります。だからどのメゾンからであっても、新型キャリバーの登場は、いつもワクワクします。
教雄: 今年も見応え十分な新キャリバーいくつも登場していることから、時計界の未来は明るいと実感しました。
A. LANGE & SÖHNE
サクソニア・アニュアルカレンダー
月の大小(30日か31日か)を自動で判別し、例外となる2月末の翌日にだけカレンダーを修正すれば済む実用的複雑機構アニュアルカレンダーを新キャリバーで実現。日付表示には、ブランドを象徴するアウトサイズデイトを採用。10時位置のボタンで全暦表示を一斉送りでき、操作性も優れている。またリュウズを引かないとボタンが押せない安全機構も装備。自動巻き、18KPGケース、36mm。価格は要問い合わせ。A. Lange & Söhne
本記事は2026年5月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 70より抜粋















