Mercedes-AMG SL43

プロムナード・カーとしてのSL

November 2022

text KENTARO MATSUO

 

 

 

 

「SL」と聞けば、1980年代のバブルを経験した世代は、特別な感慨を引き起こす。当時、日本において、メルセデス・ベンツSLは、プロムナード・カーの最高峰だった。プロムナード・カーというのは、スポーツカーではあっても、峠をギンギンに攻めたりせず、街中をお洒落にクルージングするクルマという意味である。性能よりも、ファッショナブルであることが大切なのだ。かつての東京・六本木あたりでは、ゆったりと通りを流すSLに、皆が羨望の眼差しを投げかけていたものだった。

 

 さて、今回リリースされた最新のメルセデス AMG SL 43は、そんなエレガントなSLが帰ってきたような一台だ。むやみにスペックを追求せず、肩の力の抜けた一台に仕上がっているような印象を受けた。

 

 

 

 

 まずいいのは、オープントップが幌になったこと。決して飛ばすクルマではないから、プロムナード・カーに金属製の屋根はいらない。ソフトトップにすると、クルマに何ともいえぬ洒脱さが生まれる。「スピードなんかに興味はありませんよ」という大人の余裕を感じさせるのだ。もちろん軽量化にも貢献しており、先代より21kgも軽くなったという。

 

 エクステリアはスリークで、長く平たいボンネットに、SLのアイデンティティを見ることができる。ノーズが長いと、オープンカーは優雅に見えるのだ。インテリアは、傾斜可能なモニターなどハイテクをフル装備しつつも、どこか懐かしさを感じさせる「ハイパーアナログ」と呼ばれるデザインを採用。シートレイアウトは2+2となった。リヤシートには実質的には大人は座れないが(対応身長150cm以下)、ブリーフケースやボストンなどを置くのに重宝する。これがあるのとないのとでは、実用性がぜんぜん違う。

 

 

 

 

 もちろんAMGのバッジがついているから、本気を出せばめちゃくちゃに速いのだろう。2L直列4気筒エンジンは排気量こそ小さいが、F1の技術を取り入れた「エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー」を装備し、381psの最高出力を叩き出す。これを専用の高剛性プラットフォームと「AMGスピードシフトMCT(9速オートマティック)」、新開発の「AMG RIDE CONTROL サスペンション」で受け止め、0-100km/h加速は4.9秒、最高速度は275km/hに達するという。

 

 スペックだけを見ていると、エレガンスとスポーティのどちらに軸足を置いているのか、一瞬戸惑うが、少なくとも見た目の佇まいが流麗でファッショナブルであることは間違いない。

 

 

 

 

 日本におけるイメージ・キャラクターは女性シンガーのiri(イリ)氏で「friends」というSLをイメージしたオリジナル・タイアップ曲も公開されるという。iriの楽曲を聞いたことがある人なら、「ああ、やっぱりプロムナード・カー志向なのだな」と得心されることだと思う。