THE RAKISH SHOE FILE 011
山口 浩久氏:履いて120%になる嫌味のない靴が理想
September 2022
山口氏のベスト・シューズは、まさにそんな魅力にあふれている。
photography kenichiro higa
Hirohisa Yamaguchi「Joshua Ellis」ディレクター
1967年生まれ。繊維商社やスコットランドのテキスタイルブランドを経て2015年よりジョシュア エリスに参加。日本で展開するマフラー&ストールコレクションを手がける。この日はペコラのビスポークスーツにポロ ラルフ ローレンのタイ、靴は英国製のビームスF。
山口浩久氏はどこまでも自然体の人だ。ゴリゴリのヴィンテージ生地で仕立てたビスポークスーツに身を包んでいても、衒いや押し付けがましさは皆無。一切の下心なく純粋にクラシックを愛していて、それを無理なくライフスタイルに溶け込ませている証である。靴のチョイスにもそれがよく表れていて、希少性や表面的な高級さのみを追い求めることは決してしない。
「英国ブランドの仕事をしているから全身イギリスで固めなきゃとか、仕立てのスーツには注文靴を合わせねばといった感覚はないですね。メンズ・ウィメンズをまたいでいろいろなバイヤーさんと接する仕事柄もあって、むしろいろいろなものを混ぜたほうが自然だと感じます。靴選びの傾向としては、嫌味のないものが好きですね。20年ほど前に買ったビームスFの靴は何の変哲もないんですが、セミスクエアのトウシェイプといいキャップのバランスといい、大変気に入っています。水に強いオイルドレザー製によるクロケットの『セッバラ』は出張に欠かせない靴で、実用品として愛用していますね。一方、ジャコメッティは自分にとって冒険心をくすぐられる靴。インポーターの秋山淳一郎さんはあらゆる国のテイストを熟知していて、それを現代的に表現する達人。服装に刺激が欲しい時に絶好ですね」
靴はバランスが重要で、身に着けて120%になるものが理想的と山口氏。真のアンダーステイトメントを実践する彼の言葉だからこそ、その意味は極めて深い。
一切衒いのない
最高の“普通”左:英国修業から帰国した2000年に購入した英国製のビームスFオリジナル。「自分にとって、これがドレス靴の基本形。全体のシェイプから細部のバランスまで非常に気に入っていて、最も安心できる一足です」
上:「ジャコメッティはいつも絶妙に攻めが効いた靴を提案していますが、私のようにコンサバな人間でも挑戦したいと思わせてくれる素晴らしいブランドです。この独特なスリッポンも、クラシックな服に意外なほど合いますね」
右:オイルドレザー&ラバーソールの頑健な1足。「英国出張時は当地の上司や社長の家に滞在し、犬の散歩などにも一緒に出かけるのですが、カントリーサイドゆえ悪路が多い。とはいえ彼らはスニーカーを履いた部下を好みませんから、こういうタフな靴が必須なのです」