SIGMA fp Vol.02

オールドレンズが似合うカメラ

Saturday, March 13th, 2021

text & photography kentaro matsuo

 

 

 

 

 

 SIGMA fpをお借りして、はや2週間。どうしてもやりたかった、父親の使っていたレンズを取り付けるということに挑戦してみた。

 

 私の父は、カメラが趣味のひとつで、よく写真を撮っていた。昭和ヒトケタ生まれの人だったから、使っていたのはもちろんフィルム・カメラだ。アサヒペンタックスのSPという一眼レフを愛用しており、私も子供の頃、よくこのカメラで撮ってもらった。その頃のアルバムを開くと、父がSPで撮影した私の写真がたくさん貼ってある。

 

 アサヒペンタックスSPは1964年に発売されたカメラで、世界中で400万台以上を売り上げ、日本を世界のカメラ大国に押し上げた国家的ヒット作である。昨2020年における世界全体のデジタルカメラの出荷台数が900万台弱だったらしいから、1機種でこの数字は、現代ではありえないものだ。

 

 当時は東京オリンピックや万博もあったりして、人々の関心が写真に向いていたのだろう。また私の誕生年は1965年であり、優しかった亡父は、私を撮影するために、このカメラを買ったのかもしれない(そう考えると涙が出てくる)

 

 思い入れのあるカメラなので、本当はそのまま使えばいいのだけれど、さすがにこのご時世にフィルム・カメラを使うのは気が引ける。ネット通販で調べたら、27枚撮りのフィルム1本で、1000円近くもする。1枚あたり30円超の計算だ。これにすこぶる高くなった現像料とプリント料がかかるから、1枚あたりの単価は、ゆうに7〜80円を超える。また内部露出計がバカになっているので、大金をかけてこれを直すか、外部露出計を使わなければならない。ちょっと、ねぇ・・。

 

(まぁ、そういうわけで、SIGMA fpのようなカメラの存在が光るのだが)。

 

 

 

父が愛用していた、スーパータクマー50mm F1.4 。ものすごく黄変しており、カビのようなものも散見されるが、大丈夫だろうか?

 

 

 

 父のカメラに付いているレンズは、スーパータクマー50mm F1.4というもので、標準レンズとしては、非常に明るい1本だ(今の基準からしてみても明るい)。1960年代当時は、明るいレンズ=いいレンズという図式だったのだ。

 

 タクマーは、M42と呼ばれるスクリュー(ネジ式)マウントを採用していた。父はもう1本、200mmの望遠レンズも持っていたから、よくうずくまってレンズをクルクルと回して、レンズ交換をしていたのを覚えている。このネジ山の精度は素晴らしく、いまでもレンズを回しながら取り付けると、絞り目盛りの中心がボディの真ん中にバシッと来る。往年の技術はたいしたものだと思う。

 

 絞りリングのカチカチとした感じや、ピントリングのねっとりとした感触は、実に“いいモノを触っているなぁ”という気にさせる。こういうものに触れていると、いったい過去50年間におけるカメラの進歩って何だったのだろうか、と思ってしまう。確かにオートフォーカスやら手ブレ補正やらあるけれど、もはや携帯でもできるからね。

 

 

 

 

 さて、このレンズをfpにつけるには、スクリュー式のM42マウントと、シグマがライカやパナソニックと大同団結したバヨネット式Lマウントを連結するアダプターが必要だ。シグマ社のプロサポート課、桑山輝明さんに聞いたら、SHOTEN(焦点工房)のものが安くていいというので、ひとつ贖ってみた(ネットで7千円程度)。

 

 正直に言うと、クラシカルなスーパータクマーとヴェリィ・グッド・デザインなfpをつなぐアダプターとしては、いささか胴長のバッド・デザインだ。しかし、機能的には素晴らしく、新旧のレンズとカメラをしっかりと連結してくれた。そのようにして、ここで、最新のデジタルカメラ+オールドレンズという撮影機器が出来上がった。

 

 

 

 

 最新カメラであり、またオールドレンズを使用することも前提に設計されているfpの性能は素晴らしく、いかなる明るさにも完璧に対応してくれる。レンズの露出リングをデタラメに回しても、カメラ本体が一生懸命に感度とシャッタースピードを変え、適正露出をキープしてくれる。

 

 しかし問題は、フォーカスだ。オールドレンズのピント合わせは、もちろんマニュアルだ。ピントリングを回して、目視で焦点を合わせなければならない。fpのモニターには、タッチ式の部分クローズアップ機能がついていて、ピント合わせはすこぶるラク・・なはずだが、これが並大抵ではない。私のような老眼持ちでは、まずモニターをみるためにいちいちメガネを掛ける必要があり、そこで必死なってピントを合わせようとするのだが、被写体が人や動物のように動くものであると、ぜんぜんフォーカスが合わない。

 

 いらいらして、ついにはメジャー取り出し、被写体との距離を測って、距離目盛りの数字をそれに合わせた次第である。愛犬を撮影した<素人作例>のピントは、まだ甘いけれど、これでも何十枚と撮影したうちの1枚だ。

 

 

 

SIGMA fpは、オールドレンズを使用するときのために、画面周辺に色が付く現象を補正できる機能を備えている。

 

 

 

 こういった経験をすると、つくづく、昔の人は写真が上手だったのだなぁ、と思う。オート・フォーカスも手ブレ補正もなかった時代に、一発撮りで、たくさんの傑作をものにしている。写真の黄金時代は、1960〜70年代あたりだったのではあるまいか?

 

 SIGMA fpは、そんな写真が特別なものであった時代を、思い起こさせてくれるカメラだ。冷たい金属製のボディ、カチカチとした操作感、何よりオールドレンズとの相性・・それらすべてがとてもいい。手っ取り早くSNSに投稿したいという人にはおすすめしないが、じっくりと写真というものに向き合ってみたいという人にとっては、きっといい相棒となる。かつて私の父親とSPが、そうであったように。

 

 

 

<素人作例>

私が撮影した愛犬Leo(2021年)と父が撮影してくれた55年前の私(1966年)。