BMW i4
電気でも、エンジンでも
「駆けぬける歓び」を追求
September 2022
text KENTARO MATSUO
2022年は輸入車マーケットにおける「電気自動車元年」として記憶される年になるだろう。メルセデス・ベンツ、アウディなどのドイツ勢を中心に、あらゆるメーカーがBEV(バッテリー・エレクトリック・ヴィークル)のニューモデルを大量投入してきている。
なかでも力が入っているのはBMWだ。2022年1〜3月の期間中、EVの販売台数は3万5289台で149.2%増となっている。10年もしないうちに、BMWで販売されるクルマの半分がEVになるという。
そんなBMWから、また新しいBEVがリリースされた。ここにご紹介するi4である。
BEVのベース車として選ばれるのは、SUV系が多い。車高が高いSUVは、床下にバッテリーのためのスペースを設けやすいからだ。しかし今回、BMWはセダン・クーペ系のシャーシをベースとしてi4を作り上げてきた。「駆けぬける歓び」を標榜するBMWらしいチャレンジだ。昔からのBMWファンのなかには、「やはりビーエムはセダンでなくては」という人も多いから、i4は注目を浴びるだろう。
エクステリアで目立つのは、縦横に大きいフロントのキドニーグリルだが、電気自動車なので空気を取り入れる必要はなく、グリルは塞がれている。i4はセダンの居住性とハッチバック・クーペの流麗なボディラインを併せ持つ「グランクーペ」というスタイルで、ロー&スリークなプロポーションは、クルマとしての古典的な美を感じさせる。
インテリアは、ベースとなった4シリーズ グランクーペと比べると未来的である。ふたつの横長ディスプレイを繋げて、ひとつ大きなスクリーンのように見せている。ナビやオーディオ、車両状態のチェックなど、ほとんどの操作は、この大型タッチパネルから行うことができる。
走り出すと、室内が静かなことに驚かされる。EVなのでエンジン音がしないのは当たり前だが、タイヤが路面上を転がる際に生じるロードノイズも、うまく抑え込まれている。荷室が大きいワゴンやSUVのボディは、どうしても車内に音がこもる感じがするが、その点、セダンボディを持つi4は、ノイズが「すっきり」としているのだ。
カーブなどを曲がると、セダンボディの優位性はいっそう明らかになる。SUVは車高の高さゆえ、転回中ぐらりと車体が傾くが、重心の低いi4はまったく安定している。どんなに電子制御が進もうとも、物理の法則には敵わないのだ。狙ったラインを正確にトレースすることができる。
アクセルを踏むと、電気自動車のために合成されたエンジン音「アイコニック・サウンド・エレクトリック」が「ドヒューン」というガンダムのようなサウンドを聞かせてくれる。これはBMWのBEV旗艦であるiXにも搭載されていたが、あちらがBowers & Wilkinsのオーディオシステムを積んでいるのに対して、i4はハーマンカードン製のため、音質が微妙に異なる。実際のミュージック再生機能も素晴らしく、車内はプライベートなリスニングルームと化す。
アクセルを大きく開けると、まるで蹴飛ばされたような加速感が得られる。トルクが回転数に連動するエンジン車と違って、いきなりEVはいきなりマックスパワーに達する。下手をすると、むち打ち症になってしまいそう勢いだ。
特筆すべきは、最大604kmという一充電航続距離の長さだ。これは東京から神戸まで無充電で行くことができるということで、クラス屈指の数値である。
BEVという最新のテクノロジーを追求しつつ、それをクーペ・セダンという古くから愛されてきたボディ形状に落とし込もうと奮闘しているのが、実にBMWらしい(最上級セダンである7シリーズにも、BEVであるi7が登場した)。
BMWは、電気だろうが、エンジンだろうが、常に「駆けぬける歓び」を与えてくれるクルマなのだ。