THE SIMPLE BEAUTY OF THE BOUTONNIERE

ブートニエールの絶大な効果

December 2021

ボタンホールは小さなディテールだが、そこに一輪の花を挿せば、その力は絶大となる。

ロマンチックでノスタルジックなブートニエールは、男にとって最上のアクセサリーかもしれない。

 

 

by BEN ST GEORGE

 

 

 

 

 ブートニエールは、ファンタジーを感じさせる。そして思い切りロマンチックだ。ラペルから放たれる思いがけない色と質感は、アイキャッチとして唯一無二のものである。何世紀にもわたって、トップクラスの洒落者たちに愛されてきた。

 

 恋愛と同じように、ブートニエールにも、リスクがあるからこそその魅力が際立つのかもしれない。とはいえリスクはあれど、いかなる場合も無粋となることはない。ブートニエールのようなアクセサリーは他になく、上手く使いこなせばスタイルを特別なものに変えることができるのだ。

 

 ブートニエールのルーツは、騎士たちがランカスター家とヨーク家のどちらの家を支持しているかを示すバラ(赤or白)を鎧に付けていた“薔薇戦争”にまで遡るが、現代的なブートニエールが誕生したのは、1800年代のロンドンだった。この時代は、花を使って気持ちを伝える“フロリオグラフィー(花言葉)”への関心が高まっていた。男たちは、恋人から贈られた小さな“トーキング・ブーケ”を胸ポケットに入れて持ち歩き、自分に対する恋人の気持ちを、世間にアピールしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ラペルにブートニエールをつける習慣は、ヴィクトリア女王の配偶者、アルバート公が始めたと言われている。結婚1周年の記念写真を撮られたとき、女王はプリンス・コンソート(王配)への愛の証として、小さな花束を贈った。これに感激したアルバート公は、その場でダブルブレストのミリタリーコートのラペルに切れ目を入れて花を挿したと言われているが、これはまさに愛の行為である。

 

 その後、ブートニエールはオスカー・ワイルドに代表される裕福でダンディな人々の間で、ウエディング・アイテムとして定着していった。慎ましやかなボタンホールは、20世紀を通じて廃れることはなかった。フレッド・アステアの襟元には、スクリーンの内でも外でも、頻繁にカーネーションが飾られていた。

 

 カーネーションは、1957年に歌手マーティ・ロビンスの『白いスポーツ・コート』で歌われたことで有名になり、ブートニエールとしてポピュラーな花となった。フランク・シナトラ率いるラット・パックのトレードマークとなり、ケーリー・グラントの夜の装いにもよく添えられるようになった。また、ショーン・コネリー演じるジェームズ・ボンドが『007 ゴールドフィンガー』(1964年)で、白いジャケットにカーネーションを挿していたことも有名だ。この組み合わせは、ダニエル・クレイグ版ボンドの『007 スペクター』(2015年)でも踏襲されている。

 

 

 

 

 

 

 現代においても、結婚式ではブートニエールが欠かせないアクセサリーとしてその命脈を保っている。つける場合は、控えめなアレンジ、そして同系色の組み合わせを意識することがポイントだ。他のアクセサリーは控えめにしたい。花が大きな魅力を発揮してくれるからだ。愛と同じように、ブートニエールは無駄に複雑にすることも、すべてを結びつけることもできる。

 

 ちなみに、ボー・ブランメルの伝記作家であるジュール・バルベー・ドールヴィイは、1838年に「私は毎晩バラをボタンホールに捧げている……バラは自然という偉大な君主のガーター勲章である」と書いている。