POCKET GUIDE: A HIGHER CALIBRE

顔パス紳士は
ふたつの名前を持っている

May 2021

 

比類なきウォッチコレクターとして名を馳せる彼は、ジョン・ゴールドバーガーというペンネームでも知られその業界では帝王とまでいわれている。

そんな彼のワードローブを我々が無視できるだろうか。

 

 

text tom chamberlin

translation wosanai

photography kim lang

 

 

 

 

Auro Montanari/アウロ・モンタナーリ

ボローニャ在住。世界で著名なウォッチコレクターのひとりであり、ペンネームのジョン・ゴールドバーガーでパテック フィリップやロレックス、オメガに関する書籍を多数出版している。歴代のモーターレーサーとクルマ、そして彼らとともにあった時計について綴った新たな書籍『Time To Race(原題)』を近日出版予定。

 

イタリアンクラシコなダブルブレステッドスーツは、30年前にボローニャで仕立てたもの。アウロ同様に美しくスタイリッシュに年を重ねた美品である。「ダブルブレストが大好きでよく着るんだ。一番下のボタンを留めることが多いね」ヨーロッパの大陸側ではよく見られる着方で、チフォネリだとこれをハウススタイルとしていたりもする。こういったノンシャランなスタイルからは我々も学ぶことが多い。

 

 

 007シリーズ『カジノ・ロワイヤル』のヴェスパー・リンドに言わせれば、“ここにウォッチコレクターとウォッチコレクターがいるわ。アウロ・モンタナーリ、あなたは後者よ”ということになる。彼こそが“本物”なのだ。 ジョン・ゴールドバーガーというペンネームで出版されているパテックフィリップやロレックス、オメガに関する著書で名声を獲得した彼は、ほぼすべてのウォッチオークションへの出入りを許されている。

 

 昨今のラグジュアリー業界は少々洗練さに欠けるところが見受けられるが、彼がその場にいると本物の品と格を感じさせてくれる。私が初めてアウロに会ったのは、ニューヨークで開かれたTHE RAKEとMr Porterの共同主催によるパテック フィリップのオークションであった。彼の存在感は顕著で、彼の旧友やオークションを仕切る側の人間も彼に一目置いているのは明らかだった。

 

 

アウロに会ってまずしなければいけないことは、彼の手首を確認することだ。そうしなければ、どんな時計好きをも失望させることになるだろう。彼の服装と調和している控えめでエレガンスな一本は、ラルフローレンのもの。特別にジャンピエロ・ボディーノ氏がデザインしたモデルだ。レザーストラップはエルメス。今から6年前に自身で購入。

 

 

 しかし彼は、自分の置かれている立場をこれ見よがしに誇示するような無粋な人間ではない。そうでなければ、そもそも誰も彼に敬意を払わないだろう。

 

 内面のエレガンスは外面に反映される。ご覧の通り、アウロは派手好きな性格ではない。ブラックタイからジーンズにカーディガンまでスタイリッシュに着こなす。身長が高く、完璧なコーディネイトと計算されたフィッティング……それに起因してか彼の所作からも自信がうかがえる。

 

 

 

左:“インフォーマル・シック”は彼の代名詞。ヴィンテージのポロシャツは、バランタインのもの。ビスポークスーツともこの相性の良さである。「パームビーチのフリーマーケットで買ったんだ。ネクタイが大好きというわけでもなくてね」/右:世界的に有名なスタイリッシュな人物なら、とりわけそのコーディネイトが秀でているものだ。ポロシャツ、ウォッチストラップ、シューズそしてこのE.マリネッラのポケットチーフ……これがマスタークラスの審美眼である。小さなディテールが大きな違いを生むことに今一度気づかせてくれる。

 

 

アウロがご執心のこの財布は、遊び心のあるGUCCIのもの。「蛇のロゴが気に入ったんだよ。おもしろいだろ」普段は上着の内ポケットにしまっているため、ひけらかすものでは決してないが、気を抜いて良いものでもない。

 

 

この写真だけを見ると、ちぐはぐな印象を受けるかもしれない(室内のカーペットの上で撮ったものだし仕方ない)。木を見て森を見ずでは成り立たないのが、コーディネイトの妙なのだ。スリッポンのシューズはイタリア製であるが、革はイギリスのコノリーのもの。

 

THE RAKE JAPAN EDITION issue34