シンガポールのファッションをリードする
河村浩三さん
Thursday, October 25th, 2018
河村浩三さん
NOMADE代表取締役
text kentaro matsuo photogaphy tatsuya ozawa
シンガポールにてセレクトショップ、コロニークロージングを営まれる河村浩三さんのご登場です。最近は東京・白金にもショールームをオープンされ、シンガポールと東京を忙しく行き来されています。オリジナル・ブランド、コロニークロージングの他、ジャケットのザッコや、ストリート系のサンパース、レディスの水着まで、幅広く扱われています。
私自身、シンガポールという街には、とても興味があります。なにしろ、ウチの雑誌、THE RAKEが生まれた国ですから。どうして、あんな常夏の国で、テーラード・スーツばかり出てくる本が生まれたんだろう? といつも不思議に思っていました。
「実はシンガポールの人は、あまりジャケットを着ません。一部のお洒落な人たちだけですね。同じ熱帯でも、バンコクの人の方がジャケットを着る人が多いと思います。アジアでも国によって、いろいろ習慣が違いますね」
河村さんは、いつもジャケットを着ているのですか? との問いには、
「はい、私はスーツかジャケットを着ていることが多いです。シンガポールはドア・ツー・ドアで動くことが多いので、暑い屋外にいるということがないのです。通勤にはグラブ・タクシーを使っています。逆に日本の夏の方が大変ですね。もう汗だくになります」
タクシー通勤とは優雅ですね、というと
「シンガポールのタクシーは安いのです。逆にクルマが高い。先日社用車としてハイエースを購入しようと思いましたが、なんと日本円で1千万円以上もして、買いませんでした(笑)。向こうでポルシェやフェラーリに乗っている人は、本物のお金持ちです」
日本とは、いろいろなものの価値観が違うようです。
「例えば、シンガポール人は、家でお手伝いさんを雇っている人が多い。自分で食事を作ったり、掃除をしたりといったことはあまりしません。ウチのショップの女性スタッフの家にも、お手伝いさんがいます。ですから日本人の働くお母さんは大変だな、と思います」
シンガポールといえば、富裕層がたくさんいるイメージがありますが・・
「お金持ちの人はたくさんいます。でも皆退屈なのでは? と私は思います。いつも夏だし、国も小さい。日本のような“行楽”がないのです。プールでのんびりして、土日はバーベキューくらいしかやることがない」
うーむ。ますますTHE RAKEと離れていくような・・
「しかし、パーティの文化はあるのです。夜な夜ないろいろなところでチャリテイーなどのパーティが開かれ、タキシードやスーツ姿の人が集まっている。こういうところは日本と違いますね」
なるほど、だからTHE RAKEのシンガポール版は、真夏にタキシード特集をやったりしているのですね。
「それにTHE RAKEのファウンダーのウェイ・コーさんは、大金持ちですから・・」
そうなのです。実は本国版の総編集長は、スーパーリッチなのです。日本版編集長とは全然違う・・(泣)
スーツとシャツは、英国サヴィル・ロウ、ファーラン&ハーヴィーのビスポーク。
タイは、アトキンソン。
メガネは、ナッキーメイド。
時計は、パテック フィリップのカラトラバ。
「実は取材の日やパーティー以外は、時計はしません。サーフィンやヨガが趣味なので、アクセサリー全般をしないのです」
シューズは、ジョージ・クレバリーでオーダーしたもの。
「足元に注目して下さい。茶色の靴に、黒いソックスを合わせているでしょう。実は私は、ファッションではタブーとされている茶と黒という色の組み合わせが好きなのです。昔のボンド映画で、同じ色合わせを見たことがあります」
よく見ると、ネクタイにも茶と黒が使われています。
河村さんは大学を卒業してから、長らくビームスで販売や企画を担当されていました。一番気になるのは、そんな彼がなぜシンガポールでお店を開くことになったのか、ということです。
「実は私の学生時代からの親友が飲食ビジネスで成功をおさめて、その海外1号店がシンガポールだったのです。彼に誘われて何度も訪れているうちに、欧米的なものとアジア的なものとの混ざり方が面白いな、と思い始めました。それに近未来的な街並みにも惹かれました。それ以前から『独立すれば』と言われていて、つい『ここなら、いいかな』と返事をしてしまいました」
持つべきものは友ですね。しかし、最初の2年間は、ぜんぜんお客さんが来ませんでした。
「シンガポールにはウィンドウ・ショッピングという習慣がありません。買い物は、クルマで店に乗り付けて、またクルマで帰る。だから放っておいたら、誰も来ない。そこでイベントをして、電話やメールでダイレクトに連絡を取って、少しずつお客様を増やしていきました。まさにわれわれが20年前に日本でやっていたようなことです。洋服のカルチャーは、日本のほうがずっと進んでいます」
シンガポール、そしてアジアの国々の魅力は、その若さにあるといいます。
「シンガポールをはじめ、バンコク、フィリピン、ホーチミンなどでクラシック・ファッションが盛り上がっていますが、興味を持っているのは、35歳以下の若い人たちです。デザイナーズものと比べて、クラシックを買うような感覚です。まだまだ“これから”の国ですね。それだけに勢いはあります」
アジアでは今クラシックが盛り上がっており、THE RAKE JAPANでもよく特集しています。河村さんは、その台風の目のような存在ですね。