THE HOLY SEA

ルナ・ロッサの気概に触れる特別な体験

June 2024

パネライは、2024年のアメリカズカップ出場を目指すルナ・ロッサ チームの公式スポンサーである。特別な時計の購入者のためのルナ・ロッサ エクスペリエンスに、THE RAKEが参加した。

 

 

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ルミノール ルナロッサ クロノ カーボテック™︎ エクスペリエンス エディション

2024年開催の第37回アメリカズカップを記念して作られた、2日間のエクスペリエンス付きのスペシャルエディション。パネライで最も軽量な素材のひとつである複合素材「カーボテック™」をケースに採用し、重量は100g以下。ブルーのサンブラッシュ仕上げの文字盤と、象徴的なロゴ入りのバイマテリアル ストラップにより、セーリングの世界を表現。世界限定37本。自動巻き、カーボテック™ケース、44mm。(完売)©ROBERTO GRAZIANO MORO

 

 

 

 2000馬力のチェイスボート(伴走艇)に乗り、54ノット(時速約100km)の速さで地中海を進む。びしょびしょに濡れた身体にはGがかかり、膝が悲鳴をあげ、思わず顔が歪む。だがとてもエキサイティングな体験だった。わずかな方向転換の動きでもカリアリ沖に放り出されてしまいそうで、命からがらしがみついていた。

 

 私はパネライのルナ・ロッサ エクスペリエンスに参加した。この2日間の冒険は、37本限定の「ルミノール ルナロッサ クロノ カーボテック™エクスペリエンス エディション」(詳細は本記事後半にて)を購入した幸運なオーナーに、アメリカズカップというヨットレースのスリルと技術、そしてパネライのルナ・ロッサ コレクションの魅力を紹介するものだ。パネライは長年、イタリアの「ルナ・ロッサ プラダ ピレリ」の公式スポンサーを務めており、2024年〜10月にかけてバルセロナで開催予定の第37回アメリカズカップに挑戦するこのセーリングチームの技術革新と研究を支援しているのだ。

 

 冒頭の54ノットというスピードは、アメリカズカップのスピードを示すための体験だった。チェイスボートが1時間に何百ユーロもの燃料を消費するのに対し、ルナ・ロッサのセーリングボートは地中海の風からタダでパワーを得ている。いや、厳密にはチーム拠点のカリアリにあるモダンな施設で、パネライ、ピレリ、プラダ、ザ・ウールマーク・カンパニーなどのスポンサーのサポートを受けながら、優勝するために懸命に働く約120人のチームからのパワーを得ているといえる。

 

 技術の優越性が求められるこの闘いに、パネライは卓越した計時技術を追求する自社の姿勢との類似点を見いだした。パネライとアメリカズカップの歴史は、波の上でも下でもともにあるのだ。

 

 

ルナ・ロッサ プラダ ピレリのチームディレクターでスキッパーの、マックス・シレーナ氏。

 

 

ルナ・ロッサ チームのAC40。©STUDIO PANERAI

 

 

 

 パネライの時計は、耐久性、精度、防水性、視認性、そして何よりもシンプルなデザインというミリタリーウォッチの要求から生まれた。創業は1860年。ジョヴァンニ・パネライがフィレンツェのグラツィエ橋に時計店を創立したことに始まる。やがて、イタリア海軍に海戦用照準器などの精密機器を納入するようになり、1935年からはロレックスのムーブメントを搭載して、イタリア海軍の水中攻撃車両と操作員に関する機密プログラムのための潜水用時計を製造・供給するようになった。

 

 いくつかの試作品が作られたが、最終的に選ばれたのが、文字盤の夜光塗料ラジウムにちなんで名づけられた「ラジオミール」(Ref.2533)である。直径47mmのこのモデルは、当時の男性用腕時計の1.5倍もの大きさだった。しかし、その頑丈な軀体と視認性の高い文字盤は高く評価され、今日のパネライにおけるクラシックなツールウォッチの雛形となった。

 

 こうした潜水用時計の製造に必要な技術的・科学的開発は、アメリカズカップ予選に出場するルナ・ロッサチームが競争力を高めるために行う研究やテストと類似している。パネライのCEOであるジャンマルク・ポントルエ氏は、「共通の価値観」と表現している。

 

 

ルミノール ルナロッサ クロノカーボテック™エクスペリエンス エディション。©ROBERTO GRAZIANO MORO

 

 

 

 セーリングボートの速度は、比較的最近まで、喫水線の長さと水中を通過する際の摩擦によって抑制されていた。しかし、アメリカズカップでは2013年のレギュレーション変更で状況が一変する。ハイドロフォイル(水中翼)が採用されるようになり、航行中のヨットは水面から浮上して走行。造波抵抗から解放されることで、最高速が一気に上昇したのだ。

 

 カリアリで見せてもらったボートAC40は比較的小型で、女性やユースのイベントに採用されているものだ。これをもとに、今年レースに出場する21.7メートルのAC75の完成を目指している。これらのボートは、カーボン、ケブラー、アルミハニカムといった航空宇宙分野の最軽量素材を使って建造されており、極限の軽さと強度を兼ね備えている。まさに最先端技術の賜物である。

 

 セイルとフォイルを調整に利用できるのは人力のみという規則があり、甲板の下にいるクルーが自転車のようにグラインダーを回して作り出している。彼らは、コース上の各マークで操船する際に必要とする1000ワット以上のパワーを生み出す必要がある。今回のエクスペリエンスでは、わずか数秒でもそのパワーの一部を生み出すことがいかに難しいかを目の当たりにすることができた。

 

 

上2点:2日間のエクスペリエンスでは、他では見ることのできないポジションからボートを間近に見られるだけでなく、ロープワークやシミュレーターを体験するワークショップも行われた。©ROBERTO GRAZIANO MORO

 

 

 

 ルナ・ロッサのクルーとチームメンバーたちは、見学に訪れた私たちを盛大に歓迎してくれた。彼らはボートがいかにハイテクであるかを見せるため、貴重な時間を割いてくれた。アメリカズカップで2度の優勝経験を持つ、チームディレクターでスキッパーのマックス・シレーナ氏は、優勝するには技術と人間の努力のどちらも必要で、クルーをしっかりトレーニングし、ボートの技術を追求すれば、絶対に勝利できると語ってくれた。私たちはこうしたルナ・ロッサ チームの取り組みに直接触れることができただけでなく、特別なディナーやサーフィンを楽しみ、ロープワークの練習やシミュレーターでセーリングの腕を磨くなど、2日間のエクスペリエンスを存分に満喫することができた。

 

 パネライは昨年、ルナ・ロッサ チームの技術と努力を讃え、ルナ・ロッサ コレクションに新たなタイムピースを加えた。ルミノールの4本(本頁の「ルミノール ルナロッサ クアランタ」を含む)と、購入者がルナ・ロッサ エクスペリエンスに参加できる、件のスペシャルエディションというわけである。この特別モデルは、ケースにカーボンベースの複合素材「カーボテック™」を採用している。カーボンは非常に軽量かつ傷つきにくく、ルナ・ロッサのAC40の船体にも使用されているという。ルナ・ロッサ コレクションのケースサイズは、38mm、40mm、42mm、44mmとさまざまだ。パネライは、かつてトレンドを生んだ47mmの巨大な時計より、小型の時計への需要に応えているのだ。

 

 イギリス人にとってアメリカズカップはある種のコンプレックスで、イギリスが一度も優勝していないことを恥ずかしく感じるもの。だから、2024年のアメリカズカップでは、イギリス人の私はもちろんイネオス・ブリタニアチームを応援するつもりだが、今回のルナ・ロッサ エクスペリエンスで多くの友人をつくり、その姿に感動したので、ルナ・ロッサ チームもこっそり応援しようと思う。

 

 

ルミノール ルナロッサ クアランタ

体験付きモデルと同様に、ブルーのサンブラッシュ仕上げの文字盤とロゴ入りのバイマテリアル ストラップを採用した、40mmのモデル。ブラック DLC加工が施されたスティールケースに、3日間のパワーリザーブを備えたP.900キャリバーを搭載。世界限定1500本。ブティック限定。自動巻き、SSケース、40mm。