VITALE BARBERIS CANONICO
サヴィル・ロウの名門ヘンリープールも惚れたVBCモヘアの魅力
March 2025
photography david oliver cameron

Simon Cundey / サイモン・カンディサヴィル・ロウに現存する最古のテーラー、ヘンリープールの創業者一族にして7代目当主。英国王エドワード7世考案のディナースーツやチャーチルのフランネルスーツなど数々の伝説と伝統を継承しつつ、アディダスやレンジローバーといった革新的なコラボレーションにも意欲的に取り組む。世界に販売網を広げ、現代のサヴィル・ロウを牽引する。
この日、サイモン・カンディ氏がサヴィル・ロウの本店で見せてくれたのは、VBCのディナースーツ用ミッドナイトブルーのウール&モヘアを使用した仮縫いの状態のスーツ。南アフリカから厳選した契約農家を子会社化し、モヘアの製造を行う、VBCの安定したクオリティには全幅の信頼を寄せている。
世界最高峰の仕立てを誇るヘンリープールでは、使用されるファブリックにも最上級の品質が求められる。
「最上級のファブリックは卓越した自然繊維からのみ生み出される」
この価値観を共有しているのがイタリア製ウールファブリックの最大手であるヴィターレ・バルベリス・カノニコ(以下VBC)だ。
ヘンリープールの7代目当主、サイモン・カンディ氏が特に注目しているのが、「繊維の宝石」と称されるアンゴラ山羊から作られるモヘアだという。
「地球温暖化の今、モヘアは再び非常にファッショナブルなファブリックとなっています。スイスのお客様からのリクエストがあり、夏の気候に耐えるように、ヘンリープール独自のカットは保ちつつ、スーツの構造をより軽量にしました。モヘアは春夏の気候に最適で、清涼感とクリスプなタッチがあり、シャープな仕立て映えが特徴の真にラグジュアリーな服地です。日本のように湿度が高く、蒸し暑い気候に適しています。進化して軽量化したスーツにモヘアは欠かせない素材となっています。現代のスーツにはより機能性や快適な着心地が求められています。モヘアは防シワ性、断熱性も高く、暑い気候に適した機能性を持っています。着用いただくとその真の価値がわかります。ウール100%のスーツでは得られない機能性がウール&モヘアのファブリックにはあるのです。ヘンリープールでは、北米、ヨーロッパ、中東、アジアと世界中にお客様がいるのですが、世界中のお客様に対応できる、ダイバーシティなスーツです」
スーツに加え、1865年にヘンリープールから誕生したディナースーツ(タキシード)にも、モヘアは不可欠だ。
「私にとってディナースーツは非常に重要なアイテムです。最低でも2着必要で、冬用にはウール、夏用にはモヘア&ウールを使用しています。ディナースーツは黒をご注文されるお客様が多いのですが、最初に英国王エドワード7世が注文されたディナースーツはセレスティアンブルー(ミッドナイトブルー)でした。VBCのモヘアはネイビーカラーが絶妙です。イタリア製ならではの微妙なネイビーの艶と陰影があり、写真写りもブラックよりよいのです。今後の気候変動を考えると、モヘアはこれからますます求められるファブリックです」

左:VBCは南アフリカの自社オフィスにより、30マイクロン以下のモヘア繊維のみを厳選、直接買いつけている。右:英国元首相ウィンストン・チャーチルが着用したチョークストライプのグレーフランネル3ピーススーツは、現在もヘンリープールを代表するアイコンだ。

サヴィル・ロウ15番地に位置するヘンリープールの存在そのものが英国ビスポークの歴史の象徴だ。

ここではヘッドカッターは存在しない。複数のシニアカッターの下にアシスタントカッターがつき、トレーニングを積むことで、安定したクラフツマンシップとハウススタイルを継承している。トリスターン・ソーン(左)とウィリアム・エドワーズ(右)。

1663年以来、360年を超えるウール製造の歴史を持つVBC。ヘンリープールと同様に今も創業者一族によって経営されている。