STYLE 101: THE CABLE KNIT SWEATER

スタイル101:ケーブルニットの長い旅

December 2022

ケーブルニットは、漁業のために作られた耐久性のある作業服だった。それは近年、ラグジュアリーブランドによって再構築され、洗練された定番アイテムへと変わっていった。

 

 

 

by NATASHA DRAX

 

 

 

 


映画『華麗なる賭け』(1968年)でフェイ・ダナウェイと一緒に写真におさまるスティーブ・マックイーン。ヴィンテージのケーブルニット・セーターとトレードマークのペルソールのサングラスを着用している。

 

 

 

 トレンドは刻々と変化し、ひとつのアイテムが持て囃されたかと思うと、すぐに消えていく。その中で、安定した存在感を放つ服はほとんどない。しかし、ケーブルニットのセーターは例外的な一枚だ。

 

 19世紀、ケルトやゲールの漁村で生まれたとされており、豊かな、しかしはっきりとしない歴史を持っている。ケーブルのデザインは、さまざまな素材・形に取り入れられてきた。そして時代を超えて愛され続けている。日常的なフィッシャーマンセーターから生まれたケーブルデザインは、現代のブランドにも影響を与え続けているのだ。

 

 

 

起源

 

 ケーブルデザインは、1800年代の“アランセーター”に端を発し、ケルトの氏族ごとに独自のパターンを持っていたという伝説がある。これは、海で溺死した漁師の遺体を確認するための方法だともいわれている。ロマンチックな話だが、現在では単なる作り話だとされている。

 

 このセーターは、1900年代初頭に、主に輸出用にアラン島の女性たちによって作られた可能性が高い。それ以来、アイルランドの文化と結びつけられてきた。

 

 実はケーブルパターンは、ヴィクトリア時代にイングランド東岸で漁師たちが着ていたガンジーセーターにもよく見られる。ウーステッド糸で編まれたこのセーターは、外洋の荒れた天候に耐え、風雨を防ぐためにしっかりと編まれたスタンドアップカラーと袖口を特徴としている。袖口は漁具に引っかからないよう、また作業中に海水に濡れないよう、手首より短く仕上げられており、実用性に徹した衣服であった。アランセーターと同様、ケーブル模様は丹念に手編みされている。漁師のロープや道具を表すと同時に、装飾的な意味もあると考えられている。

 

 アランセーターもガンジーセーターも、もともとは船乗りのために作られたものであったが、1920年代、おしゃれなニットウェアの需要が高まり、ファッション・アイテムとして着られるようになった。同時に大量生産によってモチーフは簡略化されていった。その結果、ケーブル編みが定着し、現在のようなシンプルなスタイルになったのである。

 

 

 

 

 

 

誰が着こなしたか?

 

 エルヴィスが映画『監獄ロック』(1957年)でケーブルニットを着用したことで、それはロックンロールなアイテムとなった。1960年代には、アイルランドのフォークグループ、ザ・クランシー・ブラザーズが愛用し、一気に世の中へ広まった。

 

 60年代終盤、ジョン・レノンとヨーコ・オノはスコットランドのハイランド地方で休暇を過ごした際、ケーブルニットを着込んでいた。彼らはアーティスティックかつボヘミアンな雰囲気でニットを着こなしており、その背景にはゲール族の遺産へのノスタルジックな思いが込められていた。

 

 1968年、スティーブ・マックイーンは『華麗なる賭け』でヴィンテージの伝統的なロープ編みのアラン・セーターを着用し、劇中で大きな印象を残した。『ある愛の詩』(1970年)で、ライアン・オニールが演じた上流階級の青年はケーブルニットに身を包んでおり、エリートでありながらロマンティックな人物として描かれていた。この頃から、ケーブルニットは実用的なカジュアル衣料から、よりラグジュアリーなアイテムへと移行を始めたのだろう。

 

 ケーブルニットは、女性のアイコンたちによっても、そのファッション性がアピールされてきた。マリリン・モンローは、『恋をしましょう』(1960年)でセクシーな舞台女優を演じたが、オーバーサイズのケーブルニットは彼女の豊満な曲線に絶妙にフィットしている。ジーン・セバーグは、フランス映画『勝手にしやがれ』(1960年)で、オーバーサイズのタートルネックを着て、洗練された愛らしさを演出している。

 

 

 

 

 

ケーブルニットの現在

 

 粗めのウールから作られる本格的なケーブルニットは、もっちりとしていてラフで、紛れもなくカジュアルなアイテムだ。しかし、現代のブランドは、この柄をより高級な素材で編み上げ、実用的な衣服からラグジュアリー・ピースへと変化させている。「ケーブルニットが古臭いなんてまったく思いません」と、ニュー&リングウッドのプロダクト&マーケティング・ディレクター、シモーヌ・マローニーは語る。

 

「ケーブルニットは、昔のような油分の多いアランセーターから脱却し、ウールやカシミア、コットンの混紡素材で作られるようになりました。そして紛れもなくラグジュアリーなアイテムとなったのです」

 

 ラルフ・ローレンは、胸元に刺繍ロゴを配したアイコニックなカシミア製ケーブルニットセーターをデザインし、この分野におけるパイオニアとなった。スリムフィットのシルエットで洗練されたこのセーターは、今やラルフ ローレンを代表するアイテムとなっている。

 

「ラルフ ローレンのフィロソフィー通り、トレンドに左右されることなく、常に素晴らしいカラーバリエーションが揃えられています」と、メンズウェアのエキスパートであるクリストファー・モドゥーは言う。しかし、彼は重ね着ではなく一枚で着ることを強く勧めている。

 

「セーターとシャツの重ね着は、プリンストン大学の体育会系の学生ならクールですが、普通の中年男性だと “非番の警察官”のように見えてしまいます」

 

 一方、ジョンスメドレーのヘッドデザイナーであるリップ・ジェンキンスは、「ケーブルは厚手でがっしりしている方が良い」と考えている。英国のテーラー、エドワード・セクストンも同じ考えで、プレタポルテ・コレクションでは重量感のあるケーブルニットをラインナップに加えている。

 

「ネイビーのケーブルニットに光が当たると、ケーブルが光と影を織りなし、実に深い表情となるのです」とセクストンのカッター兼クリエイティブ・ディレクター、ドミニク・セバーグ・モンテフィオーレは語っている。

 

 ヴィクトリア時代に荒波に揉まれる漁師の服として生まれたケーブルニットは、今日のキャットウォークやファッション・ブティックに辿り着いた。本格的なアランセーターでクラシックな雰囲気を演出するもよし、モダンで洗練されたカシミア製を選ぶもよし。ケーブルニットはあなたのワードローブを充実させる、頼もしいアイテムなのである。

 

 


左:アレッサンドロ・アガッツィと・ゲールは、グレイのコートの下にチャンキーなニットを着ている。右:ルカ・ルビナッチは、ワインレッドのケーブルニット、肌触りの良いファー付きパーカー、つば広のフェルトハットで、素材感を重視したコーディネイトを披露している。