Dressing for a New Era Part1

鴨志田康人 大研究

April 2021

世界で最も知られた日本人のウェルドレッサーといえば、間違いなく“カモシタ”の名が挙がる。
世界を魅了するそのスタイルはどのように作られたのか?
素顔のカモシタのライフスタイルを通じて、その哲学に迫る。
direction & text yoshimi hasegawa
photography natsuko okada

鴨志田康人 / Yasuto Kamoshita1957年生まれ。ビームスを経てユナイテッドアローズの設立に参画。2004年からクリエイティブディレクターを務め、昨年よりクリエイティブ アドバイザーに就任。07年、自身のブランド「カモシタ ユナイテッドアローズ」を始動し、世界中で人気を集めている。2019年より日本におけるポール・スチュアートのディレクターにも就任。

自宅でのリラックスしたスタイルで、ニットはCamoshita、TシャツはH、トラウザーズはセラードア。

「役に立たないもの、美しいと思わないものを家においてはならない」

 鴨志田康人氏の自邸で撮影を行っていると、ウィリアム・モリスのこの言葉が頭に浮かんだ。

 ウィリアム・モリスは19世紀英国「アーツ&クラフツ」運動の創始者で、モダンデザインの父と呼ばれている。

 自らデザインを考え、設計士と相談しながら20年前に建てた自邸は“カモシタスタイル”の世界観を表す小宇宙そのものだ。

「所有するもの、目に映るもの、服も家も自分の身の回りにあるものは好みが一緒で、そうでないものは我慢できない」といみじくも鴨志田氏は言う。

 美意識という言葉は曲者だ。彼の言う美意識は決してよくいう「高価なもの」に結びついているわけではない。

「例えばここにあるものは大半がとりたてて高価なものではありません。自分の美意識に合うかどうかで選んでいます。決してコレクターでもないし、実用品ばかり。高級そうにみえるものはどちらかというと好きではありません。家においてあって居心地のいいものが好きで、これみよがしのもの、ピカピカの高級そうなものは苦手です」

 アメリカの住宅等を見て回り、勉強した結果、ミッドセンチュリーをベースに造ったという家は、20年の歳月を経て、人に馴染んだ美しい佇まいを見せている。その使い手にフィットした様子は鴨志田氏の洒脱だがノンシャランスとされる着こなしの哲学に通じる。

「なぜミッドセンチュリーを軸にするか。そこには住み心地の良さがあって、見た目の美しさも兼ね備えているからです。ちょうどいいバランスがある。なにごとにおいてもバランスの良さが大事です。格好良すぎず、かといってどこかに緊張感が必要なんです。

 結局身体にとって居心地が良くても、見た目でも居心地が良くないと本当に寛げない。この程よい緊張感のバランスを持っているという意味でミッドセンチュリーが好き。格好良すぎず、肩肘張らないで和めて、過度の装飾がなく、ミニマルな冷ややかさもなくて、開放的だけど、秩序はきちんと保たれている。

 自分が好きなモダンジャズがフィットするような空間で、和食も洋食もフィットする。レトロ感もあるけどカビ臭くない。バカラのグラスも似合うし、民芸の器も似合う。オールデンにもグッチのビットローファーにも合う。高級そうに見えないけど品格は備わっている。そういうスタイルが好きですね。改めて自分の居心地のよさ=自分の装い方なんだと思います。ちょうど良い居心地が自分の着心地にもなっているんです」

ニットはマイケルタピア。住まいと共通の美意識がある。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 38

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