May 2022

50 YEARS OF ROYAL OAK

唯一無二の革命児、
ロイヤル オーク

text tetsuo shinoda

1972年に誕生した初代ロイヤル オーク。高級ドレスウォッチに使用していたムーブメントのCal.2121を搭載するため、ケースは39mmと当時としては大型で、“ジャンボ”と呼ばれていた。ケースと内部の防水パッキンをがっちりと固定するために、ケースとベゼルをビス止めしているが、そのビスをケースバックから固定しているため、ベゼルから見えるビスは、方向まで綺麗に揃っているのが特徴。まさに完璧なデザインだ。

 レイキッシュマンは、待つことに慣れている。ビスポークはもちろんのこと、既製品であってもwellmadeなものは丁寧に時間をかけて作られるため、簡単には手に入らないことを理解している。となれば、手に入れるまでの時間も含めて楽しむというのが、正しい心構えだ。

 高級時計の世界でも、入手困難で、手に入れるまでに時間がかかるモデルがある。それがオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」だ。このモデルが誕生したのは1972年。プロジェクトの始まりは、1970年にイタリアのディストリビューターから、「革新的なスチール製ウォッチ」の製作を打診されたことがきっかけだった。

 イタリアは伝統的な時計の主要市場であるだけでなく、トレンドセッターでもある。ヴィンテージウォッチやデカ厚ウォッチ、カラーダイヤルなどの魅力をいち早く見いだすなど、目が肥えた時計愛好家が多いのだ。その声を受けてオーデマ ピゲはまず、時計のデザインを凄腕のジェラルド・ジェンタに依頼した。

左:1931年にスイスで生まれたジェラルド・ジェンタ。宝飾学校を卒業し、ジュエリーデザイナーから時計デザイナーへと転身。数々の傑作を手がけただけでなく、自身のブランドも率いた。2011年没。右:時計デザイナーのジェラルド・ジェンタは、この時計のデザインをたったの一日で考案したという。デザイン画が、最終的な製品とほとんど変わっていないところからも、それだけ完璧な仕事であったことがわかる。彼はロイヤル オークの成功によって名声を高め、のちに“時計界のピカソ”と呼ばれるカリスマ時計デザイナーとなった。

 だがここで大きな勘違いが生じてしまう。ジェンタは、革新的な“防水”ウォッチをデザインするのだと思っていたのだ。防水性を備えるということは、必然的にケースは大型化する。しかも防水というコンセプトを生かすため、彼は幼少期に見た潜水士のヘルメットの力強い形状をイメージし、八角形のケースやビスを配したベゼルを考案した。実は当時のイタリアでは、36mm前後のフェミニンな時計が流行っていたが、ジェンタが提出してきたデザイン画は、それとは正反対の、大型サイズのスポーツウォッチであった。

 これには、さぞかしオーデマ ピゲの経営陣も面食らったことだろう。しかし、当時のCEOジョルジュ・ゴレイは何かを感じとったようだ。社内からは反対意見もあったが、1970年の4月にこのプロジェクトはスタートする。

 しかしその時計製造は、困難を極めた。何よりも難しかったのは、ジェンタが考案した平面を組み合わせたデザインを具現化することだった。キレのあるケースやベゼル、そしてブレスレットを、硬いステンレススチールで作ることは当時の技術では難しく、プロトタイプの製作には加工しやすいホワイトゴールドを使用するしかなかったほどだ。

初代モデルの発売当時のロイヤル オークの広告。八角形ベゼルの造形美を強調するビジュアルを採用し、さらに「A tribute to steel」のキャッチコピーで、ステンレススチールウォッチであることを強調している。

 プロトタイプでディテールの表現を確認する一方、ステンレススチールの加工技術をブラッシュアップさせ、ケース構造の特許も取得。さまざまな技術開発を経て、1972年4月15日にロイヤル オークは発売される。ちなみにこの名称は、鋼鉄で装甲した英国海軍の戦艦ロイヤル オークや英国王チャールズ2世が戦闘中に樫の木に身を隠したという逸話に由来する。ロイヤル オークは、極めて手の込んだ外装の時計であったため、ゴールドケースのドレスウォッチより高価だった。しかしその造形美と立体感、上質な仕上げから、のちに“ラグジュアリースポーツウォッチ”と呼ばれることになる。

 それから現在まで50年の歴史を歩んできたロイヤル オークは、ディテールの小さな進化と熟成を積み重ねるものの、アイコニックなデザインは変わらなかった。防水性に優れるタフなスポーツウォッチだが、ラグジュアリーウォッチに匹敵する上質な時計であるため、カジュアルスタイルにもドレススタイルにも似合う汎用性の高さも人気の理由となっている。しかもケースが薄型なので、ドレスシャツの袖にも干渉しにくく、着こなしを邪魔しない。それもまた高い評価を得た理由である。

ロイヤル オークの設計図。ケース構造に関していくつもの特許を取得しており、それが他には真似できないロイヤル オークの個性となっている。

創業地であるスイス、ジュウ渓谷のル・ブラッシュ。今もここで時計を作っている。

 これだけ人気があるなら、もっと増産すればよいと考えるのが普通だろう。だがそれは無理なのだ。加工に散々苦労した50年前に比べれば、機械のレベルは進化し、製造に関するノウハウもあるが、それでもケースとブレスレットは製造だけで約5時間。さらに、162もの工程がある仕上げ作業にも同等の時間がかかる。つまりひとつの時計の外装を作るのに、最低でも10時間もかかるのだ。

 また、古いギヨシェマシンを使って一筋ずつ職人が彫り込む「タペストリー」と呼ばれるダイヤル装飾も凝っている。この模様は光を綺麗に反射させるために精巧な台形型になっており、ダイヤルの中央に行くほど間隔が狭くなるなど、かなり丁寧に作られているのだ。

 このように、ロイヤル オークは驚くほど手の込んだ時計であるため、生産本数を増やすことができず、常に品薄状態になっている。残念ながら現在もこの時計を手に入れるのは困難である。しかし間違いなくそれだけの価値がある。

 今年は誕生50周年を記念して、下記の六本木のエキシビションのほか、銀座ブティックの地下にてコレクター所有の希少モデルを展示する『こんなロイヤル オーク、見たことない』というイベントも開催されている。歴史と文化を学びながら、時計を待つ。それもまた贅沢である。

オーデマ ピゲが誇る名作ウォッチ「ロイヤル オーク」の誕生50周年となる今年、現代的に進化した新デザインのモデルが多数発表された。旧作との主な違いとしては、ダイヤルの24Kゴールドのアプライドロゴ、タペストリーに直接施された分表示目盛り、ポリッシュ仕上げの面積がやや大きくなったラグ、徐々に薄くなる新デザインのブレスレット、そして今年の製造分のみに搭載される22Kゴールドの50周年記念ローターなどが挙げられる。写真は、旬のカーキグリーンのダイヤルとアリゲーターストラップを採用した「ロイヤル オーク クロノグラフ」。自動巻き、18KPGケース、41mm。¥5,775,000 Audemars Piguet photography shoichi kondo

50周年のロイヤル オークに「見て、触れて、学ぶ」エキシビション開催!

東京ミッドタウンにある「21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3」にて、傑作「ロイヤル オーク」の50年の歩みを、「見て、触れて、学ぶ」イベントが開催中。会場には、希少なヴィンテージモデルや当時のデザイン画、技術資料、そして歴史がわかる写真や動画、広告ビジュアルなどが展示され、ロイヤル オークの足跡を学べるようになっている。さらに時計に対する知識レベルがわかるクイズコーナーやアイコニックな八角形ベゼルの精密な磨き工程を見学できるコーナーも用意される。入場料は無料だが、以下のWEBサイトで事前予約するのがベストだ。
https://borninlebrassus.audemarspiguet.com/event02/

【ロイヤル オーク 時を刻んだ50年】会期:2022年6月5日(日)まで(無休)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
東京都港区赤坂9-7-6(東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)
開館時間:11:00-19:30(19:00最終受付)
入場料:無料(事前予約優先)

オーデマ ピゲ ジャパンTEL.03-6830-0789
www.audemarspiguet.com/com/ja

本記事は2022年5月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 46