QUEEN ELIZABETH – CUNARD

限られたゲストのための社交場
「クイーン・エリザベス」での優雅な旅

June 2022

 

 

 近年、より身近な存在になり、万人が楽しめるようになった船旅。様々なスタイルのクルーズ会社が誕生するなかで、今も伝統を大切にし、格式を保っている数少ないラグジュアリー客船がある。イギリスのキュナードが所有する客船「クイーン・エリザベス(QE)」だ。

 

 同社の起源は1800年代までさかのぼり、その前身はイギリスと北米間を結ぶ王室郵便汽船会社。それまでもいくつかのクルーズ会社が誕生していたが、1840年に創業した同社は船旅を新たなレベルに引き上げていくこととなる。

 

 数々のサービスを生み出した同社ではあったが、その最たる例が、14日間の大西洋横断クルーズに“牛”を乗せていたこと。その理由が、朝食で新鮮な牛乳をゲストに提供するためだったというから驚きだ。

 

 

船旅を楽しむゲストたち。出典:キュナード・ライン

 

タイタニック号の救助にあたった「カルパチア」(1903-1918年)。

 

 

 

 同社の1番船「ブリタニア」をはじめ、「モーレタニア」や「フランコニア」など、キュナードが所有していた船は多岐にわたるが、その中でも有名なのは「カルパチア」だろう。1912年、ホワイトスター・ライン「タイタニック」の救助に誰よりも早くかけつけた船である。ニューヨークから航海に出ていたカルパチアは、700名以上の生存者の救助に成功した。

 

 その後1934年には、ホワイトスター・ラインと合併。高品質なサービスと名前を継承し、現在もレベルの高い「ホワイトスター・サービス」を提供している。決して一方的ではなく、“察して動く”という日本のおもてなしと通じる部分も感じられるサービスが心地よい。スタッフひとりひとりに裁量が与えられているため、各々が迅速に決断できるのだとか。

 

 1945年には、英国首相のウィンストン・チャーチルがヤルタ会談出席の際に乗船。現在では船内に「チャーチルズ・シガー・ラウンジ」という名のラウンジも擁しており、室内にはチャーチルが乗船した当時の新聞記事も展示されている。

 

 シガーのラインナップも幅広く用意されており、チャーチルの横顔が目印のシガー「ダビドフ ウィンストン チャーチル」も数多く揃っていた。優雅な航海の最中にこそ海の上で、コニャックとともにシガータイムをゆっくりと楽しんでみてはいかがだろう。

 

 

エリザベス女王が、2代目クイーン・エリザベス(QE2)の誕生を発表。(1967年)出典:キュナード・ライン

 

 

 

 創業当時から業界を牽引してきたキュナードは、世界で唯一、英国王室より女王陛下の名称を客船につけることを許された会社でもある。現在は「クイーン・エリザベス」の他に「クイーン・メリー2」や、進水から13年目を迎える「クイーン・ヴィクトリア」の3隻の客船を擁している。そして、2019年10月には4隻目となる新造船「クイーン・アン」の起工式が行われ、今年、ついに処女航海を含む最初のシーズンのコースも発表された。すでに販売を開始している。

 

 現在就航している4隻の航海するエリアはそれぞれ異なり、例えば「クイーン・ヴィクトリア」は主に南米やバルト海などユニークな寄港地が多く、キュナード最大(乗客定員2,691名、全長345m)の船隻「クイーン・メリー2」は大西洋横断や世界一周クルーズを行っている。また、日本で最も知名度が高い「クイーン・エリザベス」は現在、唯一日本発着クルーズを実施しており、ショートコースのクルーズも用意されている。ちなみに現在就航しているクイーン・エリザベスは3代目だ。

 

 今回はそのクイーン・エリザベスの船内を詳しく見ていこう。まず、キュナードの船で特徴的なのは、客室のカテゴリーごとに、専用のメイン・ダイニングが決まっていること。いわゆるスイートクラスの「クイーンズ・グリル」と「プリンセス・グリル」、「ブリタニア・クラブ」、「ブリタニア」だ。朝食、昼食、夕飯の際、宿泊している客室のカテゴリーごとにダイニングが分かれている。

 

 客室の広さやファシリティが異なるのはもちろん、ダイニングの内装や楽しめる料理も異なるため、ぜひパンフレット等を見て好みのタイプを見つけてほしい。

 

 参考までに最上ランクのクイーンズ・グリルの場合だと、バトラー・サービスと専任のコンシェルジュ・サービス、客室にジェットバス付きのバスタブや広々としたバルコニーが備わっていたりと、享受できるサービスにも違いがある。

 

 

ある日の「クイーンズ・グリル」。航海中は、乗船日から下船日まで同じテーブルを利用。テーブル上に置かれた番号は、その目印だ。

 

 

 

 とはいえ、クラスによって異なるメイン・ダイニングの他にも、客室カテゴリーを問わずに利用できるスペシャリティ・レストランやラウンジ、バーなども揃っているので、その時の気分によって使い分けることができる。

 

 朝から夜までカジュアルに楽しめるブッフェスタイルの「リド・レストラン」や、熟成肉や海鮮のグリル料理、はたまた豪華なシーフードプラッターまで堪能できる「ステーキハウス・アット・ザ・ベランダ」(予約制/有料)、ルームサービスなど選択肢は多彩だ(「ステーキハウス・アット・ザ・ベランダ」は人気のダイニングであるため、予約は早めにしておくことをお勧めする)。

 

 料理の味も評判のクイーン・エリザベスでは、旅の醍醐味である食事の時間も至福のひとときとなるだろう。日本人ゲストが多い航路では、ブッフェダイニングにて和食も提供されることもある。

 

 

船の玄関口であり、フォトスポットのひとつでもある「グランド・ロビー」。3層吹き抜け構造で、1階部分にはホテルでいうフロントの役割を持つ「パーサーズ・オフィス」がある。

 

 

 基本的に、ドリンク類、有料のスペシャリティ・レストラン、カジノを除いて、無料で楽しむことができるのも、クルーズの楽しさといえよう(料金が発生するものに関しては、メニューに金額の記載あり)。船で支払いが必要な場合には、客室のカードキーを出すだけで大丈夫。下船日に客室に明細が届けられる。

 

 船内にはお酒が楽しめるバーやラウンジが数多く設えられており、船の先端部分に位置し、進行方向の大海原を一望できる「コモドアー・クラブ」や、洋上初のジンの蒸留器で作られたオリジナルジンを楽しめるバー「ミッドシップス・バー」、イギリスのパブを思わせる「ゴールデン・ライオン」(フィッシュ&チップスはもちろん、カレーも絶品!)など、趣の異なるバーが揃っている。それぞれコンセプトが異なるため、楽しめるドリンクも異なる。

 

 特にユニークなのは、コモドアー・クラブで提供される、歴代のコモドアー(=船長よりも上の位に位置する、船における最高職位)たちをインスピレーションの源として作られたカクテルの数々。

 

 メニューには歴代のコモドアーについてのストーリーやそれぞれのイラストも描かれているため、ぜひ一度目を通していただきたい。100年以上前の知られざる偉業や、どんな人柄であったかなど、キュナードの歴史を語る上で必要不可欠なコモドアーたちの素顔を知ることができるだろう。

 

 

窓から進行方向の海を一望できる「コモドアー・クラブ」。手前には立派なバーカウンターも擁している。

 

左:「ミッドシップス・バー」で堪能できるジンのカクテル「Uluru」。生姜のアクセントが絶妙。写真内のジンのボトルは、キュナードオリジナルの「3クイーンズ・ジン」のうちの1種類、「クイーン・メリー2」。現在所有している3隻それぞれをイメージした3種が揃う。右:コモドアーたちへのオマージュを込めたオリジナルカクテル「Punch Romaine A La Carpathia」(左)と「All Consuming Passion」(右)。「コモドアー・クラブ」で楽しめる。

 

 

 船内にはジムやスパ、屋外のデッキにはプールやジェットバスも完備。特に、2018年に新コンセプトでスタートしたスパ「マレール・ウェルネス・アンド・ビューティ」は、ハイドラセラピー・プールやサウナ、ホットストーンなど、ただただくつろぎ、張り詰めた気持ちを解きほぐすことのできる施設が充実している。数に限りがある1日利用券が発売されているが、とても人気があるため、乗船日に購入することをお勧めする(購入はホテルでいうところのフロントである「パーサーズ・オフィス」もしくはスパにて可能)。

 

 ただただ食べて飲んでいるだけよりも、ジムで身体を動かしたり、スパでデトックスをすることで、食事もお酒もより一層楽しめるだろう。

 

 

スパ「マレール・ウェルネス・アンド・ビューティ」。ハイドラセラピー・プールの横にはゆっくりと横になりながら読書を楽しめるデイベッドも。

 

 

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