President & CEO of Shinwa Wise Holdings, Yoichiro Kurata -Interview-

江戸の町にNFTアートの美術館!? 無限の可能性を秘める「江戸バース」とは

December 2022

日本が誇る老舗オークションハウスは今、あるふたつの事業を積極的に推し進めている。ひとつがNFTアート、もうひとつが仮想空間「江戸バース」だ。社長を務める倉田陽一郎氏に、このふたつの事業について詳しく話を伺った。

 

 

 

text YUKINA TOKIDA

portrait photography TAKAYUKI FUJIMOTO

 

 

 

倉田陽一郎/Yoichiro Kurata

1965年生まれ、東京大学経済学部卒。2001年よりシンワオークション代表に就任し、2005年に日本のアートオークション会社として初の株式上場へと導く。2017年にはこれまでの事業をホールディングス化し、社名をシンワワイズホールディングスに変更。現在同社の代表取締役社長を務める。

 

背景の絵は、パリを拠点に活動する国際的なアーティストORLANによる『Self hybridation – Opéra de Pékin(2014)』。12月12日から19日に開催された、リアル×バーチャルのハイブリッドなアート展『SHINWA SPACE SHIP』での目玉作品のひとつ。専用のアプリでQRコードをスキャンすると、画面上にアクロバットをしている彼女のアバターが現れる。

 

 

 

 日本における老舗オークションハウスとして知られてきた「シンワオークション」が、これまでの主軸事業であったオークション業や画廊業を子会社化し、「シンワワイズホールディングス」として新たなフェーズに突入した。世界レベルのNFTアートやメタバースを世の中に広めるべく、大きく舵を切ったのだ。この先、どんな未来を描いているのか、シンワワイズホールディングスの代表を務める倉田陽一郎氏に話を聞く機会を得た。

 

「小さい頃から絵を描くことが好きで、大学時代は学内で唯一100年くらい続く伝統ある美術系のサークルに入っていました。ですがある時に、描くのには才能も必要だな、と気づき、アートは趣味にしようと決めて金融業界へ就職しました。イギリスのマーチャントバンクやオランダのプライベートバンクを経て、30歳で独立しました」

 

 倉田氏のキャリアは、意外にも金融業界からスタートした。そのまま順調に金融のエキスパートへの階段を登っていくのかと思われたが、ひょんなことからアートの世界に飛び込むこととなる。

 

「シンワオークションとご縁があって、オーナーの方々と話している時に“日本初の世界規模のオークションにしましょうよ”と言ったら、じゃあお前に任せるとなって(笑)、2001年に引き継ぎました。当時シンワオークションは11名ほどの会社で、それでも日本で一番大きいオークションハウスでした。日本には、世界のクリスティーズやサザビーズみたいな会社がなかったんです。だから、経済大国で富裕層も多い日本でのビジネスの可能性を確信していました」

 

 大きな決意を胸に社長に就任したわずか4年後。それまで誰も成し遂げられなかった、日本におけるオークションハウスの株式上場を実現する。しかし2000年代後半になると、世界を襲ったリーマン・ショックの波がやってくる。

 

「色々と手を尽くしてなんとか乗りこえ、規模を拡大させるべく動きました。そして2017年には、よりアグレッシブに経営できるようにと、会社をホールディングス化しました。すると、インフレの世の中がやってきた。30年に一度のチャンスを活かすべく、NFTアートやメタバースなど、新しい分野に積極的に挑戦しています」

 

 2021年10月には、日本初となるNFTアートオークションを開催し、落札率100%、最高落札価格は660万円を記録。その後も、本社を構える東京・銀座で国内外のデジタルアーティストたちによるNFTアート作品を集めた展覧会を継続的に開催し、東京がNFTアートの発信源となるような取り組みを積極的に行っている。

 

 

2022年2⽉に開催された第1回に続き、12月に開催された2回⽬の『デジタルアート・ウィーク2022 Ⅱ』では、シンガポールを拠点に世界で活躍する若きキュレーター、Warren Wee (ウォーレン・ウィー)を抜擢。銀座で開催された展覧会とあわせて、世界中のどこからでも閲覧できるバーチャルギャラリーも登場した。展⽰作品は会場とは少し異なるが、すべての作品をメタバースギャラリーで購⼊できる。

 

 

 

 NFTアートとは、“代替不可能トークン”をアート作品に付与することで、その作品が唯一無二のものであることを保証したデジタルアートのこと。これまでのアート作品が抱えてきた“贋作問題”を、限りなくゼロにすることを可能にした。倉田氏は、NFTアートの登場は必然的なものだと感じているようだ。

 

「“素材”が変わった、という単純な話です。アートは、ラスコー洞窟で岩の上に絵を描いたところから始まり、その後、キャンバスに油彩で描いたり、紙や絹の上に岩絵具や墨で描いたりと、人類の生活の変化のプロセスの中で、素材とそれをどう利用して作るかが重要なポイントとなってきました。20世紀に写真が出てきたことによって、“実物と同じように描くこと”に大きな意味を見出していた時代が大きく変わりました。昨今のこの状況も、アートが進化していく大きなプロセスのひとつに過ぎないのです」

 

 

 

メタバースに必要不可欠なNFTアート

 

 多くのことがスマートフォンで済むようになり、紙媒体は電子書籍に、アートもデジタルへ……我々は今、大きな端境期にいる。しかし、倉田氏はデジタル化していく世の中だからこそ、アートの存在が一層重要な存在になっていくと語る。

 

「アートがないと、文化がない。文化がないと、人間は楽しくない。アートを手がけるプロとして、アートが生み出すパワーをいかにデジタル空間でシェアしていくのかが最重要課題だと思っています。弊社が手がけている『江戸バース』の世界も、その点ではまだまだこれからです」

 

「江戸バース(Edoverse)」とは、同社が目下開発中のメタバースだ。“いま、江戸があったら”をコンセプトに、徳川家の次期第19代当主である徳川家広氏監修のもと仮想空間が造られている。最新のブロックチェーンによって管理されており、ユーザーはアバターとして江戸城のなかを見学したり、城下町を散策したり、ゲームを楽しんだり、友人と遊んだり話ができるという。

 

 

現段階で公開されている「江戸バース」の一部分。

 

 

 

 本格ローンチは2023年とのことだが、土地や刀がNFTとして既に販売されており、初めて2022年7月に販売された「大名小路地区」の土地は、開始1時間で売り切れてしまったほどの盛況ぶりだ。

 

「江戸バース」では、江戸城が観光名所として設定されていたり、当時到底なかったであろう施設が存在していたりする。時間軸をあえて“今”にすることで、歴史的背景や事実にとらわれすぎない仮想空間を目指しているのだ。既存のメタバースに自社のギャラリーを構えるオークションハウスはあれど、独自のメタバースを自ら開発しているオークションハウスは、世界でも珍しい。

 

「まずはかつて大名屋敷が10邸くらいあった、現在皇居近くの松林がある場所に美術館を作って、加山又造のNFTアート作品を飾る予定です。来年の3月ごろまでの実現を目指しています。将来は、琳派や狩野派など、いろいろな芸術が花咲いた江戸時代の絢爛豪華なアートを世界中の人々にお見せしたいと思っています」

 

 直近では、本田圭佑氏がGMを務める実在の社会人サッカーチーム「Edo All United」の本拠地として、サッカースタジアムを作ることを発表している。メタバースのなかだけで完結してしまうのではなく、現実世界との“つながり”を至るところにちりばめているのだ。

 

「それが最も重要と考えています。『江戸バース』では地方も巻き込んでいきたい。参勤交代時代の各藩邸にNFTの土地を設けて、そこでなんでもできるような仕組みも作っています。ご当地の物産紹介や観光案内ができるような。そうすることで地方を活性化させたいのです」

 

 専用のトークンであるKobanやZeniといった仮想通貨が利用できるため、物を売ることなどで実際に稼ぎを得ることもできる。とはいえ、世間ではメタバースは失敗するという声が多かったり、仮想通貨の暴落のニュースなどを受けて不安感を覚えている人も増えていたりするが、倉田氏はその考えを一蹴する。

 

「壮大な人類の挑戦だと思っています。暗号資産が終わったとか、メタバースはもうだめとか言われていますが、全く違う。今が入り口の入り口。これまでと大きく違うのは、今までみたいな誰かがひと勝ちするような産業にはならないということです」

 

 

 

 

 

“サステナブル”の最たるものとは

 

 倉田氏がメタバースによって、この世の中にもたらしたいと考えている恩恵は、ただのエンターテイメント要素だけではない。

 

「世界の誰もが、『江戸バース』でお金を稼ぐことで、1日でも、1ヶ月でも食費を稼げるようになってほしい。現実の世界ですら、ゲームじゃないですか。国という体制が出来上がったことで、たくさんお金を集めた人が勝つゲームみたいなものができたと思っています。一番の問題点は、儲けるところまでしか考えられていないこと。大量生産して、大量消費するところで終わってしまって、大量廃棄の部分がおざなりにされている。今人類は生存の危機に瀕しています。僕の構想では、メタバースの中でゴミは出ない。メタバースを活用することによって、現実世界で人類が出すゴミの量を10分の1、100分の1にして、それをリサイクルしていけば、本当にサステナブルな世界が可能になると思っています」

 

 メタバースとサステナブル。関連があるように思えないふたつだが、メタバースの中で時間を過ごせば、余計な燃料やエネルギーも使わないし、ゴミも出ない=サステナブルな世界に近づけるというわけだ。NFTアートについても、サステナブルと密接に関連していると倉田氏は言う。

 

「アートって実はゴミが出続けるものなんです。木彫刻は木屑が出るし、油彩は毒性のある絵の具もあります。今までそういったサステナブルではない点を、アートだからと目を瞑って評価してきました。NFTアートは、電力の消費しかない。電力をいかに効率的に作るか人類がうまく考えることができれば、究極にサステナブルだと思います。それを考え尽くしたのが、映画『マトリックス』ですよね。あれこそ人間が電気のジェネレーターとなった、究極の持続可能社会です。人類は20年以上前からそういうことを考えていたということ。僕らにはその方向へと進んでいく必然性があると感じます」

 

「江戸バース」が、日本の主要のメタバース空間になれば、世界で利用されている別のメタバース空間と繋げられるようになるという。そうすると、わざわざ海外へ飛行機で行く必要もなく、睡眠時間以外の半分くらいを人類はメタバース空間で過ごすようになる。

 

「仕事だって、なんだってそこでできてしまう。そんな世の中があと10年から20年で実現すると確信しています。1990年代前半に、スマートフォンでビデオ通話できる生活は、ウルトラマンの世界くらいでしたよね(笑)。開発のスピードも年々早くなってきているので20年後には絶対に実現しているはずです。生きているうちに江戸バースを完成させたい。江戸バースの中で生きて、江戸バースの墓に眠る。これがいまの僕の目標です。僕らの手がける江戸バースは近い将来、メタバース業界の中心にいるはずです。注目していてください」

 

 そう語る倉田氏の目には、未来への希望が満ち溢れていた。日本発の「江戸バース」は、きっと世の中を大きく変えていくのだろう。NFTアートとメタバースなしには生きられない時代はすぐそこまできているのかもしれない。

 

 

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