THE RAKISH SHOE FILE 006
山下哲也氏:いい靴とは、人生の扉を開けてくれるもの
September 2022
その審美眼は超一流だ。
photography shiro muramatsu
Tetsuya Yamashita「Café de Flore」ギャルソン
1973年生まれ。青山学院大学卒業。2003年より、パリ・サンジェルマン・デ・プレの名門カフェ「カフェ・ド・フロール」における唯一無二の日本人ギャルソンとして活躍。この日はエドワード グリーンを白デニムに合わせて登場。パリの空気感を服装でも体現している。
パリ左岸の名店「カフェ・ド・フロール」の名物ギャルソンとして知られる山下哲也氏は、超一流のサービスマンであると同時に卓越した“表現者”でもある。グラスの置き方ひとつにまで徹底した美意識をもち、人が気づかないレベルまで最高のパフォーマンスを追求する。サルトルの言葉を借りれば、フロールという舞台でギャルソンという役を完璧に演じる俳優なのである。当然その美意識は装いにも反映されているが、靴に対するこだわりも並々ならぬものがある。
「鴨志田康人さんや中村達也さんの足元をチェックして、まだ不釣り合いとわかっていながらジョンロブを履くRAKISHな大学生でした(笑)。若くして触れた最高のものは、その後の人生に大きな力を与えてくれたと感じています。僕が心から尊敬する伝説の靴磨き職人、井上源太郎さん(現在はThe Okura Tokyoに常駐)と出会ったのも、“君、若いのにいい靴を履いているね。しかも、よく磨いている”と声をかけてもらったことがきっかけです。また、ベルルッティの3代目当主オルガ女史自らがパティーヌしてくれた『アンディ』は僕をパリに導いてくれたと言っても過言ではありません。そしてフロールのギャルソンとしての初給料で買った『ロペス』は、今も僕の相棒です。人生の転機には、必ずいい靴との出会いがあります」
パリに暮らす氏だが、靴に関しては英国趣味も伺える。惚れ込んだ靴は色違いで揃えるあたりも通ならでは。年季の入った本格靴ファンだけあり、そのセレクトはさすがの一言だ。
プライベートに欠かせない絶対定番仕事ではウエストンのキャップトウを愛用する山下氏だが、今回はプライベートのベスト3をチョイス。
上:「19年間愛用し、ともにパリの街を歩いてきた『ロペス』は、僕の大切な相棒です。ジョンロブはこういった定番を堅持しているのがいいですね」
中:「こちらも僕の定番で、素材違いでもう1足持っています。四季を問わず、ドレスにもカジュアルにも使えるのがいい」
下:「アーモリー別注のサガンローファーは、夏のバカンスで重宝。香港、モーリシャス、シチリア、アマルフィなど、色々な場所に履いていきました」