From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

マイナスをプラスに転ずる人 赤尾健さん

Tuesday, July 25th, 2023

text kentaro matsuo

photography natsuko okada

 

 

 

 

 さて、この方のご職業は何だと思いますか? ラフなヘアスタイルに甘いマスク、スマートな体型などから察するに、アパレルの店員さんか美容師、またはイタリアン・レストランのカメリエーレって感じでしょうか? お洒落な接客業にいそうなタイプですよね?

 

 しかし、正解は“お医者様”です。赤尾さんの肩書きは、以下の通り。

 

 

湘南美容クリニック

ゾーン統括ドクター兼池袋東口院院長/

外科経営戦略室/

クリニックプロモーションプランナー

運営企画アドバイザー

 

 

 この方は、湘南美容クリニックの超人気・美容外科医なのです。

 

「湘南美容クリニックは全国に140のクリニックを展開しています。ドクターだけで400人、スタッフまで含めると7,000人の大所帯です。間違いなく日本一で、世界でも医療系としては有数のグループでしょう。その中で、私は患者様からの指名数、第1位を頂きました」

 

 赤尾先生は、湘南美容クリニックに入職以来、グループ内で異例の出世を遂げられ、2022年における執刀数でも、グループ1位を獲得なさっています。なぜ、そんなに人気があるのでしょうか?

 

「SNSとYouTubeのおかげです。インスタのフォロワーは2.9万人、YouTubeは多いものだと20万回以上再生されているものもあります。動画は台本を作って、自分で撮影しています。美容外科の世界は競争が激化しており、指名を頂くために、また患者様とコミュニケーションをするためにも、SNSを活用することが欠かせません。普通の内科のドクターも、やればいいと思うのですが……」

 

 ネットでお名前を検索すると、たくさんのヒットがあり、コメント欄は絶賛の嵐です。それにしても美容整形って、ファッションやメイクと同じくらい、もう気兼ねのない話題となっているんですね……。

 

「昔は美容整形というと、タブー視され、隠れてやるものといった風潮もあったようですが、今ではいろいろな方が気軽に試されています。下は中学生から、上は70代まで。年配の男性の方も多いですね。目の下のクマの除去やリフトアップなどの施術を希望されます。つい先日も、63歳になる私の母親が、クマの治療を受けたばかりです」

 

 

 

 

 赤尾さんは美容整形のなかでも二重まぶた整形を専門とされています。

 

「いまは埋没法という、まぶたを糸で縫う二重整形のみを担当しています。いわゆるプチ整形というもので、手術時間は15〜20分程度で終わります。美容整形の取っ掛かりとして、手を出しやすく、満足される方が多い施術法です」

 

 ここでカメラマンの岡田ナツ子が、もうたまらんというように、話に割り入ってきました。

 

「痛くないですか? 失敗したことはありませんか? 周りの人(特に旦那)にバレないですか?」

 

 赤尾先生は苦笑しつつ、

 

「痛みについては、私はもともと麻酔科医だったので、いろいろと工夫をしています。まったく痛くなかったと仰る方も大勢います。術後のクレームについては、ほとんどありません。シュミレーションをお見せして、その通りの仕上がりになるからです。バレないで整形することも、ある程度は可能だと思います。変化の量をコントロールすることができますし、傷あとを目立たないようにする自信もあります。それが私の仕事ですから。それに男性は意外なほど、女性の変化に気がつかないものです(笑)」

 

 岡田は続けて、

 

「お値段はどのくらいかかるんですか? 先生にやってもらうことはできますか?」

 

 先生いわく、

 

「埋没法だと3〜33万円までとなっています。これは使う糸の質や技術料によって違ってきます。とにかく安いほうがいいという人もいますが、これが心臓手術ならどうでしょうか?」

 

「もちろん、私をご指名頂ければ、私が執刀します。ゴールデンウィークや夏休みの時期は、混んでいることが多い。しかし、コロナが明けた今年のGWは、比較的、予約が取り易かった。海外などに遊びに行った人が多かったからでしょう。実はコロナ禍の間は、われわれの仕事は忙しかった。リモートワークが義務付けられたコロナ1年目は、その間に整形をしてしまおうという人が大勢いたのです」

 

 

 

 

 赤尾さんは1988年、アメリカ、ワシントンDC生まれ。お父様は外交官で、幼い頃はオーストリア、スイス、タイなどを転々とされていました。

 

「現地のインターナショナル・スクールへ通っていたので、英語は話すことができます。帰国したのは中学2年生のとき。当時はNBAのバスケットボール選手になるのが夢でした。しかし、さすがに無理だと気づき、スポーツドクターになろうと思い始めました」

 

 慶應義塾高校を選んだのも、医学部へ進むためでした。

 

「進学校へ入って、東大の医学部を目指すか、慶應に入るか、ずいぶんと悩みました。結局、後者を選びました」

 

「大学2〜3年生の頃、テレビ番組『ビューティー・コロシアム』を見て、美容整形に興味を持ちました。もともと私は、病気を治すことが目的で医学部に入ったのではありません。周りに病気の人は誰もいなかったし、スポーツドクター志望でした。病気の治療は、マイナスを限りなくゼロに近づける医療ですが、美容医療は、マイナスをプラスに転ずることができる医療だと思ったのです。それに、色鮮やかな鳥を見てもわかるように、カッコよくなりたい、キレイになりたいというのは、人間のみならず、すべての生き物に共通する願いです」

 

 しかし、美容外科の道を歩むには、それなりの逡巡もあったとか。

 

「慶應の医学部には、美容外科へ行ったら卒業名簿から抹殺されるという噂があったのです(笑)。しかし当時入部していた野球部のOB会で、湘南美容外科の先輩に話を聞く機会があり、あとで卒業名簿を調べてみたら、その方の名前が載っていたし、勤務先もちゃんと書いてあった。これで決心がつきました」

 

 美容外科手術では麻酔が重要ということで、麻酔科を専攻。慶應大学卒業後は、ハーバード大学のプログラムを履修なさった後、さまざまな病院で麻酔科医として研鑽を積みました。

 

 2017年、満を持して湘南美容クリニックへ入職。瞬く間に、人気ドクターとなったというわけです。

 

 赤尾さんの超エリートな経歴に圧倒されつつ……、ちょっと、ファッションのほうへ話題を変えてみることにしましょう。

 

 

 

 

 シアサッカーのジャケットは、サロン ド プリュスで仕立てたもの。ドラッパーズ製のウール・シアサッカーで、21ミクロンの糸が使用され、立体感と涼しさを併せ持っています。

 

 Tシャツも、サロン ド プリュスで買ったnomiamo(ノミアモ)。超長繊維スーピマコットンを40Gというハイゲージで織ったもので、肌触りが最高とか。

 

 ジーンズは、イザイア。

 

「伊勢丹の外商で買いました」と。

 

 デパートの外商って、こういう方がお客さんなんですね。

 

「外商を使うと、買い物が早く済ませられるし、いちいち店に行かなくてもショッピングができるので便利です。気に入ったアイテムの写真を担当者にLINEで送ると、同じものを探し出してくれます。店では1か所で、いろいろな売り場の服を試着することができます」

 

 

 

 

 時計は、オーデマ ピゲのロイヤル オーク フライング トゥールビヨン。超弩級の1本です。

 

「オーデマ ピゲは、この他にロイヤル オーク ミニッツリピーター、ロイヤルオーク クロノグラフ、CODEトゥールビヨンを持っています。先日はスイス、ル・ブラッシュの工場も見学してきました。あとはロレックス デイトナ アイスブルー、リシャール・ミルRM030などを保有しています。時計が好きで……、というよりは、他にお金を使うこともないので、つい買ってしまいます(笑)。クルマですか? 私は、運転はしないのです」

 

 

 

 

 シューズは、サロン ド プリュス別注のラバーソールのエドワード・グリーン。私も買おうと思っている一足です。

 

「医師にはお洒落好きが多いと思います。私は、勤務中は“スクラブ”と呼ばれる半袖の施術着を着ています。その反動からか、普段はジャケットにパンツを合わせるスタイルが多いですね。学会で発表を行うときは、スーツにも袖を通します。大切にしているのは、何より“清潔感”です」

 

 こんなSNS映えするイケメン先生なら、人気が出るのも当然というものです。赤尾先生は、お洒落に気を遣い、インスタやYouTubeを駆使する、新しい時代のドクターなのでした。

 

 ちなみに撮影後、カメラマン岡田は、「マジで、やろうかなぁ……」と真剣に考え込んでいたので、次の撮影で会うときには、二重美女に変身しているかもしれません(笑)