MYSTERIOUS MECHANISMS

エルメス時計の矜持

June 2026

「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2026」において、エルメスは「時」を再解釈する新章を提示した。スケルトンという表現を通じ、可視化された機構と詩的な造形が交差し、時計は実用を超えて感性を宿すオブジェへと昇華する。

 

 

text Kiyohiko Okubo

 

 

 

 

 ジュネーブでエルメスが示したのは、「時」を制御するのではなく、解き放つという思想だ。ムーブメントは単なる機構ではなく、絶えず変化する風景として現れ、光と影の狭間に漂いながら視線を奥へと導く——。象徴するのは、「エルメス H08 スケレット」「アルソー ミニッツリピーター サマルカンド」「スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌ」の3作。「見えざる時間」への窓ととして、機構そのものを詩的に語りかける。

 

 ブースのインスタレーションを手がけたのはジャン=シモン・ロック。木製構造体や滑車が躍動して時計機構と呼応。「内と外」という二重の現実を表現した。ロープは上下し、カウンターウェイトは軌道を描き、空間全体が巨大なからくりとして息づく。そこでは音も重要な要素となり、リピーターの響きは旋律へと変換。機械は楽器へと変貌する。

 

 「エルメス H08 スケレット」は、削ぎ落とされた構造によって機構そのものを可視化し、現代的な造形美を提示。「アルソー ミニッツリピーター サマルカンド」に息づく馬のモチーフは、ブランドの原点を想起させるとともに、音によって時を立ち上がらせる詩的な装置となる。「スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌ」は、ダブルムーンフェイズによって時間を宇宙的な広がりの中に位置づける。いずれも共通するのは、機能と美の境界を曖昧にし、時計を「身に着けるオブジェ」へと昇華させている点だ。

 

 エルメスにとって「時」とは計るものではなく、感じるもの。その哲学こそ、これら新作に宿る静かな革新なのだ。

 

 

©Joël Von Allmen

Hermès H08 Squelette 

エルメス H08 スケレット

マットDLC加工を施したチタンケースに、ブラックセラミックベゼルを組み合わせ、建築的なスケルトン構造を強調。約60時間のパワーリザーブを誇る自社製のH1978Sムーブメントを鑑賞できる。10気圧防水、ラバーストラップ仕様で季節を問わず日常使いできるのが嬉しい。ブルーまたはグレーの夜光インデックスが視認性の確保と個性の主張を両立させた。自動巻き、Tiケース、39mm。¥3,465,000(予価/6月発売予定) Hermès

 

 

©David Marchon

 

 

©Joël Von Allmen

Arceau Samarcande

アルソー ミニッツリピーター サマルカンド

アンリ・ドリニーの意匠を継ぐケースに、サンルイ製クリスタル文字盤と馬のモチーフを配した芸術的モデル。自社製H1927ムーブメントにはミニッツリピーター機構を搭載。339パーツから成る精緻な構造と手仕上げ装飾が融合。写真のホワイトゴールドケースのほか、貴石を配した(ホワイト、ピンクゴールド)モデルも展開。自動巻き、18KWGケース、38mm。¥48,543,000(予価/2027年2月以降発売予定) Hermès

 

 

©Team Whaaat

神秘的な内部機構を見せる新作に合わせ、会場では木製の構造体によるインスタレーションが展示された。

 

 

©Joël Von Allmen

SLIM D’HERMÈS Squelette Lune 

スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌ

オープンワーク文字盤越しにダブルムーンフェイズを表示し、北半球と南半球の月を同時に描く。軽やかな構造と詩的表現が融合した1本だ。パワーリザーブ約48時間の、超薄型自社製H1953スケルトンムーブメントを搭載。ケース厚は9.21mmで着用感も良好だ。写真のグレード5チタン製ケースのほか、ブルーのダイヤルが印象的なプラチナモデルも展開。自動巻き、Tiケース、39.5mm。¥3,454,000 Hermès

 

 

㉄エルメスジャポン 03-3569-3300

本記事は2026年5月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 70より抜粋