The Dreamy World of Queen Elizabeth

実は身近な「クイーン・エリザベス」の非日常

February 2023

 

text yuko fujita

 

 

 

 フォーシーズンズホテル シドニー上層階からの眺望は素晴らしく、朝目覚めると、眼下に広がるシドニーのポートに、タスマニア島バーニーからの航海を終えた豪華客船クイーン・エリザベスが停泊していた。

 

 ブラックの引き締まったボディに白が映える船体の、なんと格調高く美しいことか。オペラハウスとハーバーブリッジを望むサーキュラー キーの景観にはまったパズルの最後のひとピースと表現するにはあまりに大きなクイーン・エリザベスが並んだ見事な景観に、寝起きの僕はしばしボーッと見入ってしまった。

 

 

フォーシーズンズホテル シドニーからの眺め。シドニーのポートに停泊しているクイーン・エリザベス。

 

 

 

 ロードネルソンブルワリーからスタートし、ホテルの近くのレストランで遅くまで飲んでしまったからか、昨晩のアルコールが抜けきらない。起き上がることができないまま、サイドテーブルのミネラルウォーターに手をのばして喉を潤し、威風凛然としたその船体にしばし見惚れながら、向こうの世界へ想像を張り巡らせていた。

 

 

オーストラリア最古のパブブルワリー、ロックスにあるロードネルソンブルワリー。

 

 

 

 クイーン・エリザベスに乗船したことのあるTHE RAKEの同僚から話は聞いているものの、乗船したことのない豪華客船の世界など知る由もない。僕の想像は実際とはあまりにかけ離れたものかもしれないし、いや、案外僕の想像は的を射たものかもしれないなどと考えながら、間もなくその答えを確かめることができる自分を、とても嬉しく思った。

 

 そう、僕はこれから眼前のクイーン・エリザベスに乗船し、メルボルンまでの2泊3日のショートクルーズを存分に楽しむのだ。

 

 よし!

 

 意を決してベッドから起き上がると、熱いシャワーを浴びて脳を一気に覚醒させ、ポマードで髪をセットし、船内でのガラディナー(2泊のコースでもしっかり用意されているのが嬉しい!)のために持参してクローゼットにかけておいたジェンナーロ・ソリートのタキシードをスーツケースに戻して荷物をまとめ、サルトリア コルコスのネイビージャケット(これも重要!)を羽織った。僕は勇んでホテルをチェックアウトし、はやる気を抑えながら、足早にクイーン・エリザベスへと向かった。

 

 

ハーバーブリッジを背に停泊しているクイーン・エリザベス。ただただ美しい。画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

英国キュナード・ラインが誇る

全長300m級の豪華客船

 

 

 豪華客船クイーン・エリザベスとは、一体どんな船なのか?乗船前に調べておいた内容を、簡単にご紹介しよう。

 

「クイーン・エリザベス」は、「クイーン・メリー2」と「クイーン・ヴィクトリア」と並んで英国のキュナード社が所有する3隻の豪華客船のうちのひとつで、全長は294m。乗客定員数は2081名、乗組員数は980名。デッキは12層で、客室数は1045(うち738室がプライベートバルコニー付き)とのこと。

 

 初代「クイーン・エリザベス」は1940年、2代目の「クイーン・エリザベス2」は1969年、そして今日の3代目「クイーン・エリザベス」は2010年にデビューしている。

 

 僕は今、クイーン・エリザベスの294mの船体がいかに巨大であるかを伝えたいのだが、例をあげると、甲子園球場のホームベースからバックスリーンまでの距離の約2.5倍、高尾山の標高の約半分で、かつて東洋一の高さを誇った240mの「サンシャイン60」、高さ243mの「東京都庁舎」よりもずっと大きく、296mの「六本木ヒルズ森タワー」や300mの大阪の「あべのハルカス」がそれに近い高さを誇る。世界最大を誇る米最新空母「ジェラルド・R・フォード」の全長が333mと聞けば、それとさして変わらないクイーン・エリザベスがいかに巨大であるかがおわかりいただけよう。

 

 

左から、現在運航中のクイーン・メリー2、2024年にデビューするクイーン・アン、クイーン・ヴィクトリア、そして右端がクイーン・エリザベス。クイーン・アンが加わることで、クイーンの名を冠したキュナード・ラインのクルーズ船は4隻になる。画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

 乗客定員数に対しての乗組員数の多さにも驚かされる。

 

 が、船内はダンスショーやミュージカル、ジャズを始めとした生演奏など、さまざまなエンターテインメント・ショーに溢れ、カジノ、ライブラリー、6つのダイニング 、12のカフェやバーやラウンジやパブ 、24時間のルームサービス、フィットネス、スパ、ライブラリー、プール、ジャグジーなど、その他もっともっとたくさんの設備、プログラムがあって、それらすべてのサービスを上質に滞りなく提供するためには、これだけの乗組員数は必須なのである。

 

 

クイーン・エリザベスが誇るグリル・クラスのダイニング。画像提供:キュナード・ライン

 

デッキ後方にあるリド・プール 。クイーン・エリザベスにはもうひとつデッキ前方にパビリオン・プールがある。画像提供:キュナード・ライン

 

 

 

2泊3日で楽しめる船上の非日常

実は身近なところにあった夢の世界

 

 豪華客船での世界一周クルーズだと110日前後が一般的で、長いものだと半年を要するものもあることから、仕事をリタイアした夫婦など、たっぷり時間のある人たちが楽しむイメージをもっていた。しかしながら、クイーン・エリザベスの航行スケジュールを見ると、長いフルコースであっても多くは1ヶ月前後の期間で組まれており、その中に今回のように短期間で楽しめる区間乗船コースがいくつも用意されている。

 

 例えば 2023年4月3日から19日までのコースを見てみると、シンガポール→プーミー(ベトナム)→ニャチャン(ベトナム)→プエルトプリンセサ(フィリピン)→マニラ→花蓮(台湾東部)→基隆(台湾)→石垣→那覇→横浜(*1)→八代→福岡→釜山→金沢→秋田→横浜(*2)というクルーズがあり、その期間内で多数の区間乗船コースが用意されている。長いものだとシンガポール~横浜の17日間、短いものだと、横浜(*1)~釜山の5日間、釜山~横浜(*2)の6日間のコースを楽しめる仕組みだ。

 

 今回僕は、オーストラリアを航海中のクイーン・エリザベスの、シドニーからメルボルンまでの最短コース、2泊3日のプログラムに乗船するわけだ。これだったら海外旅行のついでにさらなる非日常を楽しむべく、だいぶ気軽にチャレンジできる。キュナード・ラインの航海スケジュールをチェックして、それに合わせて旅行を組むのがオススメだ。

 

 

こちらが2023年4月のスケジュール。クイーン・エリザベスはシンガポールから台湾を経由して、日本に入ってくる。横浜発着のコースもいくつか用意されている。

 

 

 

 さて、眼前にそびえるクイーン・エリザベスの、なんと勇ましいことよ。

 

 

巨大すぎるクイーン・エリザベスは、近くからではその姿のほんの一端が見えるだけだ。短いプログラムゆえ、20代の若者たちも多い。

 

 

 

 セキュリティチェックも無事済んで、さあ、いよいよ夢の世界へと、僕は足を踏み入れた。

 

 

画像提供:キュナード・ライン

 

 

Part2につづく