ARANUI CRUISES

世界でも珍しい貨客船クルーズで唯一無二の体験を

August 2024

地上の楽園タヒチ島から貨客船クルーズで秘境マルケサス諸島を巡る旅に出た。3回(第1回第2回第3回)にわたってその様子をお伝えする。本記事は第2回。

 

 

text yoshie hayashima

 

 

©James Morgan

 

 

 

世界の旅慣れた富裕層が注目する貨客船クルーズ

 

 フランス領ポリネシアに位置するタヒチ島のパペーテからアラヌイ5号に乗船し、マルケサス諸島を巡るクルーズ旅に出た。タヒチ島を出発し、ファカラバ島、ウアフカ島、ヌクヒバ島、ウアポウ島、ファツヒバ島、ヒバオア島、タフアタ島、ランギロア島、ボラボラ島を巡る12日間。クルーズの旅が初めての私は、どんな旅になるのか想像もつかなかった。

 

 アラヌイ5号はフランス領ポリネシア船籍の貨客船。貨客船とは、貨物船とクルーズ船の役割を担う船のことだ。2015年に運航をスタートしたアラヌイ5号。その船上ライフをご紹介しよう。

 

 貨客船は、家や学校、病院を建設する為の資材、食料、日用品などのあらゆる物資を運び、帰路では特産品のココナッツを始めとする果物や野菜などを輸送する。島々の生活に欠かせないライフラインとしての役割を果たしながら、客船として観光客を乗せ島々を巡り、観光客は滞在先の島々で人々と交流をし、その暮らしを垣間見ることができる。

 

 この貨客船クルーズは、ツーリズムと地元の生活が共存しているサスティナブルツーリズムとして今、世界の富裕層から注目されているという。

 

 

©James Morgan

 

 

 

 クルーズ船というと、さながら巨大な街のような施設がたくさんある船を想像する方も多いだろう。しかしアラヌイ5号は、定員254名、キャビン103室で、乗客定員で見た場合は小型客船に位置づけられる。

 

 乗員の95%をタヒチ島やこの船の航路であるマルケサス諸島などローカルの出身者が占めているのも特徴だ。乗員の家族が地元とタヒチ島間との移動で乗船することもしばしばあるとか。ローカル色が強く、乗員同士が仲良くとてもアットホームな雰囲気。そんな中でもてなされる為、乗客もリラックスできる。これは長い時間を過ごす場所としては大きなポイントかもしれない。

 

 

 

乗船する際に乗客にティアレのレイを首にかけてくれる。

 

 

 

 船内はタヒチの公用語であるフランス語を始め、タヒチやマルケサスの方言も飛び交う。とはいえ、英語が喋れれば全く問題ないのでご安心を。

 

 クルーズ船の基本行程は、夜間に移動し、翌朝には目的の島に到着しており、日中は下船して島でのアクティビティに参加して過ごす。もちろん、そのまま船に滞在してプールで泳いだりとのんびり過ごすのもいい。

 

 船内は客室以外、ダイニングルーム、4つのバー、ラウンジ、会議室、屋外プール、フィットネスジム(朝6:00から夜中24:00まで使用可能)、スパ、ショップ、ランドリーなどの施設を備えている。

 

 船内のスパやショップなどでの会計はすべて部屋のカードキーで管理され、下船時に清算する仕組みとなっている。

 

各島へ乗下船する際にもこのカードキーを通してチェックされる。

 

 

船内にはタヒチアンパールのショップもある。

 

 

©Aranui5

 

 

 

 ユニークなところでは、タトゥーを彫ってくれるサービスがあり、私が滞在中も何人かが彫ってもらっていた。このタトゥーはタヒチ独自の文様で、カタログなどの見本から選んで彫るのではなく、彫り師と客が対話し、その会話の中から客のストーリーを紡ぎだし、インスピレーションで彫るという興味深いものだった。

 

 客室はドミトリー(相部屋)から豪華なプレジデンシャルスイートまで11種類。中でも解放感のあるデッキ付きの部屋をお勧めしたい。好きな時にデッキに出て、海風に当たるのは開放的で心地よい時間だ。これぞクルーズ旅の醍醐味だろう。

 

 

コンパクトながら居心地のよい部屋。デッキからの眺めもクルーズ旅の楽しみのひとつ。©Aranui5

 

 

ベッドルームとリビングルームが併設されたスイートルーム。デスクがあるので仕事も可能だ。©Aranui5

 

 

 

 船上でのさまざまなアクティビティやプログラムをご紹介しよう。

 

 乗船すると、まずは歓迎のダンスショー。ローカルのダンサー達の力強い踊りに引き込まれる。

 

 

 

 

 現地語でオリタヒチと呼ばれるタヒチアンダンスは、フォーマルな式典でゲストを歓迎したり、古代の神々に捧げる祈祷や儀式、また時には相手に挑戦したり誘惑したりといったものがある。芸術性の高い踊りに加え、衣装やタトゥーなどにも注目だ。滞在先の島々でもローカルダンサー達のダンスを観ることができる。これは本当に迫力があり、滞在中数回観る機会があったが、その度にパワフルなダンスにくぎ付けとなった。ニュージーランドのラグビー選手たちのハカを想起させる迫力のある掛け声が印象的だったが、同じポリネシアの三角地帯に位置する島々に共通する文化なのかもしれない。タヒチアンダンスのレッスンも用意されている。

 

 

 

 

 私はウクレレレッスンに参加した。数日間レッスンに通い、なんとか曲を弾けるようになった。とはいえ単純なコードを押さえるだけだが、これがなかなか難しい。

 

 その他にタヒチの料理デモンストレーションやパレオの巻き方、面白いところではファッションショーなど盛り沢山。どれも乗員達のアットホームなおもてなしの心を感じさせ、気持ちが温かくなる。

 

 

パレオの巻き方のデモンストレーション。さまざまなバリエーションがある。滞在先の島々では美しい色彩のパレオが手に入る。船内のショップでも購入可能だ。

 

 

 

 毎日、次の日に滞在する島に関しての説明が英語とフランス語、ドイツ語で行われる。島のデータや文化、歴史、当日訪れるポイント、注意点、持ち物、集合時間などを細かく説明してくれる。日本ではマルケサス諸島に関してのガイドブックがほぼない為、興味津々で聞いた。これは必聴だ。

 

 アラヌイ5号の特徴のひとつでもあるのが、プロフェッサーを招聘してのレクチャー。アメリカのユタ州の大学から招聘されたプロフェッサーによる南太平洋と植民地についてのレクチャーは、ポリネシアの基本的なデータからクルーズ中に滞在する島々の植物や虫についてまでと内容豊富。質疑応答やディスカッションもあり、なかなか有意義な時間だった。

 

 この他にもクルーズ中に訪れた島に在住しているプロフェッサーによるマルケサス諸島についてのレクチャーもあり、どちらもタヒチやマルケサス諸島についての知的好奇心を満たしてくれるプログラムだ。なかなか触れることのないマルケサス諸島についての知識や理解を深める絶好の機会なので、ぜひ受けることをお勧めする。

 

 12日間過ごす船上で、やはり気になるのは食事。昼は大体、島に上陸しているので朝食と夕食を船上でいただく。どちらもダイニグルームで、朝食はブッフェスタイル。夕食は日替わりのコース料理で前菜、メイン、デザートとなっており、各テーブルにワインが配られる。

 

 

ダイニングルーム。

 

 

朝食のブッフェ。パンやケーキ類、サラダ、フルーツ、ヨーグルト、卵、ハム、チーズなどが並ぶ。@Aranui5

 

 

ある日の夕食のコースの一部。ポワソンクリュを始めとする魚料理も多く、胃にも優しい印象だった。タヒチの名産であるマグロ、タロイモ、マンゴーがよく卓上に上がっていたのだか、マンゴーがとにかく甘くて美味しいのに驚いた。

 

 

 

 食材は、ワインはフランス産、魚や野菜、フルーツはタヒチ島などの地元、肉はオーストラリア産を取り寄せており、地元の食材をふんだんに使った料理がいただける。アラヌイ5号では地産地消を心がけており、タヒチでは獲れない肉のみ海外から仕入れている。
少し逸れるが、地元の人に聞いた話によると、ココナッツなどタヒチでたくさん採れる植物は食用以外にコスメにし、島の人々が使用する。そういった自然の恵みを生かし、環境に優しく消費することを皆が心がけているそうだ。

 

 

ランギロア島ではワインが生産されており、お土産にも最適。軽い口当たり。

 

 

 

 夕食前にはバーでのハッピーアワーを毎日楽しんだ。バーは船内に4つある。

 

 

人気のカクテルはマイタイ。マイタイはタヒチ語で“最高!”という意味だそう。

 

 

 

 少人数のアラヌイ5号では、乗員はもちろん乗客同士も仲良くなる機会が多くある。島でのアクティビティや食事の時、そしてバーではお酒が入るためか皆、とてもフレンドリーになる。

 

 夕刻前に小腹が空いてしまった人は、ラウンジのスナックコーナーでコーヒーやクッキーなどがいただける。ある夜、ポリネシアンイブニングと称されたプールデッキでのブッフェパーティが開かれた。乗客たちは花冠などで思い思いにカジュアルドレスアップし、料理を楽しんだ。その後、ダンサー達によるダンスショーや乗客も参加してのダンスとなり、盛り上がりを見せる。途中から雨に降られてしまったのが少し残念だった。

 

 

プールデッキにて。

 

 

 

 

食後はダンサーによるマルケサスダンス。力強い掛け声と踊りに圧倒される。晴れていれば、デッキで披露される。©Aranui5

 

 

船内でご一緒したオーストラリアから参加していたご夫妻。奥様はタヒチアンパールで、旦那様は島で貰った植物の種のネックレスで南国らしいドレスアップ。

 

 

 

 こんなスペシャルな夜もあり、船上での時間は本当にあっという間に過ぎていった。

 

 

デッキから眺める夕景の海上。

 

 

 

 最後にアラヌイ5号のキャプテンに話を伺った。

 

 

アーノルド・ピカール氏。33歳という若きキャプテンだ。因みにアラヌイ5号は乗客がブリッジ内に自由に入ることができる。これはクルーズ船においては珍しいそう。

 

 

 

「アラヌイ5号には2017年から乗船しています。私はフランス本土ノルマンディーの出身ですが、タヒチの人々が好きでアラヌイ5号の乗員となった時点でタヒチに拠点を移しました。アラヌイ5号はタヒチやマルケサス諸島出身のローカル乗員が95%を占め、まさにビッグファミリー。船がこじんまりとしている為、バーやデッキで乗客と交友を深められるのもアラヌイ号の魅力のひとつだと思っています。乗客はフランスやドイツ、スイス、タヒチ、イギリス、アメリカの方が多いです。アジア圏の方は少なく、日本人は年に1~2組しか訪れませんね。

 

 ここでのキャプテンの仕事は多岐に亘ります。レーダーでの風雨など天気の観測、運航のプログラムを組む、衛星で危険を察知する、船内の危険を察知する、カーゴの重量から配置場所を決定する、様々な事柄のメンテナンス、乗員のマネジメント等。細かいところではエアーコンディションが適温かどうかのチェックなどもあるんですよ。アラヌイ5号のユニークな点は、カーゴと旅人を交換するところ。島へ貨物を運び、乗客を降ろし、さらに島で獲れたものを乗せる。木や車、砂などを運んだり、時には馬や山羊を運ぶこともあります。島々のライフラインとなっており、共存している。これは世界中を見ても、なかなかありません」

 

 

滞在先の島で採れたフルーツを積む様子。

 

 

 

 初めてのクルーズ旅。船上で1日中過ごす日もあったが、プログラムに参加しているうちにあっという間に時間が過ぎていった。船内でのプログラムが単に楽しく過ごす、というものでなくタヒチやマルケサス諸島の文化に触れられるものが多く、充実していた。クルーズ旅に慣れている方に話しを聞くと、中型船や小型船は客単価が高くなる為、必然的に客層は富裕層が多くなるそうだ。そしてそういった乗客も乗員の目が行き届き、ホスピタリティを感じさせる中型船や小型船を好むのだとか。

 

 クルーズ船での旅=ラグジュアリーな設備でキラキラとしている船を想像している人には物足りないかもしれない。しかし、ここでは他にはない旅が楽しめる。ユニークな貨客船クルーズでの唯一無二の体験をぜひ味わってみてほしい。

 

 最後にタイムリーなトピックスをご紹介。この7月にフランスで開催されているパリ オリンピック。タヒチはサーフィンの会場となっており、なんとアラヌイ5号は選手村として利用されているのだ。もちろん日本代表の五十嵐カノア選手らも宿泊している。

 

 新たにホテルを建設するのではなく、自然環境を大切に今あるものを活用する。そんなタヒチの自然との共存を大切にする試みは、素晴らしいの一言に尽きる。

 

 マルケサス諸島の島々での滞在の様子は、次の記事でご紹介しよう。

 

 

 

アラヌイ5号のクルーズの運航予定や料金は各ホームページにて

www.aranui.com/(英語またはフランス語)

https://oceandream.co.jp/cruise/aranui/aranui_index/(日本語)

 

タヒチ政府観光局公式ホームページ

https://tahititourisme.jp/ja-jp/

 

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