TWO TAKES ON THE SPORTY CARTIER SANTOS

ラグジュアリーと
スポーティの“コンビネーション”

July 2022

「タンク」と並んで人気の、カルティエの永世定番「サントス」。

この“世界初の腕時計”の長い歴史におけるターニングポイントを紐解こう。

 

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1978年にアップデートされたカルティエの「サントス」。それまではクラシックでドレッシーな印象だったが、新たにリュウズガードを備え、アイコニックなビスを大きくするなど、スポーティなデザインに刷新された。ムーブメントは薄型のクォーツ。ケースとブレスレットにはステンレススチールを採用したが、部分的にゴールドを配してコンビネーションとすることでスポーティながらも高級感を維持することに成功。このコンビモデルは1980年代にかけて大人気を博し、再び輝きを取り戻した。Vincent Wulveryck, Collection Cartier ©Cartier

 

 

 カルティエは数十年という長きにわたり、特に王族や高級品コレクターの間で、ジュエリーウォッチや「タンク」ウォッチのメゾンとして知られていた。しかし、カルティエが真のブレークスルーを成し遂げ、一般的に広く知られるようになったのは、1980年代に入ってからのことである。そこまで時間がかかった理由はおそらく、時計がいつもゴールドやプラチナで作られており、手が届く人が限られていたからだろう。

 

 しかし、70年代末にメゾンの考え方が変わったことで、より多くの人がカルティエを手にすることができるようになった。当時カルティエのマーケティングマネージャーに就任したアラン=ドミニク・ペランが、かの有名な時計「サントス デュモン」をベースに、手頃な価格のスポーツウォッチを作るという名案を思いついたのだ。それは若い層にアピールし、さまざまなライフスタイルにマッチする汎用性の高いものでなくてはならなかった。

 

 そして出た答えが、ステンレススチールだった。それまでカルティエが扱ったことのない素材である。さらに、その新しい時計にも従来通りの高級感を持たせるため、ペランと彼のチームはゴールドのアクセントを付けたモデルの発売を決めた。ステンレススチールとゴールドのコンビネーションは当時としては非常に珍しい、斬新かつ大胆な組み合わせだった。

 

 

カルティエのCEOも務めたアラン=ドミニク・ペラン。彼がゴールドとステンレススチールによるコンビネーションのスポーティな「サントス」を手頃な価格で発表しようと思いつき、1978年に発売となった。

 

 

 カルティエは、この“コンビネーション”というトレンドを先導した最初のメゾンのひとつだった。したがって、「サントス」はなるべくしてツートーンのタイムピースとして1978年に誕生したのである。ベゼルのビスと、ブレスレット部分のゴールドのビスのデザインは、2種類の金属の組み合わせを引き立てるための最適な要素だった。実際、「サントス」はカルティエにおけるコンビのタイムピースの中でも素晴らしい美しさを誇っている。

 

 正確に言えば、ペランが作った「サントス」の発表は1978年10月20日のことである。場所はパリのル・ブルジェ航空宇宙博物館だった。そこには航空宇宙の先駆者アルベルト・サントス=デュモンの愛機ドゥモワゼル号が今でも展示されている。最高の選択といえるこの場所で、カルティエは盛大なガラパーティを開いたのだ。こうして新生「サントス」は大ヒットし、手に入れるべき時計の仲間入りを果たした。

 

 その後まもなくステンレススチールのみのモデルが発売されたことで、その人気はさらに飛躍的に高まったが、名声には悪い側面もあり、コピー品が欧米に溢れかえることになってしまった。

 

 この問題を解決することは、ほぼ不可能だった。ムーンフェイズやラウンドタイプ、オクタゴナルシェイプ、クロノグラフに至るまで、カルティエが「サントス」のさまざまなモデルを発売していったにもかかわらず、長年にわたって世界で最もコピーされた腕時計はクラシックデザインの「サントス」だったのである。

 

 

 

左:1912年製の手巻きの「サントス」リストウォッチ。Vincent Wulveryck, Collection Cartier ©Cartier 右:ブラジル人飛行家、アルベルト・サントス=デュモン。「飛行船の操縦中に懐中時計を見るのは不便」という彼の言葉を聞いた親友のルイ・カルティエが、1904年にレザーストラップで手首に装着できる時計を開発。1911年に市販化したこの時計が、“世界初の腕時計”といわれている。Archives Cartier ©Cartier

 

 

 1987年、デザインは刷新され、「サントス ガルベ」という名で再登場した。直線的な箱形のケースでなく、オリジナルより曲線的かつ滑らかで、腕にフィットする形状になった。

 

 そして1978年から40周年となる2018年、カルティエは再び「サントス」を刷新した。新コレクションは、ミディアムとラージの2サイズ展開で、オールステンレススチール、オールゴールド(YGとPGの2種)、コンビネーション(YG×SS)の4モデル。ラージサイズには6時位置に日付窓が付けられた。そしてもともと意図されていた“汎用性”を現代的に継承し、ケース素材にマッチしたインターチェンジャブルのメタルブレスレット、そして同じくインターチェンジャブルのカーフまたはアリゲーターのレザーストラップを付属とし、オーナーがスタイルに合わせて容易にチェンジできるようにした。

 

 さらに驚くべきものを求める人のために、ラージサイズのスケルトンモデルも作られた。スケルトン仕様という、技巧を引き立てるムーブメントに、ステンレススチールとピンクゴールドの2種のケース。いずれのモデルにも同色のメタルブレスレットが付属した。

 

 こうして長年にわたり、アイコニックなウォッチ「サントス」は、いくつものバリエーションが作られてきたのだ。