From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

芸大出身の商社マン、ノルケインに賭ける
濱鍜健治さん

Sunday, April 25th, 2021

濱鍜健治さん

ノルケイン・ジャパン 株式会社クレアトラストCEO & Founder

text kentaro matsuo  photography tatsuya ozawa

  鎌倉山の斜面を利用して建てられた多層構造の家に広がるリビングからは、眼下に広がる七里ヶ浜の海が一望できます。床から天井まで一枚の大ガラスで作られたレール式の窓は、フルオープンが可能で、開け放つと心地よい海風が、家いっぱいに吹き込んできます。この素晴らしい邸宅の主が、今回ご登場頂いたノルケイン・ジャパンの濱鍜健治さんです。

「鎌倉に住みたいと思い立ち、地元の業者と方方(ほうぼう)を回っているときに、山頂からの眺望が開けたこの通りに出会ったのです。どうしてもここに住みたいと思ったのですが、そのときは空いている土地がなかった。そこで2年待ってようやく巡り合うことができ、4年前にこの家を建てました。私には17歳と13歳になる息子がいるのですが、鎌倉の自然の中で、のびのびと育っています」

 素晴らしいセレクトのインテリアの間には、お子様の写真や賞状が飾ってあり、お父様の愛情の深さが感じられます。

  さて濱鍜さんが扱っていらっしゃる“ノルケイン”というブランドをご存知でしょうか? その作りのよさと誠実な価格で、最近つとに人気が高まっている純スイス製の腕時計です。

「ノルケインは、スイス・ブライトリング社でブランド・マネージャーだったベン・カッファーが、ブライトリングのオーナーシップが代わったことをきっかけに設立した、スイスのインディペンデント・ブランドです。私は彼と長きにわたり信頼関係を築き、ともにブライトリングを育ててきた経緯もあり、彼の使命感、情熱に共感して、新たに起業することを決意しました。株式会社クレアトラストを設立、2019年4月からノルケインブランドの日本での販売・マーケティングを開始し、現在に至っています」

  スイスで新たな機械式時計ブランドを興すことはベン・カッファー氏にとって大きな挑戦でした。彼が立ち上げたスイス・ノルケイン社は、家族経営の独立企業なのです。

「ご存じのとおり、スイスの機械式時計は過去300年以上続くスイス独自の文化です。しかしながら近年、このスイス独自の文化、産業である機械式時計の多くのブランドが、外国資本によって経営されています。そんな中で、スイスの独自の文化を守り抜く使命感をもって立ち上がったのがノルケインなのです。われわれにとっても非常に大きな挑戦でしたが、多くの時計専門店およびメディアの方々がこのノルケインの使命に共感し、伝えてくださっていて、今本当にたくさんの方々が愛用し始めてくれています」

 

  朗らかな濱鍜さんですが、ノルケインの話になると弁舌俄然熱を帯びます。”この方は本当に、このブランドに大きな情熱を傾けているのだな”、ということがわかります。

ワッフル素材のアンコン・スーツはタリアトーレ。

Tシャツは、ジレリブルーニ。

スニーカーは、フィリップモデル。

「私は一度モノを買ったら、ずっと使い続けます。このスニーカーもソールを修理しながら、もう10年以上は履いています」

  時計は、もちろんノルケイン。“インディペンデンス”というモデルです。

「ノルケインの時計は、それぞれのパーツがものすごくこだわって作られています。すべて職人の手仕事によるものです。例えばこのインディペンデンス、ケース表面はポリッシュ、ヘアラインサテン、サンドブラストと3種類の仕上げが使い分けられています。文字盤は“オールドスチールフィニッシュ”と呼ばれる製法で、一度塗った塗装を手作業で研磨して地色を出しています。だから1点1点微妙にニュアンスが違うのです。ブレスもすべて手作りなので、ゴツゴツせず、 装着感がとてもいい」

時計の仕事に長く関わられている濱鍜さんですが、なんとご出身は東京芸術大学です。リビングに置いてあるグランドピアノは、ご自分のためのものだったのです。

「音楽学部楽理科というところに在籍していました。音を通じた美しさ、様式、哲学などを学んでいました。作曲もやっていましたね。当時の仲間は、皆プロのアーティストになったり、教職に就いたりしています。私のような存在は、異色だといえます。私の原点は西洋伝統音楽です。幼少の頃からバッハ、モーツアルト、ベートーベンなどのピアノ作品に触れつづけ、時代を超えて継承されていく文化のあり方を感じ取ってきました。その後、大学でそれらを学究的に突き詰めていく中で、次第に、自らが表現者、アーティストになるのではなく、クラシック音楽のような、日本にはない海外の素晴らしい文化を日本に紹介する仕事をしたいと思うようになりました。そこで多くのブランド、製品を輸入していた大沢商会に入社したのです」

 芸大出身の商社マンは、濱鍜さんだけだったといいます。

「そこで当時、大沢商会ブライトリング・ディビジョンでマネージャーだった現ブライトリング・ジャパン代表取締役の金原厚さんとの出会いがあり、2年後の1995年4月、ブライトリング・ジャパンの創業メンバーとして設立に参画することになりました。それから24年間、経営企画担当取締役として、ブライトリングの成長をチームのメンバーと共に創り上げていきました」

 

 音楽とインポート時計とは、まったく違う分野のように思われますが、濱鍜さんのなかではすべてが矛盾なく繋がっているそうです。

「服飾、住宅、時計など、すべてにおいてその同時代性と普遍性の間を感じ取ることが楽しいですし、また豊かなことだとも思います。そして人々は緊張と緩和、それらの間を揺れ動くもの、もしくはそれらを絶妙に調和させたものを美しいと感じ、心動かされます。それこそがまさに最高の体験だといえます。この最高の体験である”感動”をこれからもノルケインをつうじて届け続けていきたいと思っています」

 

 大学で学んだ音の美しさ、家の隅々にまで行き渡ったセンスの延長線上にあるのが、ノルケインの腕時計ということでしょうか。ぜひ一度店頭で現物をご覧になり、ノルケインのクオリティーと美しさを感じて頂ければと思います。

3月24日にリリースされた新作“フリーダム60 GMT”

www.norqain.jp

 

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