VITALE BARBERIS CANONICO

VBCのスーパーファインキッドモヘアは従来のモヘアのイメージを覆す圧倒的しなやかさ

March 2025

それにしても素晴らしいウールモヘアファブリックが登場した。新しいふたつのタイプのモヘアは、VBCだからこそ生まれ得たものだ。
text yuko fujita
photography tatsuya ozawa
styling akihiro shikata

VBCのスーパーファインキッドモヘアで仕立てたHENRY POOLEヘンリープールのシニアカッターであり、来日トランクショーも担当しているトム・ペンドリー氏がパターンを引いた「ケンジントン」というモデル。ヘンリープールの中ではコンパクトでモダンなラインを持ち、トラウザーズの股上はやや浅めだ。反染めによるVBCの「スーパーファインキッドモヘア」が独特の陰影を生み出し、高級感溢れる光沢を放っている。ウエイトは260g/m。スーツは国内縫製のメイド トゥ メジャーで、納期は約5週間。スーツ¥308,000(オーダー価格)Henry Poole、シャツ 参考商品 Minami Shirts、タイ¥42,900 Atto Vannucci / all by Nihombashi Mitsukoshi Main Store(日本橋三越本店 Tel.03-3241-3311)

 VBCの新作服地においては毎度のことだが、スーパーファインキッドモヘアと名付けられたこちらの生地の素晴らしさには心底驚かされた。実際に触れてもモヘアの生地だとは瞬時に判断がつかないほど、モヘア特有のザラザラ感が皆無、そしてしなやかなのだ。経糸に16.8マイクロン(スーパー150’sに相当)の高品質のウールを104番双糸にして用い、緯糸に同じ16.8マイクロンのウールに約30%のキッドモヘアを混紡して織り上げた、ウール84%、キッドモヘア16%によるこのウールモヘア服地のさらに特筆すべきことは、相当高品質なモヘアでしか織り上げられない“綾モヘア”である点だ。ヘンリープールの素晴らしい仕立ても相まって、このオーラ!

VBCモヘアは、動物福祉に関する基準を守り、環境への影響削減に責任ある運営を行っている牧畜業者のモヘアを使用していることを保証する自主基準RMS(モヘア責任基準)認証を得ている。サステナビリティを重要視するサイモン・カンディ氏が信頼を置く理由のひとつだ。©David Oliver Cameron

 素材の長所を見事なまでに際立たせた生地を生み出したかと思えば、ときにその個性をあえて消して別の個性を引き出し、まったく新しい魅力を創造する。あまたある生地ブランドの中で、VBCのクリエイションは芸術的といえるほど独創的で、常に我々を魅了する。しかも、それは決して突拍子のないものではなく、まったくもって新しいながらも、しっかりと純然たるクラシックに着地させている。簡単には実現し得ないことを非常に高いレベルで世に送り出し続けるVBCは、生地の新たな歴史を開拓する偉大なる冒険家だ。

 先のヘンリープールのスーツで紹介している、スーパー150’sに相当する16.8マイクロンのスーパーファインウールにキッドモヘアをかけ合わせた綾織りのスーパーファインキッドモヘアは、まさにそれだ。モヘアとは思えないほど抜群にしなやかで、それでいてハリも備え、ラグジュアリーな光沢を纏ったそれは、今までにない、極めて新しいウールモヘアだ。

VBCのアダルトモヘアで仕立てたLA SCALA(左)太番手のウールとアダルトモヘアをかけ合わせたモヘア混27%のトロピカルウールモヘア生地(290g/m)「アダルトモヘア」は、シワ回復力に優れ、ハリがあって大変仕立て映えがする。軽やかな仕立てで、生地の張力を生かして美しい立体を形成しているのは、ナポリのサルトリアに通いつめて学んだ山口信人氏ならではだ。ダブルステッチで袖口はひとつボタン。スポーティな一着だ。スーツは国内縫製のメイド トゥ メジャーで、納期は約5週間。スーツ¥225,500(オーダー価格)La Scala、シャツ 参考商品 Minami Shirts、タイ¥42,900 Atto Vannucci / all by Nihombashi Mitsukoshi Main Store(日本橋三越本店 Tel.03-3241-3311) チーフ property of stylist

VBCのアダルトモヘアで仕立てたSARTORIA YPSILON(右)船橋幸彦氏は1977年にローマに渡り、トミー&ジュリオ カラチェニで修業を積み、1980年にローマで独立、1994年にミラノでサルトリア イプシロンを始動した“イタロ ジャポネーゼ”の名匠だ。こちらは副資材を限りなく排除した非常に軽やかな「ローマ」と呼ばれるモデル。スーツは国内縫製のメイド トゥ メジャーで、納期は約5週間。「アダルトモヘア」のハリ感、反染めならではのグレーのトーンが新しい見え方を生む。スーツ¥220,000(オーダー価格) Sartoria Ypsilon、シャツ参考商品 Minami Shirts、タイ¥42,900 Atto Vannucci/all by Nihombashi Mitsukoshi Main Store(日本橋三越本店 Tel.03-3241-3311) チーフ property of stylist

 いっぽうで、スーパーファインウールモヘアの対極をいくウールモヘアもラインナップ。19マイクロンの太番手のウールを使用しながら緯糸にアダルトモヘアを50%ほどかけ合わせて、全体ではモヘア27%混のウールモヘア生地に仕上げたそれは、往年のヴィンテージモヘアを彷彿とさせるモヘア然としたタッチを楽しめる。その生地がユニークなのは、経糸に黒の色糸、緯糸に生糸を使用しながらオーバーダイ(反染め)することで、スモーキーな色合い、独特のシャンブレーカラーを表現している点だ。クラシックでありながら、見事に新しいのである。

VITALE BARBERIS CANONICO FAIR

3月26日(水)— 4月15日(火)
日本橋三越本店 本館2階 パーソナルオーダーサロン

VBCのスーパーファインキッドモヘアとアダルトモヘアをはじめ、VBCの数々のマスターピースファブリックを集めたVBCフェアが上記日程にて開催される。クラシックな中にもVBCならではの新しさを感じさせる素晴らしい生地の数々に触れられるこの貴重な機会を、お見逃しなく!

本記事は2025年3月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 63

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