The Dreamy World of Queen Elizabeth Vol.3

非日常の世界、おいしい食事を、そしてドレスアップを楽しむクイーン・エリザベスでの2泊3日

March 2023

text yuko fujita 

 

 

 船内をざっと散策し終わって位置関係を把握したところで、18時30分の出港パーティまでひと休み。快晴に恵まれ陽気な1日だったこともあり、それまでデッキで太陽の光を浴びながらビールを飲んでゆっくり過ごすことにした。

 

PART1PART2の記事はこちら。

 

 日中はドレスコードが設けられていないので、ネイビージャケットに白のポロシャツを合わせた格好でデッキに向かった。ほかの乗客は思いのほかカジュアルな装いだったが、この場ではネイビージャケットを羽織っているくらいが自分にはしっくりくるように思えた。

 

 自分の場合、特に海外では皆よりもきっちりした装いのほうが気持ち的にラクだからだ(これが逆だと結構つらい)。自由な装いでいいとはいえ、やはり紳士・淑女たちが集うクイーン・エリザベスの船上では、ドレスコードのない時間帯でもジャケットを羽織っているほうが落ち着くので、自分が心地よくいられるスタイルで臨んだ次第だ。

 

 

 

出港前の格好はこちら。サルトリア コルコスのモヘア混ネイビージャケット、ルカ アヴィタービレのフライデーポロ、尾作隼人さんのベージュウールトラウザーズ、ヨウヘイ フクダのエプロンダービー。靴はラバーソール仕様でオーダーしたので、旅行や出張時に大変重宝している。あまりファッション感を出さずに、あえてごくごくオーソドックスな装いが自分の中ではしっくりきた。素足でのテーラードスタイルにやや抵抗があるので、パンセレラのホーズを合わせて。

 

 

 

 おいしいと評判のディナーが控えているので何をつまむでもなくビールを飲み続けていたのだが、視界にハーバーブリッジとオペラハウスが広がるなかで潮風を受けつつ飲むビールのなんとおいしく感じること! いや、ビールの味そのものがとてもおいしいぞ!

 

 

 

画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

 それもそのはず、僕が飲んでいたのは、数々の受賞歴のある英国の地ビール醸造会社ダーク・レボリューションと開発したキュナードのオリジナルビールである。僕はひたすらピルスナータイプの「キュナード・ゴールド」をリピートしていたけれど、IPA(インディア・ペールエール)の「キュナード・レッド」、スタウトビールの「キュナード・ブラック」もあり、3種類とも船内のすべてのバーやレストランで楽しめるそうだ。

 

 

船旅を楽しむために集まった乗客たちは、どのテーブルも笑顔が絶えない。これから始まるクイーン・エリザベスでのひとときへの皆のワクワク感によって生み出される場の一体感みたいなものが、船上に満ちているのだ。コロナ禍のなか、このような楽しい場とは長らく疎遠になっていたこともあり、そのありがたさが強く身に沁みた。

 

 

 

 19時の出航時刻30分前あたりから、デッキで出航パーティが始まった。生演奏の陽気な音も手伝って、気分はさらに盛り上がってくる。ここからシャンパーニュに切り替えて乾杯し直した。会話を楽しんでいるうちに汽笛が鳴り響き、しばらくすると目の前にあったハーバーブリッジが徐々に遠のいていくのがわかった。いつもとは違った角度から眺める美しいオペラハウスが、クイーン・エリザベスでの船旅が始まったことを実感させた。

 

 夕食からはスマート・アタイアのドレスコードがあり、ジャケット、ドレスシャツの着用が求められ、ジーンズやショーツはNGとなる。

 

 というわけで、ひとまずポロシャツをドレスシャツに着替えた。上はそのまま、同じネイビーのモヘア混ジャケットだ。ちなみに今回のように2泊3日の航海であれば、船上ではネイビージャケット1枚あればこと足りて、逆をいえば万能なネイビージャケットこそが必須であるというのが、僕が抱いた感想だ。下は先ほどと同じベージュのウールトラウザーズ。白のウールトラウザーズも持参したものの、アールデコ調の船内の雰囲気にはベージュのウールパンツのほうがしっくりくると思い、あえて着替えるのはやめにしたのだ。

 

 というわけで、スマート・アタイアのドレスコードに即した装いで「ブリタニア・レストラン」へ。

 

 

スマート・アタイアのドレスコードに即したディナーの格好。サルトリア コルコスのモヘア混ネイビージャケット、尾作隼人さんのベージュウールトラウザーズ、ボリエッロのコットンリネンシャツ、アット ヴァンヌッチのストライプタイ、ヨウヘイ フクダのエプロンダービー。12月のシドニーゆえ、ベーシックな中にも清涼感のある装いを心掛けた。

 

 

イタリアを始めとするヨーロッパでいろいろ体験してきたなかで、船上でのネクタイは、ある程度ざっくりしたピッチのストライプ、無地、そしてニットタイがしっくりくると考えている。あるいはワンポイントのクラブタイも洒落ていていい。逆に小紋系は海の装いには合わない気がする。左から、フランチェスコ マリーノ、ルイ・ファグラン、チェーザレ アットリーニ、アングロイタリアン、ドレイクス、フィノッロ。

 

 

ブリタニア・レストランではフルコースを堪能。専用ダイニングでの食事はクルーズ代金に含まれている(ワインなどのアルコール、ドリンク類は別料金)。画像提供:キュナード・ライン

 

 

画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

 おいしい食事とワインを堪能した後は「ロイヤル・コート・シアター」でロイヤルキュナード歌手&ダンサーによるオリジナルショー「ハリウッドナイト」の鑑賞タイム。船内にこんなに立派なシアタ―があることに驚かされた。ちなみに2階席のプライベートボックス15番は、故エリザベス2世女王が船の命名式の際に着席されたこともあり、記念撮影のスポットになっている。

 

 

 

画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

 歌とダンスが融合した華麗なショーを楽しんだあとは、偉大な業績を残した歴代キャプテンに与えられた称号「コモドアー」の名を冠したデッキ10のカクテルバー「コモドアー・クラブ」へ。ここではキュナードの歴代のコモドアー7名をイメージしたスペシャルなカクテルを楽しめるとのことで、その中のひとつ「パンチ・ロメーヌ・ア・ラ・カルパチア」を飲んでみた。

 

 

1912年に沈没したタイタニックの乗客約700名を救助したことで知られるキュナードの客船「カルパチア」の船長アーサー・ロストロン氏イメージして作られたカクテル「パンチ・ロメーヌ・ア・ラ・カルパチア」。タイタニックのカクテルメニューにあった「パンチ・ロメーヌ」にアレンジを加えた、アドヴォカート、リモンチェッロ、クリームシェリー、ライムジュース、ゼニアオイ からなるカクテルだ。ピアノの生演奏を聴きながら、甘美な味わいを堪能し、ロマンチックな非日常の夜を存分に楽しんだ。画像提供:キュナード・ライン

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。深夜0時を回った頃、客室に戻り、翌朝のルームサービスの記入をすると(僕はコーヒーと水だけオーダーし、朝食はレストランでとることに)、程なく心地よい眠りに就いた。

 

 

 

2日目はひたすら食べて飲んで運動し、

夜はタキシードでドレスアップ

 

 クイーン・エリザベスは初日から存分に楽しめ、ホテル同様にぐっすりと眠れ、朝は7時前に目が覚めた。部屋のテラスで海を眺めながらコーヒーを飲もうと考えていたが、意外や寒く、1分ともたずに断念。その後、ブリタニア・レストランでコンチネンタルブレックファーストをとった。

 

 昨日から飲んで食べての繰り返しなので、朝食後、少し休憩してから船内を走ってみたのだが(デッキ3の周りは1周500mで、そこが走れるようになっている。たくさん食べて飲んだあとは皆同じ思考になるらしく、ここでのジョギングは人気らしい)、この日は風が強く1周したところで断念(朝食前はまだ風もさほど強くなく、走っている人がたくさんいた)。デッキ10のフィットネスジムで汗を流すことに。軽く筋トレを済ませてからトレッドミルで15分ほど走ったところでウォーキングに切り替えた。

 

 トレッドミルは前方がガラス張りになった船首側の最前列に並んでいて、どのマシンを使っても視界には一面に海が広がる。ランニング時は走ることに夢中で気づかなかったが、歩くスピードと船の航行スピードが自分の目線ととてもマッチしていて、自分の足で海を前進している錯覚を覚える。テレビゲームさながらに、未来を切り拓いていく勇者になったかのような不思議な感覚を味わえるのだ。これは今までにない痛快な体験だった。

 

 

フィットネスジムは船首側にあり、その最前列にトレッドミルが並ぶ。乗船された際はぜひ体験してほしい。画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

 汗をたっぷりかいたあとは、“サ活”タイムだ。サウナに携帯電話をもっていくわけにもいかず、写真で紹介できないのが残念だが、サウナの壁はガラス張りになっていて、大海原を眺めながら汗をかけて最高に気持ちいい。ここではトルコ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、さまざまな国の人たちと一緒になった。自然と会話が生まれ、それぞれ自己紹介をするのだが、ショートクルーズコースということもあって皆20~40代と若く、海外では若い人たちも積極的にクルーズを楽しんでいることを実感した。たっぷり汗をかいて脳内もすっきりしたところでランチタイムだ。

 

 僕は大のビール好きゆえ、楽しみにしていた英国式パブ「ゴールデン・ライオン」でのランチだ。豪華な革張りのバンケットシートがあって、ダーツボードがあり、スポーツ中継が流れているこちらは、英国の伝統的なパブそのものの雰囲気だ。名物はメニューに“Beer Battered Atlantic Cod”と記載されているフィッシュ&チップスだ。

 

 

「ゴールデン・ライオン」の名物である“Beer Battered Atlantic Cod”は、アトランティック産のタラを小麦粉やベーキングパウダーなどにビールを加えた生地にタラを浸け、小麦粉をまぶしてから揚げられている。クリスピーな衣、ミント風味グリーンピースマッシュが超うまし! ビールが進む、進む! 画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

 が、この後にはクイーン・エリザベスに乗船した以上は絶対に体験しておくべきといわれている「クイーンズ・ルーム」での伝統的なアフタヌーンティーが控えているので、フードはフィッシュ&チップスのみでガマン!

 

 ランチのあとはちょっぴり船内を散策し、そのまま「クイーンズ・ルーム」へ。生演奏が流れる優雅な雰囲気のなか、フィンガーサンドイッチからスタートし、おいしい紅茶とともに中がしっとりすこぶるおいしいスコーンにクロテッドクリームをつけてついついパクパク。ペイストリーがやってくる頃にほぼ満腹になってしまうほど大満足の状態に。

 

 

画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

 朝から食べてばかり、飲んでばかりでだいぶ満腹感に、夜にはさらに「ガラ・イブニング・アタイア」のドレスコードによる、ディナージャケット(タキシード)着用のディナーが待っているとくれば、このあとどうにかしてお腹をすかせたいところ。夕飯までに空腹になる自信がなくなってきたので、再びフィットネスジムに向かってウォーキング。さらに再度サウナで汗を流したら、もうガラディナーの時間ではないか(笑)。

 

 よし、タキシードにチェンジだ!

 

 THE RAKEの読者の皆様はそうだと思うけれど、ドレスコードのある場というのは非常に楽しく、日々仕立ててきた服を着て楽しめるまたとない場である。今回は海外での着用ということもあり、カマーバンドを持参する必要のなかったダブルのタキシードを選んだ。

 

 

「ガラ・イブニング・アタイア」のドレスコードによるディナータイムはジェンナーロ・ソリートのビスポークタキシード、フライのダブルカフスシャツ、マリネッラのバタフライだ。足元はギルドのビスポークのストレートチップ。

 

 

 

 

 昨晩同様に素晴らしかったディナーのフルコースは割愛するが、おいしいワインとともにとても優雅な時間を過ごすことができた。その後バーに向かう途中、クイーンズ・ルームを覗いてみると、ビッグバンド黄金時代の音楽とともにダンスに興じる紳士・淑女たちの姿が。クイーン・エリザベスの世界、素敵だなぁ!

 

 結論からいうと、クイーン・エリザベスの世界は僕の想像を遥かに超えていた。2泊3日という短いコースでもあってもその素晴らしい世界の一端を垣間見ることができたし、一方で今回は短い乗船日数でさまざまなことを体験したかったので幾分せわしなかったことも否めない。またクイーン・エリザベスに戻ってきたいと強く思ったし、次回はもうちょっと長い日数乗船してみたいとも思った。プールサイドで寝ながら読書したり、ライブラリーに籠ったり、ヨガなどのプログラムに参加したり、「アット・ザ・ベランダ」というステーキハウスや「バンブー」というアジア料理レストランにも行ってみたいし、ゲームデッキで経験したこのとのないクリケットを楽しんでみるのもいい。

 

 普段の生活とは大きくかけ離れた非日常の世界であり、でもその非日常は実は2泊でも楽しむことができる身近な存在であることもわかった。航行スケジュールに合わせて海外旅行を組むことで、飛んだ先でクイーン・エリザベスでのクルーズを組み込めることを覚えたのは大きな収穫となった。

 

 さて、クイーン・エリザベスは翌朝メルボルンに無事着港し、人生初となる豪華客船での2泊3日での船旅は、僕のハートにクイーン・エリザベスへの強烈な愛が芽生えたかたちで終幕したのだった。