東京一のデカダンス・バーはどこにある?
八木公徳さん
Friday, January 10th, 2020
八木公徳さん
バー ブリッジ オーナー
text kentaro matsuo photogaphy natsuko okada
各国の大使館や高級レストランが軒を連ねる広尾を抜け、天現寺の交差点から、首都高と並走する明治通りを上っていくと、左手に小さなバーがあらわれます。重厚なバーカウンターとスツール、レザーソファを擁した店内には、膨大な数のグラス、灰皿、時計、ランプ、オブジェがところ狭しと並べられています。表の喧騒が嘘のようなデカダン空間には、馥郁たるシガーの香りが漂っています。それが今回ご紹介するシガーバー ブリッジと、そのオーナーの八木公徳さんです。
ここは以前このブログにもご登場頂いた、シガー通のプロレスラー、ウルティモ・ドラゴンさん
の行きつけで、他にも篠山紀信さんや島地勝彦さんをはじめ、各界の有名人が多く出入りしています。最近では、ウチのフクヘン、ユーコー・フジタもちょくちょく顔を出すとか。皆この店とオーナーが持つ、唯一無二の個性に惹かれているのでしょう。
「私のファッションのポリシーは“マスターベーション”です。自己満足のために、着たいものを着ているだけ。そういう意味では、この店自体がファッションですね。自分の好きなものを少しずつ集めていったら、こうなってしまった。“お客さんのため”なんて考えたこともないんですよ(笑)」
シガー界では有名人の八木さんですが、実はタバコは吸えないのだとか。
「小さい頃は病弱でした。小児ぜんそくだったのです。ですからタバコなどはもってのほか。高校生の時に先輩から『八木、お前も吸えよ』とタバコを強要され、フカしてごまかしていたら、すごく馬鹿にされました。それがトラウマになった(笑)。でも大学に入ってアメリカへ行き、シガーというものを知ってから、考え方が変わりました。“なるほど、吹かすだけでいいんだ。カッコいいなぁ”と。それからシガーに夢中になりましたね。今でも私はタバコは吸わないし、シガーの煙も肺には入れません」
今では“超個性的”な八木さんですが、以前はフツウの人だった時代もあったようです。
「私が大学を出た頃は、ちょうど就職氷河期で、まったく働き口がなかった。仕方がないので、弁当配達人として働いていたこともあるんです。しかし葉巻は大好きだったので、シガーを吸いに、広尾の“ラファイエット”というバーへ通っていました。そこのオーナーが造形作家の脇田愛二郎さんで、彼にスカウトしてもらったのが、この業界に入ったきっかけです。それから、アートディレクターの渡辺かをるさんが経営していた青山のアンティーク&シガーの店“デイリーキャッチ”でも働きました。このおふたりには、とても影響を受けましたね」
ふたりの有名なアーティストのもとで経験を積んだ後、独立。17年前にブリッジをオープンされて以来、独自のスタイルを追求されてきました。
ジャケットは、銀座の老舗、壹番館洋服店でオーダーしたもの。
「これはスモーキング・ジャケットと言って、シガーを吸うときに着るためのものです。壹番館の社長、渡辺新さん
がウチの常連で、作ってもらいました。ラペルは本物のシガーバンドを縫い合わせて作ってあるんですよ」
ボウタイはグッチ。
「実はこれは安全ピンがついたブローチだったのです。紐をつけて、ボウタイとして使えるようにしました」
シャツとジーンズは、なんとユニクロです。
サングラスは、イギリスのリンダ・ファロー。
「ミコノス島で買いました。私はリゾートが大好きなのです」
時計は、ラルフ ローレン。
「日焼けをするのが大好きなので、焼けた肌に似合うのはイエローゴールドだと思って買いました」
“幸・福”の文字が印象的なルームシューズは、フランスのマシュー・コックソン。
「私はルームシューズが大好きなのです。よく葉巻の仕入れでロンドンへ行くのですが、ジョージ・クレバリーにオリジナルのワッペンを持ち込んで、ルームシューズをオーダーしています。ワッペンはどこで買うのか、ですって? ヤフオクで入手するんですよ(笑)」
かつてはローリング・ストーンズの“ベロマーク”やマックのリンゴマークを持ち込んだこともあったそうですが、「コピーライトの問題があるので」と断られてしまったそうです。
さてリゾート好きの八木さんが、いま一番夢中になっているのが、クルーズです。
「主に地中海やアドリア海で、シルバーシーやリージェント セブンシーズ(いずれもクルーズ会社)の客船に乗ります。そういったクルーズ船では、ドレスコードが細かく決められています。日本人は嫌がりますが、私にとっては、それこそが楽しいのです」
船内で人脈が広がることも多いとか。
船で一番怖いのは火災です。ですから喫煙場所は厳密に決められていて、いい船だと、きちんとしたシガールームを備えています。そういったところへ集まる人は、だいたい決まってきますから、話が弾み、友人になることもよくあります」
八木さんの“シガ友”には、THE RAKEのインターナショナル編集長、ウェイ・コ―もいるそうです。
雑誌で扱っているくせに、私自身はシガーにはまったく明るくないのですが、八木さんに師事して、少し勉強してみようかな。
まるでシガーの紫煙のように、深く不思議な人でした。
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