The New Look of CLASSIC WATCHES

目利き4人が選ぶ“最も惹かれたこの一本”

June 2026

百花繚乱の様相を呈する時計界において、指針となるのは自らの審美眼にほかならない。
立場もスタイルも異なる4人の目利きが、数ある新作の中から見出した私的結論をここに明かす。

 

 

text Nobuhiko Takagi

 

 

深き青の静寂とプラチナ粉が描く日本の美意識

 

 近年の時計業界は、非常に質の高い新作が多数発表される一方で、それらの価格設定には少々危惧を覚えている。でも、小径の時計が主流になりつつあるのは、歓迎すべき変化だと思う。今年驚かされた新作のひとつが、私がクレドールの中で最も気に入っている「ゴールドフェザー」の限定モデル。ブランド単独で初出展となるジュネーブの舞台で、世界に披露された1本。深いブルーのグラデーションに「プラチナ粉」の高蒔絵を施した極めて稀な組み合わせ。私も初めて目にしたが、実物の美しさは圧倒的だ。また、37.4mmという絶妙なケース径のサイズも素晴らしい。薄型のプラチナ製ケースは腕に吸い付くように軽やか。伝統工芸を現代の感性で見事に再解釈したこの意欲作は、今まさに私が手にしたいと願う、本物の逸品だ。

 

 

CREDOR

ゴールドフェザー GBBY967

漆を幾重にも塗り重ねた深奥な青でグラデーションを表現。ロゴやインデックスにはプラチナ粉の高蒔絵を施し、ダイヤルに立体的な陰影を宿す。「ゴールドフェザー GBBY967」世界限定25本。手巻き、Ptケース、37.4mm。¥5,500,000(6月5日発売予定) Credor

 

 

目利き人:

The Armoury共同設立者

マーク・チョー / Mark Cho

1983年ロンドン生まれ。米国ブラウン大学卒業後、投資会社を経て2010年にアーモリーを設立。ドレスファッション界を牽引する一方、時計コレクターとしても知られ、数多くのブランドと協業を行う。卓越した審美眼と知識は、常に世界の注目を集める。

 

 

技術を追求するスタンスを鮮明にする超絶モデル

 

 ジャガー・ルクルトには「ハイブリス」を冠したシリーズが、これまでふたつ存在した。2003年に誕生したハイコンプリケーションの「ハイブリス・メカニカ」、そして2014年にスタートしたメティエ・ラール(芸術的ハンドクラフト)を駆使した「ハイブリス・アーティスティカ」。今回の「ハイブリス・インベンティバ」は第3章となるもので、革新的なひとつの複雑機構を徹底的に追求する。第1弾は、メゾン2作目となる3軸トゥールビヨン。なんと想定される位置の98%をカバーできるという。この時計には、昨年1月、12年ぶりにCEOに復帰したジェローム・ランベール氏のメッセージが込められているようにも映った。何しろ03年に「ハイブリス・メカニカ」を立ち上げたのは、CEO就任2年目のランベール氏だったのだ。技術を追求する本来のスタンスに立ち戻る——そんな宣言をこの時計に見た。

 

 

JAEGER-LECOULTRE

マスター・ハイブリス・インベンティバ・ジャイロトゥールビヨン・ストラトスフェア

シリンダー型ひげゼンマイを採用し、20秒、60秒、90秒で1回転する3軸トゥールビヨンを6時位置に搭載。ダイヤルリング、香箱カバー、プレート、ブリッジまで、エナメル、ギヨシェをはじめ16ものメティエ・ラール技法によって装飾仕上げされている。世界限定20本。手巻き、Ptケース、42mm。¥95,040,000(参考価格)Jaeger-LeCoultre

 

 

手作業で面取り仕上げやコート・ド・ジュネーブが施された18KWGプレートなどを、サファイアケースバックから堪能できる。

 

 

目利き人:

時計ジャーナリスト・ミュージシャン

まつあみ靖 / Yasushi Matsuami

1963年島根県生まれ。1987年集英社入社、週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て92年よりフリー。腕時計、服飾、音楽、インタビュー等の記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著書に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)ほか。

 

 

貴石から発想した独創的なエナメル文字盤

 

 フランス語で「ここの時間」と「あちらの場所の時間」という名を持つ時計。デュアルタイム機能搭載のタイムピースである。これまでは「ピエール アーペル」で展開され、レトログラードの分表示とジャンピングアワーを組み合わせた印象的なレイアウトが愛されてきた。今作においては「ミッドナイト」コレクションでジェンダーレスな38mmとなり、新開発の自動巻きムーブメント搭載。約65時間のパワーリザーブなどのスペックアップを果たした。とりわけ目を引くのが、アンバーブラウンが絶妙なエナメル文字盤だ。テーマとなったのは、ルビーなどが持つ色合い。貴石の光学特性に着目することで、光によって明暗を変える、実に不思議な二色性の色彩が完成。吹きガラスの手法を応用して施された装飾との調和にも見事な職人技を見て取ることができる。隙の無い完成度にハイジュエラーの高い感性もが宿る。

 

 

VAN CLEEF & ARPELS
ミッドナイト ユール ディシ エ ユール ダイヨール ウォッチ

ジャンピングアワーがホームタイムと第二時間帯を、レトログラードが分を示す。中央のピケモチーフをギヨシェが取り巻く文字盤は、色と厚みを調整するために複数のパーツに分けて装飾が施されている。自動巻き、18KRGケース、38mm。¥8,250,000(予価/10月発売予定)Van Cleef & Arpels

 

 

釉薬のレシピをはじめ、開発も自社のエナメル工房で行われた。最初に低温で30時間、そして高温と超高温の焼成を行い、手作業で文字盤を成形。

 

 

目利き人:

時計・宝飾ジャーナリスト

野上亜紀 / Aki Nogami

ライフスタイル誌の編集者を務めた後、フリーランスに転身。スイスのウォッチ&ジュエリーフェアなどの現地取材には足繁く通い、現在専門誌や女性誌および男性誌、ライフスタイル誌の編集&執筆、セミナーの講演などを行う。

 

 

話題作の影で成された実用的で誠実な「再解釈」

 

 飛行家アルベルト・サントス=デュモンのために誕生した「サントス」は、パイロットウォッチに目がない私にとって常に特別な存在。自分の誕生年頃のモデルを愛用しているが、今年豊作だったカルティエの中で静かに登場したこの新作は、ひっそり私の心を動かした。従来のXLモデルに代わって登場したラージモデルは、左右39.8mm、厚みも11.6mmに抑え、装着性を向上させた。ダイヤルのデザインバランスも見直され、リュウズの上下に配された2プッシュ式クロノグラフへの変更を含め、計器としての完成度を高めている。10気圧防水や高い耐磁性、そして自身で容易に付け替えが可能な「クィックスイッチ」システムも搭載。伝統の意匠を継承しつつ、現代の日常に相応しい機能性を備えた進化は実に堅実。さらなる高みを目指すその姿勢が、航空史に名を残す飛行家のパイオニア精神と見事に重なるのだ。

 

 

©Cartier ©Maud Rémy-Lonvis

CARTIER
『サントス ドゥ カルティエ』クロノグラフ

2020年発表のXLモデルから機能性と汎用性を最適化しつつ、洗練されたラージモデルへとサイズダウン。写真のイエローゴールドのほか、コンビ、オールスティールの3バリエーションで展開。自動巻き、18KYGケース、47.5×39.8mm。¥12,144,000(予価/6月発売予定) Cartier

 

 

初代「サントス」(これが初の男性用腕時計とされている)が制作された年にちなんで名付けられた、キャリバー 1904-CH MCを搭載。

 

 

目利き人:

時計ジャーナリスト
THE RAKE編集長代理

髙木信彦 / Nobuhiko Takagi

2014年、THE RAKE日本版創刊メンバーとして参画。10年以上にわたり時計を担当し、スイス現地取材を重ねる。ふと自身の時計遍歴を振り返ると、気になる時計の多くがパイロットウォッチという事実に気づく。実用的な機能美と、背後にある物語をこよなく愛する。

 

 

本記事は2026年5月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 70より抜粋