一生愛せる、ニッポンの職人が作る服 Vol.01
サルトリア チッチオの
“マニカ フォルケッタ”
July 2020
彼らの作品の中でも、まさに“一生もの”といわれているマスターピースを紹介する。
上木規至氏のナポリの師匠パスカリエッロが得意としていたラグランスリーブのコートに、世界中の洒落者たちが注目している。
photography jun udagawa
styling akihiro shikata
Noriyuki Ueki / 上木規至1978年生まれ。2003年、ナポリへ渡り、ルイジ・ダルクオーレ、その後アントニオ・パスカリエッロに師事。2006年に帰国後、タイ ユア タイ 青山内に工房を構える。2015 年、青山にサルトリア チッチオをオープン。香港のThe ArmouryやソウルのVilla del Coreaでもトランクショーを開催するなど、世界中で評価されているサルトだ。
肩に美しく沿ったラグラン袖は芸術の域 セブンフォールドの加賀健二氏も、イルミーチョの深谷秀隆氏も、ブライスランズのイーサン・ニュートン氏もケンジ・チュン氏も、昨今の多くのウェルドレッサーたちが仕立て、愛用しているのがサルトリアチッチオのラグランスリーブコート“マニカ フォルケッタ”だ。袖を横から見ると3つの縫い代がフォークのように見えることから、イタリア語で「フォーク袖」を意味するこの名がついた。チッチオでコートを仕立てる人は、ほとんどがマニカ フォルケッタをリクエストする。
きれいに収まる肩のラインラグランスリーブコートのパターンは一般的には肩が起きているが、上木氏は通常よりも肩を寝かせている独自のパターンを採用。これはパスカリエッロ氏ゆずりのもので、ほかでは見られない。着たときに肩がすっと収まる。
実はこのマニカ フォルケッタは、上木氏のナポリでの修業時代の師匠であり“チッチオ”の名づけ親でもあるアントニオ・パスカリエッロ氏が得意としているコートである。修業時代、顧客からよく注文が入っていて、結構な数を仕立てていたという。そして今日、それはそのまま上木氏が得意とするコートとなり、サルトリアチッチオを象徴するコートとなった。上襟が首にしっかり乗っていて肩のラインに美しく沿いながらきれいに流れていて、膝まで流麗なAラインのシルエットが描かれているのがその特徴だ。
すっきり見える袖一般的なラグランスリーブのコートは袖が身頃に乗っているように倒しているが、上木氏の場合は縫い代の倒し方をわざわざ逆にして、袖が身頃の中に入り込むようにしている。これによって視覚的に袖がすっきり見える。
師匠ゆずり、チッチオを象徴するコート サルトリア仕立てのマニカ フォルケッタを着ている紳士は昔の写真ではよく見るものの、最近はリクエストがないからか、これを仕立てるサルトリアはめっきり減ってしまった。この手のコートはクラシック再燃の中でむしろプレタポルテにおいて多く見られるが、首から肩にかけての美しいラインは、圧倒的にビスポークに軍配があがる。
完璧に首に沿った上襟襟が高いので通常よりもアイロンにかなり時間がかかるが、入念なアイロン作業でしっかり殺して首の後ろに完璧に乗せている。生地にウエイトがあるものの、ここにしっかり乗っているので、重さはまるで感じない。
上木氏の服を仕立てに今や世界中の人たちが彼の店を訪れるようになった今日、スーツとジャケットを仕立てたら、次はこのマニカ フォルケッタをオーダーするのが最近の流れのようだ。素材はバルキーなツイードがお決まり。着込んでいくほどに味わいが増すので、まさに一生愛せる服となるのだ。
上木氏が得意としている“マニカ フォルケッタ”ことラグランスリーブコート。スポーティでありながら、美しい肩のラインを描くその服は、抜群のエレガンスを備える。前を開けて着てもよし、イタリア人のようにボタンを上まで留めて防寒・防風対策をエレガントにこなしてもよし。大変使い勝手のいいコートであり、上木氏の冬はもっぱらこれである。コート¥670,000 ~(オーダー価格) Sartoria Ciccio
サルトリア チッチオ
スーツ¥580,000~、ジャケット¥460,000~。コート¥670,000~。納期は約半年~。
着分の生地から選ぶのがオススメだ。
東京都港区南青山5-4-43
TEL.03-6443-5567
Sartoria Ciccio
本記事は2018年5月24日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 22