November 2021

1960s ALAIN DELON

スタイルアイコン、アラン・ドロンの芸術的着こなし

アラン・ドロンの反抗的な青春時代とハリウッドへの無関心は、彼の自由奔放な気質を物語っている。
そしてそれは、彼自身のファッションにも表れている。
text charlie thomas

『太陽がいっぱい』では、ブルーのボタンダウンシャツのシンプルかつエフォートレスなスタイルで貧乏な青年トム・リプリーを演じた。

 アラン・ドロンのように服を着こなす人物は、歴史上そうはいない。1960年代に彼のキャリアが開花したとき、自分にこれほど自信を持っている男はいなかっただろう。この自信は、『太陽がいっぱい』のトム・リプリー役から『サムライ』(1967年)のジェフ・コステロ役まで、さまざまな場面写真から垣間見ることができる。だが彼は世界的にもっと大きな存在になれたかもしれないのだ。

 ドロンは英語を学ぶことを拒否してハリウッドには行かず、母国フランスでのキャリアを選んだことで有名だ。しかしこれが彼にとって初めての反抗ではない。彼は複数の学校から退学させられ、フランス軍に入隊した際には11カ月間を刑務所で過ごした後、不名誉にも除隊されている。

 このような彼の反抗的な態度は、スクリーン外での服の着こなしにも見られた。ケーリー・グラントやクラーク・ゲーブルのようにひと目でわかるお洒落とは異なり、彼の着こなしにはフランス独特の無頓着さ=“ノンシャラン”があり、着ているものを気にしていないかのような印象を与えていた。

左:映画『サムライ』(1967年)。ドロンが役柄でタバコを手にしていないことはほとんどなかった/右:ピンボールマシンの前でポーズをとるドロン(1955年頃)。

 1960年代のドロンのスタイルは、一般的には目立たないものだった。グレイやブルーのシンプルなテーラーリングを好み、フォーマルなイベントでネクタイを締めなければいけないときは、必ずニットタイやシルクのダークなソリッドタイを選んでいた。チーフは使わず、唯一のアクセサリーは口に咥えたタバコ。カジュアルではニットを巧みに着こなし、トラウザーズにスリッポンを合わせてコンチネンタルなセンスを発揮した。

 ドロンは多くのスタイルを持っていたが、彼のファッションについてはあまり語られていない。秘密があるわけでもなく、独自の着こなしがあるわけでもなく、着ている人を引き立てるようなシンプルな服を着ていたからかもしれない。

ドロンはシンプルなテーラードスーツとソリッドなカラーとのコントラストを好んだ。

『太陽がいっぱい』では、彼がストリート・マーケットを歩き回るシーンがある。タバコを咥え、ジャケットを無造作に肩にかけて歩くその着こなしは、まるでドロンがモデルとしてランウェイを歩いているようで、芸術的ですらあった。白いシャツはフロントボタンを開け、袖をまくり上げている。グレイのミッドライズのトラウザーズは、緩やかにテーパードしている。特別なアイテムは何もないのだが、このシーンで彼は“クール”を見事に象徴していた。

「何を着るかではなく、どう着るかだ」という使い古された決まり文句があるが、ドロンはそれを完璧に証明した。ファッションにおいては、すべてがシンプル・イズ・ベスト、なのである。

1963年頃のドロン。

ブリジット・バルドーとサントロペでのクルーズを楽しむ様子(1968年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 41

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