Kubota Meets Innovative Italian
イノベーティブ・イタリアンと共鳴する 「久保田」の包容力
July 2026
日本酒を嗜む紳士にとって、「久保田」という名は特別な響きを持つ。1985年の誕生以来、“淡麗辛口”の絶対的代名詞として日本の食卓に存在し続けてきた銘柄だ。しかし、もしあなたの「久保田」の記憶がそこで止まっているとしたら、それは実にもったいないことかもしれない。
text Nobuhiko Takagi
会場となったのは、玉川田園調布の「il RISTORANTINO EFFETTO(イル リストランティーノ エフェット)」。
「新潟・長岡の地に蔵を構える朝日酒造は、創業時の屋号を冠したこの看板銘柄において、時代の食文化の変容に合わせ、静かに、しかし力強い進化を重ねてきた。現在、そのラインナップは17種と多岐にわたり、現代的な多様性を誇る。
先日、玉川田園調布の「il RISTORANTINO EFFETTO(イル リストランティーノ エフェット)」で開催された特別なイベントは、久保田が秘める圧倒的な多様性と、洋食をも飲み込む懐の深さを鮮烈に証明する一夜となった。
1985年の誕生以来、日本の食文化とともに進化を続けてきた「久保田」。伝統を守りつつも新たな味わいへ挑む多様なラインナップが揃う。
「定番」と「革新」が魅せる、想像を超えたペアリング
向原季幸シェフが手がける日本の感性を織り交ぜたイノベーティブ・イタリアンに対し、日本ガストロノミー協会理事・酒匠の佐藤厚一郎氏が「久保田」のさまざまなスペックを重ねていく。そのペアリングの実験は、洋食における日本酒の可能性を完璧に提示してみせた。
アペリティフには、きめ細やかな泡が弾ける「久保田 スパークリング」が奏でられ、素材の甘みを引き出したトウモロコシのスープと優しく響き合う。
華やかな泡と爽快な酸味が際立つ「久保田 スパークリング」。トウモロコシのナチュラルな甘みと調和し、コースの優雅な幕開けを告げる。
続いて供されたのは、前菜と合わせた夏季限定の生酒「久保田 翠寿」。瑞々しく清涼感溢れる飲み口は、夏食材や繊細な魚介の風味を一切邪魔することなく、すっきりと喉を潤す。
夏限定の生酒「久保田 翠寿」は、スイカを思わせる清涼な香りと軽快な味わい。旬の魚介を使ったフリットの味を引き立てる。
そして、この夜もっとも心を撃ち抜かれたのが、生の白海老をあわせたタリオリーニと「久保田 百寿」の組み合わせだ。久保田のラインナップにおいて最もスタンダードな存在である「久保田 百寿」。しかし、生海老特有のねっとりとした甘みと質感に対し、百寿が持つ本質的な旨味と凛としたキレがどこまでも寄り添い、見事な調和を生み出す。定番酒が持つ圧倒的な底力と懐の深さに、ただただ唸らされた。
生の白海老の繊細な甘みとコクを、久保田の原点である「久保田 百寿」の骨格がしっかり受け止める。定番酒の秘めたるポテンシャルを実感させる見事な一皿。
メインの魚料理に、複雑な酵母の旨味をもつ「久保田 萬寿 自社酵母仕込」との掛け合わせを経て、コースは終盤へ。コメをベースにしたリゾットには、やはりコメを醸した日本酒の包容力が遺憾なく発揮される。ワインでは時に難しいとされる繊細な和風出汁やコメ料理の一体感は、日本酒ならではの真骨頂といえる。
「久保田 萬寿」の持つシルキーなテクスチャーと上品な旨味が、チーズと米が一体となったリゾットと見事に親和した。
さらに驚かされたのは、食後酒として提案されたプロダクトの洗練度だ。純米吟醸酒ベースの「久保田 ゆずリキュール」は、イタリアのリモンチェッロを思わせる軽快なアプローチ。オンラインショップ・直営店限定で展開される「久保田 こうじあまざけ」は、自然な甘みと滑らかな質感でデザートとの調和を完璧なものにしていた。単なる清酒の枠にとどまらない、プロダクトとしての成熟度の高さがそこにはあった。
食後に提供された白桃と久保田の甘酒を使ったデザート。上品な麹の甘みがバラや和紅茶の香りと溶け合い、余韻を美しく締めくくる。
淡麗辛口の先へ。老舗蔵が挑む食中酒の新たなる領域
イタリアと日本は、ともに南北に長く、地産の食材を活かした郷土料理文化を持つ点で共通している。コメを起点とする日本酒は、生臭みが気になる魚介やコメ料理に対しても優しく包み込む包容力を見せる。
歴史と伝統を誇る巨大ブランドでありながら、「淡麗辛口」という成功体験に甘んじることなく、時代に即した変革を続ける朝日酒造の姿勢には深い敬意を表したい。
シェフの向原氏(左)、酒匠の佐藤氏(右)。日本酒と西洋ガストロノミーの未来について熱い議論が交わされた。
厳しい視点を向けるならば、日本酒業界全体において「ワイン文化圏への洋食ペアリング提案」や「気候変動による原料米の変化」など、越えるべきハードルは今なお高い。しかし、伝統を背負いながらこれほどしなやかに個性を研ぎ澄まし、洋食との調和に正面から挑む「久保田」の姿は、日本酒が世界のガストロノミーと肩を並べる未来をはっきりと予感させる。
「久保田は和食のための酒」。そんな先入観を捨て、洗練された洋のコース料理とともにそのグラスを傾ける時、食卓における最高に贅沢な驚きと出会うことになるはずだ。







