THE RAKISH SHOE FILE 009
沖 哲也氏:いい靴とは、見た瞬間に“風景”が浮かぶ1足
September 2022
靴選びにおいて重視するのは、スペックではなくスタイルだ。
photography kenichiro higa
Tetsuya Oki「Acate」クリエイティブディレクター
「Unison」クリエイティブディレクター
1972年生まれ。バセット ウォーカーを経て独立。2016年にスタートしたバッグブランド「アカーテ」は目下、世界的な人気を博す。この日はエドワード グリーンの「ハロウ」にルカグラッシアのシアサッカースーツを合わせた初夏の装い。
沖氏がベスト・シューズとして挙げる3足は、いずれもクラシコイタリアブームの黄金期に作られた靴。当時名店バセット ウォーカーに在籍し、とびきりの洒落者たちと密な交流を結んでいた氏にとって、この時期に育んだ美意識が自身の核となっているからだ。
「自分の瞳の色に合わせてスーツを選び、微妙なトーン違いをずらりとワードローブに揃えたり、同じモデルの靴をシングルソールとダブルソールで所有し、季節によって履き分けたり。本当にエレガントな人はこういうところにこだわるのかと、目から鱗が落ちること度々でした。今のように大量の情報と接することはありませんでしたが、そのぶん純度が高かったように感じています」
そう述懐する氏が“いい靴”の基準とするのは、“風景”をイメージさせてくれるかどうかだという。
「例えばこのエドワード グリーンは風薫る初夏にきらめく陽光がパッと目に浮かびますし、スティヴァレリアサヴォイアなら、カシミアではなくツイードのジャケットを着て、土と草木に囲まれた郊外に佇む男を想起します。バリントはやはり、異国情緒に満ちた中欧の旧市街をイメージさせますね」
エレガンスは風景と一体になって生まれるもの。これもまた、氏が先人に学んだ美意識なのだ。
クラシコ黄金期の魅力が輝くレア靴上:15年ほど前にカスタムオーダーした「ハロウ」。ショートノーズの61ラストだが、細身のDウィズを採用。「アンラインドなので春夏に愛用しています。もとは茶スエードでしたが、紺のクリームを塗り込んで表革風にしました。
左:知る人ぞ知るウィーンのメーカー、バリントで約15年前にオーダー。「この独特なデザインは、昔の洋雑誌で見て以来の憧れでした。中欧らしい土着的な顔つきが大好きですね。
右:ミラノの注文靴店が展開するプレタ。こちらは貴重なエドグリ製だ。「有名な32ラストのセミスクエア版“31”を採用しつつ、Fウィズで幅広に設定しています。この質実剛健なアレンジが魅力的ですね」