アートなセンスと、とびきりの笑顔
黒川修さん
Tuesday, October 10th, 2017
黒川修さん
メゾン・ディセット代表取締役
text kentaro matsuo photography natsuko okada
ポーツ1961、エミリア・ウィクステッド、トマジーニ、クラウディア・リー、ヴィオネなど、10近いブランドを日本に輸入しているメゾン・ディセットの代表、“クロちゃん”こと、黒川修さんのご登場です。私は黒川さんが、八木通商という輸入商社にお勤めの時に知り合いました。イタリアの駐在員をなされている時は、よくミラノの街を案内してもらったものです。
その後、バルマン、アレキサンダー・マックィーンなど、さまざまなブランドの日本責任者を経て、現在はご自身の会社を経営しています。華麗なる経歴をお持ちなのは、やはり語学が得意だからでしょう。
「建築家をしていた父の仕事の都合で、小学校に入る直前まで、アメリカに住んでいました。現地の幼稚園へ通っていて、周りにはドイツ人、イスラエル人、エジプト人など、いろいろな国の友達がいました。基本英語でしたが、消防車だけは、私がかたくなに日本語で言っていたので、終いには、幼稚園中の生徒が“ショーボーシャ”という単語を使うようになってしまった(笑)」
なるほど、子供が言葉を覚えるプロセスって、面白いですね。英語に関しては、その後仕事で使うようになって、もう一度苦労して学び直したそうです。
ジャケットはボッテガ・ヴェネタ。
「デザイナーのトーマス・マイヤーが好きなのです。ベーシックのなかに、突然抽象的なツイストがあって面白い」
黒川さんは、トラッドとモードの中間がお好きです。
シャツは、ご自分で扱っているポーツ1961。
「このブランドはもともと1961年に、ルーク・タナベという日系カナダ人が始めたものです。彼は『男には、10種類のシャツが必要だ』という哲学を持っており、ナンバー1から10までの番号が振られたシャツをコレクションの中心に据えていました。ごくプレーンなものからスモーキング用まで揃っており、これはそのうちの一枚です。現在でも毎シーズン素材を変えつつ、定番商品として展開しているのです」
なんとも、面白いブランドですねぇ。
パンツはランバン。
「ランバンのルカ・オッセンドライバーも、好きなデザイナーの一人です。ここのパンツは、とにかく私の体型に合うのです」
時計はベダ&カンパニーのナンバー8。10年ほど前に購入したもので、ポイントはクロコダイル製のイントレチャートのベルトです。
「このベルトが気に入って買ったのですが、その後廃番になってしまって。メーカーに聞いたら、もう作っておらず、在庫もないというのです」
おやおや、これはぜひ復活させてもらわないと・・。
シューズはオールデン。
「オールデンは6足くらい持っています。トラッドからモードまで、こんなに何にでも似合う靴は、他にありません。あとはジャンヴィト ロッシやマノロ ブラニクも好きですね」
黒川さんは、かつてマックスヴェッレの代理店もしていたことがあるので、靴には一家言おありです。
今日はブラックとネイビーの組み合わせ。
「ネイビーが死ぬほど好きなのです。いつもこんな格好ばかりしています」
さて今ではファッションの世界で活躍されている黒川さんですが、大学入学時は、ファッションか音楽かで、ずいぶんと迷ったことがあったとか。
「子供の頃から、ずっとピアノをやっていたのです。高校の三年間は、先生について、ジャズ・ピアノを勉強していました。ボストンの学校へ入って、プロを目指そうかどうか、真剣に悩みました」
そう言いつつ、BGMとしてかけてくれたのは、チック・コリアの“オン・グリーン・ドルフィン・ストリート”。
「これは一番好きな曲のひとつです。今は家にピアノがないので、専ら西麻布のカラオケ・バーに行ったときに、弾くくらいになってしまいましたが・・」
黒川さんが、そんなにピアノが上手だとは、初めて知りました。ここぞというとき、モテるでしょうねぇ。一度彼の演奏を聞いてみたいです。
「私がジャズ・ピアノを好きになったのは、母方の祖父の影響です。とても粋な人で、家に行くといつもジャズやラテンの曲がかかっていたのです。スーツはいつも銀座・壱番館で仕立てていましたね。80歳を過ぎても、プラダを着ているような人でした」
撮影した南青山の事務所は、先日オープンしたばかり。これからも独自の視点で選んだいいものを届けていきたいと、決意を新たにされています。
「オンスケジュールでショーを行うブランドにフォーカスしています。ファッションへの憧れをストレートに伝えたいという思いがあるので、ランウェイ・ブランドが好きなのだと思います」
おじいさま譲りのアーティスティックなセンスと、とびきりの笑顔が、この方の魅力といえましょう。