THE RAKISH SHOE FILE 008

中尾浩規氏:“格好よすぎない靴”こそ、自分のものにする楽しさがある

September 2022

「人が行かない時期に、行かない場所へ行き、人が気づかないモノ作りをすることが仕事」と話す中尾氏。
プライベートで愛用する3足も、実にツウ好みなラインナップだ。
text hiromitsu kosone
photography yuko sugimoto

Hironori Nakao「HUMANOS」代表
1963年生まれ。ユナイテッドアローズを経て2021年、栗野宏文氏とともに「ユマノス」を設立。「カルーゾ」やパリのシャツブランド「ブリエンヌ」、イタリア・コモのネックウェアブランド「フラテッリ ルイージ」などのエージェントを務める。写真ではカルーゾのリネンスーツにパリ・クロケットを着用。

 表舞台に姿を見せることは少ないが、中尾浩規氏は日本のクラシックファッションを支える重要人物だ。カルーゾをはじめとする実力派ブランドの国内エージェントとして敏腕バイヤーたちを相手にし、時には日本のデザイナーから要望を受けて彼らに最適な海外ファクトリーを引き合わせたりもする。いわば編曲家のような人物である。いうまでもなく、そこには卓越したセンスとバランス感覚が不可欠となるわけだが、氏の靴選びも実に独特で、大変趣味がいい。

「誤解を恐れずに言えば、“格好よくない靴”が好きです。シャープで研ぎ澄まされた顔つきよりも、どこか抜けていて隙があるほうがいい。それをどうやってモノにして、自分流に活用するか。そこに面白さがあるのです」

 とりわけ中尾氏のベースとなっているのは、在住歴もあるフランスのテイスト。501などアメカジの定番も、米国人よりフランス人のこなし方に共感して愛着が深まったそうだ。

「今回選んだ3足も、うち2足はフレンチのエッセンスが入っています。パリ・クロケットは華奢なフォルムといいパイピング使いといい、英国のコレクションとは趣を異にするデザインがいい。ジョンロブの『ロペス』もまた、フィリップ・ノワレが履いているのが強く印象に残っていることもあり、とてもパリっぽさを感じるアイテムですね。最後の1足はアメリカの定番・バスから。といっても有名モデルではなく、珍しいUチップを愛用しています。これも“格好よくなくて”好きですね」

 決して奇抜でなく、それでいて絶妙なツイストが効いている。これぞ中尾流靴選びの真骨頂なのだ。

左:主にパリのブティックで展開されている通称“パリ・クロケット”の1モデル。20年以上前に入手したものだそう。「比較的細身のフォルムと、履き口から羽根周りにかけて施されたパイピングがパリらしいですね。こういう靴はありそうでなかなかありません。ちなみに私は春夏もスエード靴を愛用しています。リネンスーツと相性がよく、この時期は好んで合わせています」
右上:「4年くらい前にピッティで見かけて“これは”と思いメーカーに個人オーダーしました。素朴なUモカにタッセルというデザインに愛嬌がありますね」
右下:「大定番の『ロペス』は色違いで5色所有しています。優雅でありながら独特の抜け感もあるところがいいですね。なかでもこのダークブラウンが最も着用頻度が高く、もう20年以上は履きこんでいます。先日、演出家/映画監督の河毛俊作さんとお会いしたのですが、河毛さんもロペスを履いていらっしゃり、それに強く影響されました(笑)」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 46

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