METHOD MAN:ED HARRIS

俳優エド・ハリス 独占インタビュー

April 2024

『ウエストワールド』(2016年)シリーズで、黒服を着る謎の男役に扮したエド・ハリス。

役になりきる、ということ 常に器用に演じることができる俳優というのはいる。彼らのプロフェッショナリズムは賞賛に値する。自らの能力を発揮できる台本を、上手に選ぶ能力を讃えることもできる。が、映画のエンドロールが終わると、彼らの名前は忘れてしまいがちだ。

 しかしながら、ハリスのような、役に没入するタイプの役者=メソッド・アクターは、見る人に強烈な印象を残す。彼らはフィクションではなく、現実の世界に実在しているようで、演じているのかどうかさえ、わからなくなるほどだ。

 ハリスは、フロイトが“イド”と名付けたもの、内面の葛藤と危険な衝動をキャラクターに投影することに命をかけている。それは俳優にとっては、役と一心同体になるくらいにすべてを投入しなくてはいけない一か八かのゲームである。

 例えば、ダニエル・デイ・ルイスが『ラスト・オブ・モヒカン』の役作りをした際には、獣を追い、皮をはがし、トマホーク斧で戦い、全速力で走りながら12ポンドのフリントロック式ライフルを撃つことを実際に行ったという。噂によれば、そのライフルをどこにでも、クリスマス・ディナーにも持って行ったとのことだ。

 メソッド・アクターが渡る綱渡りを理解するには、“Ed Harris outtakes(エド・ハリスのNG集)”とグーグルしてみるだけでいい。

「カメラの前であろうとステージであろうと、ただ真実を語りたい」とハリスを言う。

「俺は小細工が好きじゃない。嘘は嫌いだ。自分の中にあるものを、本当のものとして見せたいんだ。十分なリサーチや準備をして、それを表現するんだ」

 私はハリスに、「役の人物になりきれることは、あなたが内省的であるからではないか。役者が内向きであれあるほど、人物の精神面を掘り下げることができ、他の役者が見逃すニュアンスを拾えるのではないか」と投げかけてみた。彼は答えた。

「その通りだと思う。演劇の勉強を始めた頃は、自分がしたいことに集中していて、仕事を一緒にしている人以外はあまり気に留めていなかった。仲間内だけで成長したから、キャスティング・ディレクターと会ったり、ミーティングに出たりしなくてはいけないことは、とても不快なことだった。今はありがたいことに、プライベートなことを話せる親しい友人は何人かいて、単なる知人はもっとたくさんいる。実際、演劇を始めた頃よりずっと社会的になった。社交上手なエイミーと結婚しているので、ディナーに出かけても一言も話さないで済むしね」

 つまり、ハリスの映画が物語る通りだ、ということだ。今日、68歳にして、自分のことを“現存する、もっとも偉大な俳優の一人だ”と誇ってもいいはずだが、もちろん、彼はそんなことはしない。彼は自分を美化したりしないのだ。もちろん、自分が出演した映画のことを話すし、インタビュー・マラソンにも出るし、微笑む必要があるときには微笑む。だが、自分をプロモートすることはまったくない。

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

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