POCKET GUIDE: Jason Arday
【世界のファッショニスタに学べ】ジェイソン・アーデイ:ケンブリッジ大教授、 そしてビスポークの達人
February 2025
ジェイソン・アーデイは、英国の社会学者であり作家である。ケンブリッジ大学史上、最年少の黒人教授となった人物でもある。さらに彼は、ビスポークスタイルについても私たちに多くを教えてくれる存在だ。
text tom chamberlin
photography kim lang
Jason Arday/ジェイソン・アーデイ
ケンブリッジ大学教育学部の教育社会学教授で、同大学史上最年少の黒人教授。1985年、ロンドン生まれ。自閉症と発達遅延と診断され、11歳まで話せず18歳まで読み書きができなかった。しかし、サリー大学で学士号、リバプール・ジョン・ムーア大学で修士号と博士号を取得。ダラム大学やグラスゴー大学で教授職を務めた後、2023年にケンブリッジ大学教授に就任した。彼の研究は、教育における人種的不平等、精神的健康、神経多様性に焦点を当てている。
ジェイソン・アーデイは本当に感動的な人物である。彼の名前を知らない人も多いかもしれないが、彼の自己宣伝に満ちたSNSページを探しても見つからない。それは彼の流儀ではないからだ。彼は静かに、しかし着実に活動を続けている。この文章が生まれるきっかけとなったのも、たまたま私がハンツマンで彼と出会ったことによる。
ジェイソンを知らない人のために説明すると、彼はケンブリッジ大学で教育社会学の教授を務めている。ケンブリッジで最年少の教授のひとりであり、彼の年齢で教授に任命されたのは、ケンブリッジ史上スティーヴン・ホーキングを含むわずか3人しかいない。
しかしジェイソンの人生は、決して順風満帆ではなかった。彼は自閉症を抱え、11歳まで言葉を話すことができず、読み書きができるようになったのは18歳のときであった。それにもかかわらず、彼は現在、博士号を取得し、英国王立芸術協会のフェローにも選ばれている。さらに、彼はチャリティー活動で数百万ポンドを集め、2012年ロンドンオリンピックでは聖火ランナーを務め、35日間で30のマラソンを走破した。また、ホームレス問題への支援にも取り組んでいる。
私の人生の中で彼と比較できることなどほとんどない。例えば、私の運動習慣といえば、週に1~2回のバックギャモンの試合くらいである。しかし、私たちはとても重要なテーマで意気投合した。それは、ビスポークテーラリングへの情熱である。
ジェイソンは10代の頃からオーダーメイドの衣服に夢中で、現在では素晴らしいワードローブを揃えている。そこで今回、彼のスタイルを象徴するアイテムの数々を見せてもらうことになったのだ。
ショールカラーのウエストコートは、ジェイソンが「世界で最高のカッター」と評するハンツマンのヘッドカッター、ダリオ・カルネラが仕立てたものである(THE RAKEもダリオの大ファンであり、この評価に異論はない)。このウエストコートはネイビーのチョークストライプのフォックス製フランネルで作られている。「他の人が着ているウエストコートを見るのは好きだったけれど、自分で着るのはあまり好きではなかった。でもダリオが試してみるよう勧めてくれたんだ」とジェイソンは語る。このウエストコートには、見事なオックスフォードバッグス(幅広のトラウザーズ)が合わせられている。ジェイソンが愛するスタイルであり、ケンブリッジの教授という立場にもぴったりだと感じているそうだ。彼がスーツを注文するときは、必ずトラウザーズを2本作るようにしており、そのうちの1本は必ずオックスフォードバッグスであるという。
チャーチのタッセルローファーは、2015年に教育社会学の博士号を取得した際に、自分へのご褒美として購入したものだという。「当時の夢は、ハンツマンのスーツとチャーチの靴を持つことだったんだ」とジェイソンは語る。購入からほぼ10年経った現在も、彼はこの靴を丁寧に手入れし、磨き続けている。彼にとって大切な一品である。
指輪は木製で、コーンウォールのビスポークジュエリーメーカーであるジャスティン・デュアンスによるもの。「私はジュエリーにはあまり興味がないほうですが、木製のジュエリーは大好きなんです」とジェイソンは語る。この指輪は「とても大切な家族の一員」から贈られたものだという。男性にとってジュエリーはしばしば議論の的となり、扱いが難しいものとされるが、簡潔で自然に身に着けられる男性もいる。ジェイソンはまさにそのタイプである。
ブレスレットは家族のひとりから贈られたもので、指輪と同じく彼にとって非常に大切な思い出の品となっている。シャツのダブルボタンのカフスに隠れることが多いが、ほとんど身から離すことはない。
バンドカラーのシャツは、ジェイソンのトレードマークともいえる存在だ。彼はネクタイを着用することに抵抗があるわけではなく、実際に着用している姿もよく見られるが、このシャツは彼のアカデミックなスタイルによりマッチしている。そして、実用性も備えている。「学生たちの卒業式に出席することが多いので、この襟ならガウンを着るときに手間がかからなくて助かるんだ」と彼は語る。